LUNA SEA特集 #2|SUGIZO 弱者のために声を上げ続け、音楽を捧げる、稀代のロックスター

結成30周年! LUNA SEA特集 #2|SUGIZO

LUNA SEAのギタリスト、ヴァイオリニストであり、メインコンポーザーのSUGIZOX JAPANには、YOSHIKIに乞われ、またLUNA SEAメンバーからの後押しも受け、熟考の末2009年に正式加入。HIDEのパートを担うだけでなく、バンドが未来に向かっていくために力を尽くしている。


サイケデリックトランスの始祖であるJUNO REACTORのメンバーとしてもワールドワイドに活躍してきた。97年にスタートさせたソロ活動では、電子音楽と生演奏のハイブリッドによる唯一無二のスタイルを確立、近年ではモジュラーシンセイザーも自ら操作。また、サイケデリック・ジャムバンドSHAGを昨年12年ぶりに復活させ、即興演奏を磨き、憧れのBLUE NOTE TOKYOのステージにも立った。

少年時代から愛してやまない『機動戦士ガンダム』40周年プロジェクトでは音楽監督を務め、LUNA SEAとして主題歌を務めるのみならず、数々の楽曲プロデュースも手掛けた。


このように音楽家としてだけでも多様な顔を持つが、社会活動家としても意欲的に発信。戦禍で傷付いた人々に寄り添い、難民支援に取り組み、核に反対し、震災や台風に見舞われた街に身一つで駆け付けボランティア活動に勤しむ。世界平和が叶わない限り、自分の幸せはない――そう本気で思っていることに疑いの余地がない、驚くほどに純粋な男がSUGIZOなのである。

自分ではなく、他者のために

両親共にオーケストラ団員という家庭でクラシックの厳しい英才教育を受けて育ったSUGIZOは、幼少期はその環境に苦痛を覚えながらも、楽典に則った緻密で構築的な作曲能力を身に付け(時にはあえてそれを無視し)、ロック、ジャズ、ファンク、ソウル、テクノ、ニューウェーブ、現代音楽、各国民族音楽や邦楽……とジャンルも国境も超え多種多様な音楽を咀嚼し、独自の配合でポピュラーミュージックとして編み上げる偉才である。


高校の同級生である真矢と意気投合し、ベーシストとしてバンドマンとしてのキャリアをスタートするが、ほどなくギタリストに転向。カモメやイルカの鳴き声のように聴こえる神秘的なフレーズも、野獣の咆哮もしくは猛り狂うエンジンのような轟音も、ファンキーなグルーヴを持つカッティングも、全てに一瞬で「SUGIZOの音だ」と判る刻印がある。

LUNA SEAのライヴでは特に、立ち居振る舞いも壮麗で、吹き上がる風を受けジャケットの裾をなびかせながら大胆に仰け反る姿には、大見得を切る歌舞伎役者に送られるような拍手喝采が湧き起こる。そのようなパフォーマンスは元来、自らが注目を求めるためのアピールであるはずで、活動初期はそうであったかもしれないが、SUGIZOは最早その境地にはいない。



LUNA SEA特集 #2|SUGIZO 弱者のために声を上げ続け、音楽を捧げる、稀代のロックスター

音楽の質、演奏の良さは当然の前提として、LUNA SEAのアート、ロック・ショウをいかにエンターテインメントとして充実させ、観客を満足させられるか。
求めるのは総合的なクオリティー向上である。ギリギリまで粘って少しでもアップグレードさせる努力をし、開演時間を迎えたらその時点で出しうるベストを披露するのみ。

ライヴ後のSUGIZOが口を開けばまずは反省が飛び出す。満足の言葉を耳にしたことは、私の知る限り一度もない。完璧を追求するためには甘えを許さない人だが、最も厳しいのは自分自身に対してであるように見える。

自分ではなく、他者のために――SUGIZOが近年貫くそのアティテュードの根底には、ナルシスティックな陶酔とは真逆の、奉仕の精神がある。そもそもSUGIZOが社会活動に目覚める発端となったのは、1998年、コソボの紛争で空爆の被害に遭っている幼い子どもたちの姿を目にしたこと。愛娘の姿を重ね合わせ、「他人事ではない」と胸を痛め、難民支援へと踏み出していく。


