LUNA SEA特集 #5|J 炎の如く情熱を燃やし続けるロッカー、絶対的存在感の雄々しきベーシスト

結成30周年! LUNA SEA特集 #5|J

LUNA SEAの熱きロック・ベーシスト、J。数ある代表曲の一つ「ROSIER」の原曲を生み出したのはJで、SUGIZO(Gt,Vln)のギターソロに乗せ英詞を読み上げ、シャウトの後にマイクスタンドを勢いよく放り投げる一連のパフォーマンスは痛快。

コロナ禍による制約で、残念ながら観客は歓声を堪えなければならないが、何度観ても、こうして思い出すだけでも鳥肌が立つ、ライヴに欠かせない見せ場であり続けてきた。


大きく両脚を開いて重心低くベースを構え、力強いピッキングから繰り出すサウンドは凛として躍動的。頼れる兄貴として多くの後輩アーティストから慕われ、このご時世となる前はダイヴ多発の熱狂空間だったソロライヴには多くの男性ファンが詰めかける、同性にとっての憧憬の的でもある。


炎の如く情熱を燃やし続けるロッカー、絶対的存在感の雄々しきベーシスト。Jのパブリックイメージをキャッチフレーズ化するなら、そのような表現が思い浮かぶ。そんなJが、あるいはそんなJだからこそ、LUNA SEAの最新オリジナル・アルバム『CROSS』(2019年12月)の世界で彼が見せている新たな一面は驚きをもたらし、人物像へのさらなる興味を掻き立てている。

中学時代にINORAN(Gt)と出会ったJは、高校生になるとLUNACYを結成。別のバンドで活動していたSUGIZOと真矢(Dr)が合流し、最後にRYUICHI(Vo)が加わって現在の5人体制のLUNA SEAとなったのは1989年のことである。

人と同じことをしていたら生き残れない激戦のライヴハウスシーンをLUNA SEAは勝ち抜き、Jは自分にしかない固有の表現を徹底的に磨いていく。


Jの表現の根底に感じる気高さと品性

1997年のLUNA SEA活動休止期に、他のメンバー同様Jもソロ活動をスタート。以来、20年以上にわたりベース&ヴォーカリストとしてキャリアを積み上げ、11枚のオリジナル・アルバムをコンスタントに発表、精力的なライヴ活動を繰り広げてきた。

アメリカン・ロックのヘヴィーなサウンド、うねるようなグルーヴ感を基軸に、グランジやオルタナティヴのエッセンスも織り交ぜながら生み出されて来た数々のJソロ曲たち。1stアルバムのタイトル『PYROMANIA』は放火魔を意味し、ファンクラブ名「Pyro.」もそれにちなんでつけられている。タイトル曲「PYROMANIA」は今なおライブの定番であり、曲中、ファンがフロアでライターで炎を一斉に灯す場面には感動で溜息が零れる。



また、コロナ禍における挑戦として開催してきた無観客配信ライヴでは、リアルタイムで寄せられるファンのコメントを積極的に読み上げ、一体感を損なわない温かいコミュニケーション空間を立ち上げていた。放火魔だなんて大胆不敵で物騒で、行儀の良さとは掛け離れたコンセプトだが、なぜか嫌悪感が全く湧かないのは、Jの表現の根底に気高さ、品を感じるからかもしれない。



コロナ禍に見舞われるよりも前から、ソロでもLUNA SEAとしてのライヴでも、会場に惜しくも足を運ぶことのできなかったファンの存在に必ず言及してきたのがJである。そこから感じ取れるのは、目に見えないものに想いを馳せ、人を思いやる温かなメンタリティーだ。

自身が兄貴として多くの後輩たちに慕われるのと同様に、Jはhideを「hide兄」と慈しみを込めて呼び、慕い続けていることは、インタビュー取材やライヴでの発言からひしひしと伝わってくる。たとえ直接会うことはもう叶わなくても、今も共に生きている。Jはそんな考えを持っているのだなと常々感じられ、励まされもして、その姿勢から学ぶことが多かった。


「次会う時まで、絶対にくたばるなよ!」とJがライヴの去り際に放つ決まり文句も、「今生きている、ということは決して当たり前ではないのだな」と毎回身の引き締まる思いがしたし、今の状況になってみると、それはさらに痛切に胸に刺さる事実でもある。また、これはLUNA SEAを知る人の間では周知のエピソードだが、「ROSIER」でJが読み上げる英詞は、スランプに陥っていた弱い自分自身と決別し、葬るための遺書というコンセプトで綴られている。

そのように、具体的にも抽象的にも死について日常的に思いを巡らせ、「自分はどう生きるべきなのか?」というシリアスな問いを突き付けながら、Jは生きているのだろう。その切実さと緊張感がJの音楽に刃物のような切れ味を生み、同時に慈悲深さを与えているのだと思う。


ブレないJが見せた大きな変化

「ROSIER」同様、J原曲の「STORM」(LUNA SEA)もそうだが、怒涛の疾走感とヘヴィーさを誇りつつ、そのメロディーラインには必ず美しさが宿っているのも特徴的。また逆に、穏やかなバラードに対しては、落ち着きだけではなく刺激を、生き生きと弾むようなグルーヴをJの紡ぐベースラインは付与していく。
雄々しくはあるのだが、粗雑でもなく強引でもない。強くて繊細。一見相反するようだが、そのハイブリッドな資質と感性がJの本質であり、魅力の根源なのではないか?と考える。

変わらない、ブレない魅力が目立つJではあるが、2020年代に突入してJが見せている大きな変化にぜひ着目してほしい。2020年2月にスタートした途端コロナの影響で中断、1年以上にわたり延期・再延期を繰り返していた全国ツアー『LUNA SEA 30th Anniversary Tour 2020 -CROSS THE UNIVERSE-CROSS』が2021年6月に再開しており、各会場でJの新しい姿を目撃できるはずである。