人生の苦境を乗り越え、社会貢献へ

2000年にLUNA SEAが“終幕”した後、2003~2006年頃、とあるトラブルに巻き込まれたSUGIZOは経済的にも精神的にもどん底を味わうこととなる。その最中2006年からJUNO READTORに参加、2007年には『GOD BLESS YOU 〜One Night Dejavu〜』でLUNA SEAが東京ドームで一夜限りの復活を果たし、2009年にはX JAPANに正式加入。2010年にはLUNA SEAは“REBOOT”と銘打って再始動を開始する。

音楽に対する完璧主義は変わらぬままで、細部にこだわり抜くが、人生最大の苦境を乗り越えた今をSUGIZOは“余生”と呼び、音楽に集中できている状況に感謝の言葉をしばしば述べる。富や名声に執着したり、見返りを求めたりすることもない。
音楽を生み出しては捧げ、弱者のために声を上げ続けている。

東日本大震災による原発事故が起きるよりもずっと前から、SUGIZOは六ヶ所村の核燃料再処理施設に足を運んで放射能汚染について学びを深め、坂本龍一によるSTOP ROKKASHYOプロジェクトに参加、反原発の活動に取り組んできた。


また、長年に渡って再生可能エネルギーの普及に力を注ぎ、近年はグリーン水素由来の電力をLUNA SEAのライヴで使用し続けている。その試みは、LUNA SEAの最新オリジナル・アルバム『CROSS』でプロデュースを務めたスティーヴ・リリーホワイトとの縁を介し、U2の来日コンサート(2019年12月)における同電力の使用に繋がり、全世界に発信される大きなニュースとなった。

自らのロックスターとしてのキャリア、ネームバリューをある意味活用し、社会に貢献していく。その姿には尊敬の念を抱かざるを得ず、学ぶところが大きい。



自身初の全編アンビエント作品を制作

結成30周年を記念したLUNA SEAのツアーは2020年2月にスタートしたものの、コロナ禍の影響で中断。日本社会にまだパンデミックの脅威を正しく理解できていないムードが漂っていた当初から、SUGIZOは強い危機感を抱き、事態の長期化を予見していた。

本来ならばゲストヴォーカリスト達を迎え、ヨーロッパでのレコーディング準備を進めていたソロ・アルバムの企画も延期を余儀なくされ、代わりに生まれたアルバムが『愛と調和』(2020年12月リリース)。インスピレーション源は生命力に満ちた屋久島と縄文文化。コロナ禍で露呈した現代社会の歪みの元凶が“利己性”だとすれば、その真逆の“利他の精神”で平和が保たれていた縄文時代をヒントに、聖水のごときヒーリング効果を誇る自身初の全編アンビエント作品を作り上げた。

LUNA SEA特集 #2|SUGIZO 弱者のために声を上げ続け、音楽を捧げる、稀代のロックスター
画像出典:Amazon.co.jp「SUGIZO『愛と調和』

そして現在、上述した即興プロジェクトSHAGの動きを活性化させており、『愛と調和』の対極とも言える刺激に満ちた暴虐のサイケデリックワールドを展開中。コロナ禍で傷付いた人たちの心を癒す『愛と調和』、人を傷付ける社会の在り方そのものに対しNOを突き付ける、いわば“自由の権化”であるSHAGの音楽活動。
中断・延期の末6月から振替公演として各地で再開していく母体LUNA SEAのツアーを軸に、2021年のSUGIZOの表現、社会活動は更に加速していく。


SUGIZOの多忙さは今に始まったことではないが、プロジェクトの数が増えそれぞれの濃度も高まっている近年、休息を取れているか心配になるのも事実である。ライヴ本番前はヘア&メイクを受けながら手元ではギターを練習し、リハーサル映像を観返しながら撮影・照明・映像チーム、監督に修正の指示を出し、合間に食事をしたりヨガマットを敷いてストレッチしたりもする。同時に様々なことが起き過ぎて、取材メモを取る手が追い付かないほどである。


SUGIZOは、世界平和を真剣に夢想する音楽家という意味ではジョン・レノンのようであり、時代やプロジェクト、作品ごとに多様な音楽性・姿を見せる点ではデヴィッド・ボウイであり、社会活動家としての発信、行動においてはU2のボノであり、仕事の同時処理能力においては聖徳太子的。