ネタバレにはなるのだが、すでに3月のさいたまスーパーアリーナ振替公演や5月末の東京ガーデンシアター3DAYSでも披露しており、書き記しておくべきLUNA SEA史上の“事件”だと考え、こうして筆を執っている。

具体的には「PHILIA」において、Jは曲間でベースを背中に回し、なんと、ピアノ演奏に挑戦しているのである。勇ましいベースプレイとは対照的な、エレガントで紳士的な姿を突如見せつけられて、そのギャップにファンは大歓喜。2020年2月のツアー初日・三郷市文化会館では、思いもよらぬパフォーマンスに驚いた観客が絶叫、会場に地鳴りのようなどよめきが湧き起こった。



LUNA SEA特集 #5|J 炎の如く情熱を燃やし続けるロッカー、絶対的存在感の雄々しきベーシスト

また、ドラマティックなプログレナンバー「静寂」では、RYUICHIのヴォーカルラインで影のように並走する、Jの囁く英詞も大きな聴きどころ。『CROSS』の共同プロデュースを手掛けた世界屈指のプロデューサー、スティーヴ・リリーホワイトがJの美声と英語を喋る姿を見込んで提案したそうで、Jのウィスパー・ヴォイスは楽曲のミステリアスな魅力を増幅させている。ソロ活動でヴォーカリストとして磨いて来た歌の表現力がLUNA SEAにもフィードバックする、良好な相互作用の証でもある。


さらに言えば、曲の序盤でベースの出番がないような曲での立ち姿すら美しく、絵になることにも近年、改めて感じ入っている。ツアーを体感する機会のある方は、ぜひJの新たな一面に触れていただきたい。


ピアノや歌唱、佇まいのことを先に書いてしまったものの、当然のことではあるが、ベーシストとしての表現もますます深まっている。例えば、『機動戦士ガンダム』40周年プロジェクトのテーマソングであり、LUNA SEAの30周年の軌跡も透けて感じられるバラード
BEYOND THE TIME〜メビウスの宇宙を越えて〜」
が象徴的だ。Jがゆったりと落ち着いた運指で爪弾くいわゆる白玉(全音符)、スラーで滑らかに結ばれた音色の味わい深さは、30年という年輪を刻んで来たアーティストだからこそ持ち得る説得力に満ちている。

また、2019年にはフェンダーと新規に全世界規模のエンドースメント契約を結び、長年培ってきたサウンドを守るだけでなく、新たな愛器を手に未知なる世界を切り開いていく、攻めの姿勢も打ち出した。変わらないように見えるのは、常に変化しているから。Jの姿が教えてくれるのは、そんな逆説的な真理である。
(大前多恵)


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●LUNA SEA特集


【#1】RYUICHI 歌に身を捧げることを無上の喜びとする求道者
【#2】SUGIZO 弱者のために声を上げ続け、音楽を捧げる、稀代のロックスター
【#3】INORAN “風”のように“凝り固まる”こととは程遠い可変性が魅力
【#4】真矢 熱く人間的なドラミングで魅せる一方、静寂の存在を浮き彫りにする名手

【#5】J 炎のように情熱を燃やし続け、軸がブレない雄々しきベーシスト

※次回LUNA SEA特集を更新しましたら、Twitterでお知らせします

ライヴ情報

【LUNA SEA 30th Anniversary Tour 20202021 -CROSS THE UNIVERSE-】

■南相馬市民文化会館ゆめはっと大ホール
2021年7月31日(土)※2020年3月14日(土)より再延期・振替
2021年8月1日(日)※2020年3月15日(日)より再延期・振替
問い合わせ:ニュース・プロモーション(TEL.022-266-7555)

■宇都宮市文化会館大ホール
2021年9月1日(水)※2020年2月27日(木)より再延期・振替
2021年9月2日(木)※2020年2月28日(金)より再延期・振替
問い合わせ:クリエイティブマンプロダクション(TEL.03-3499-6669)

■仙台サンプラザホール
2021年10月2日(土)※2020年4月25日(土)より再延期・振替
2021年10月3日(日)※2020年4月26日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードー東北(TEL.022-217-7788)

■上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)
2021年10月23日(土)※2020年3月28日(土)より再延期・振替
2021年10月24日(日)※2020年3月29日(日)より再延期・振替
問い合わせ:HIGHERSELF(TEL.082-545-0082)

■大阪国際会議場メインホール
2021年11月29日(月)※2020年4月4日(土)より再延期・振替
2021年11月30日(火)※2020年4月5日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードーインフォメーション(TEL.0570-200-888)

■本多の森ホール(旧石川厚生年金会館)
2021年12月4日(土)※2020年3月7日(土)より再延期・振替
2021年12月5日(日)※2020年3月8日(日)より再延期・振替
問い合わせ:FOB金沢(TEL.076-232-2424)

■神戸国際会館こくさいホール
2021年12月20日(月)※2020年5月2日(土)より再延期・振替
2021年12月21日(火)※2020年5月3日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードーインフォメーション(TEL.0570-200-888)

関連リンク

■LUNA SEA オフィシャルサイト
■J オフィシャルサイト


Writer

大前多恵


ライター・編集者/NHKディレクターを経てロッキング・オン入社、2006年独立後はフリーランスに。音楽家や俳優など、表現者へのインタビュー取材を中心に活動中。ライブレポート、作品レビュー、書籍編集、語り起こし本の執筆、物語の創作なども。

関連サイト
トロイメライの庭
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