音楽の力を信じ、人の心を見つめ、社会への働き掛けをやめないSUGIZOは、超人的であると同時にこれ以上ないほど人間的な、厳しくも温かい、稀代のロックスターである。
(大前多恵)

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●LUNA SEA特集


【#1】RYUICHI 歌に身を捧げることを無上の喜びとする求道者
【#2】SUGIZO 弱者のために声を上げ続け、音楽を捧げる、稀代のロックスター
【#3】INORAN “風”のように“凝り固まる”こととは程遠い可変性が魅力
【#4】真矢 熱く人間的なドラミングで魅せる一方、静寂の存在を浮き彫りにする名手

【#5】J 炎の如く情熱を燃やし続けるロッカー、絶対的存在感の雄々しきベーシスト

※次回LUNA SEA特集を更新しましたら、Twitterでお知らせします

ライヴ情報

【LUNA SEA 30th Anniversary Tour 20202021 -CROSS THE UNIVERSE-】

■会場:福岡サンパレス
2021年6月12日(土)※2020年3月21日(土)より振替
2021年6月13日(日)※2020年3月21日(日)より振替
問い合わせ:キョードー西日本(TEL.0570-09-2424)

■松山市民会館 大ホール
2021年6月26日(土)※2020年4月11日(土)より振替
2021年6月27日(日)※2020年4月12日(日)より振替
問い合わせ:DUKE松山(TEL.089-947-3535)

■札幌文化芸術劇場 hitaru
2021年7月3日(土)※2020年5月9日(土)より振替
2021年7月4日(日)※2020年5月10日(日)より振替
問い合わせ:WESS(TEL.011-614-9999)

■名古屋国際会議場センチュリーホール
2021年7月17日(土)※2020年5月14日(木)より再延期・振替
2021年7月18日(日)※2020年5月15日(金)より再延期・振替
問い合わせ:サンデーフォークプロモーション(TEL.052-320-9100)

■南相馬市民文化会館ゆめはっと大ホール
2021年7月31日(土)※2020年3月14日(土)より再延期・振替
2021年8月1日(日)※2020年3月15日(日)より再延期・振替
問い合わせ:ニュース・プロモーション(TEL.022-266-7555)

■宇都宮市文化会館大ホール
2021年9月1日(水)※2020年2月27日(木)より再延期・振替
2021年9月2日(木)※2020年2月28日(金)より再延期・振替
問い合わせ:クリエイティブマンプロダクション(TEL.03-3499-6669)

■仙台サンプラザホール
2021年10月2日(土)※2020年4月25日(土)より再延期・振替
2021年10月3日(日)※2020年4月26日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードー東北(TEL.022-217-7788)

■上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)
2021年10月23日(土)※2020年3月28日(土)より再延期・振替
2021年10月24日(日)※2020年3月29日(日)より再延期・振替
問い合わせ:HIGHERSELF(TEL.082-545-0082)

■大阪国際会議場メインホール
2021年11月29日(月)※2020年4月4日(土)より再延期・振替
2021年11月30日(火)※2020年4月5日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードーインフォメーション(TEL.0570-200-888)

■本多の森ホール(旧石川厚生年金会館)
2021年12月4日(土)※2020年3月7日(土)より再延期・振替
2021年12月5日(日)※2020年3月8日(日)より再延期・振替
問い合わせ:FOB金沢(TEL.076-232-2424)

■神戸国際会館こくさいホール
2021年12月20日(月)※2020年5月2日(土)より再延期・振替
2021年12月21日(火)※2020年5月3日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードーインフォメーション(TEL.0570-200-888)

関連リンク

■LUNA SEA オフィシャルサイト
■SUGIZO オフィシャルサイト


Writer

大前多恵


ライター・編集者/NHKディレクターを経てロッキング・オン入社、2006年独立後はフリーランスに。音楽家や俳優など、表現者へのインタビュー取材を中心に活動中。ライブレポート、作品レビュー、書籍編集、語り起こし本の執筆、物語の創作なども。

関連サイト
トロイメライの庭
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