結成30周年! LUNA SEA特集 #3|INORAN
LUNA SEAのメンバーのうち、2010年の“REBOOT”後、もっとも大きな変化を感じさせるのはINORAN(Gt)ではないだろうか? 2000年の“終幕”以前の静のイメージから、熱き動のイメージへ。90年代のINORANの残像は、2020年代の今、ほぼ消え去っている。かつてステージ上では一言も発することがなく、2007年の一夜限りの復活公演『GOD BLESS YOU 〜One Night Dejavu〜』でもその姿勢は貫かれていた。
ところが、REBOOT後2枚目のオリジナル・アルバム『LUV』(2017年)を携えたツアーあたりから、自らクラップしノリを先導するなど、観客との一体感を積極的に求める姿が見られるようになる。
2021年3月に開催された振替公演『LUNA SEA-RELOAD-』では、声援を禁じられているオーディエンスに代わって叫び、RYUICHI(Vo)の歌声にコーラスを重ね、溢れる想いを語った。コロナ感染から復活し、思わず涙をこぼす真矢(Dr)に笑顔で歩み寄り肩を抱いた、ハートフルな場面も忘れられない。その時の心情を後日取材で尋ねても、「覚えていない」と笑った。
もちろん、はぐらかされた可能性もあるが、準備や計算をしての行動ではなかった証なのかもしれない。ステージ上で感情を曝け出すことを恐れず、今という瞬間を燃焼させながら生きているINORAN。その姿は勇敢で、眩しかった。
LUNA SEAの原型を作ったJとの出会い
中学時代にINORANがJ(Ba)と出会い、結成したバンドLUNACYがLUNA SEAの原型である。92年にメジャーデビューし、上述のように2000年に終幕。INORANはLUNA SEAが活動休止していた97年からソロ始動し、これまでに14枚のオリジナル・アルバムをリリースしてきた。1stアルバムの『想』はDJ KRUSHを共同プロデューサーに迎え、ゲスト・ヴォーカリストを多数起用。LUNA SEAのサウンドからは想像の及ばないヒップホップ、アンビエントのサウンドスケープを織り成した。
自身の歌声はサウンドの一要素、という位置付けだったソロの出発点から、徐々にINORANはヴォーカリストとして開眼、エモーショナルな歌声を響かせるようになっていく(その影響はLUNA SEAでの積極的なコーラスワークにも反映)。SUGIZO(Gt)がソロでインストゥルメンタルを極めているのとは真逆の方向性なのも興味深い。
かつて憂いと翳りを帯びていたINORANワールドにやがて光が差し込んでいき、8作目のオリジナル・アルバム『Teardrop』(2011年)では初期衝動に振り切ったストレートなロック・サウンドで驚かせ、9作目の『Dive youth,Sonik dive』(2012年)ではそれを深化発展、全編英詞で綴られた本作を引っさげ初のワールドツアーに挑んだ。
コロナ禍の影響で2020年以降は配信ライブやアコースティック公演に特化しているが、近年のINORANソロのステージは実にパワフル。オーディエンスと熱を交わし合う真剣勝負といった印象で、会場の2階で冷静に着席している関係者を指さし煽る場面に遭遇したこともある。そこにいる全員で一つのライブをつくりあげる、そんな熱い現場なのだった。
冷気を帯びた退廃美をバンドに
LUNA SEAの音楽性において、かつてINORANはひんやりとした空気感の担い手であった。INORAN原曲による「gravity」や「FACE TO FACE」、「MOTHER」といった楽曲群にはそういった冷気を帯びた退廃美が宿る。LUNA SEAではギターソロをほぼ弾かないスタンスだが、一音一音が固有の輝きを放ち、空間を際立たせるアルペジオの名手であり、SUGIZOとのツインギターで編み上げて来たアンサンブルは後進バンドの手本であり続けている。
さらに、「BREATHE」のようなアコースティック・テイストの楽曲に感じられるのは、温もりと洗練を絶妙のバランスでミックスするINORANのセンス。早くからヒップホップのエッセンスを取り入れた楽曲づくりも行っており、軽妙なストリート感を持ち込んだのもINORANの功績だろう。
構築的なLUNA SEAの世界に揺らぎをもたらし、陰影やニュアンスを生む“風”のような存在。そよ風の時もあれば暴風の時もあるが、いずれにせよ“凝り固まる”こととは程遠い可変性が魅力である。
REBOOT後初のオリジナル・アルバム『A WILL』以降のLUNA SEAでは、ソロ作品と分け隔てなく、INORANのその時のモードが反映された多彩な楽曲群を生み出しているように思う。
ステイホーム中に2枚ものアルバムを制作
ステイホーム期間中に、INORANは全作曲・編曲・歌唱・演奏を一人で担い、『Libertine Dreams』『Between The World And Me』という2枚のオリジナル・アルバムを生み出した。旅からインスピレーションを得て曲を作ることも多かったINORANにとって、コロナ禍の移動制限は足枷であったに違いないが、屈することなく想像の羽根を広げ、音楽による自由な脳内旅行をしてみせた。いずれライブでバンドメンバーと共に生で鳴らし、オーディエンスと熱を交わし合う日を完成形として夢見る設計図。1stアルバムも楽曲制作作業としては打ち込みにより一人で行われたが、最新の2作は同じ一人でも目指す方向が全く異なっている。
LUNA SEA主宰チャリティー・オンラインイベントで残した大きな功績
LUNA SEA、自身のソロ活動に加え、2002年にはKEN LLOYDとのユニットFAKE?を結成しオルタナティヴなロック・サウンドを追求。2005年にはRYUICHI、葉山拓亮と共にTourbillonを結成。また、FEEDERのTAKAらと結成したMuddy Apesとしては『FUJI ROCK FESTIVAL』にも出演を果たした。多様なプロジェクトでINORANが活躍の幅を広げ続けていることは、LUNA SEAの活動にやはり“風”を吹き込み、新たな回路を切り開くことに繋がっている。
LUNA SEAの30周年記念オリジナル・アルバム『CROSS』(2020年)の共同プロデュースを、U2やザ・ローリング・ストーンズなど名だたる世界的アーティストを手掛けて来たスティーヴ・リリーホワイトが担うというビッグ・プロジェクトも、INORANが個人としてスティーヴと知り合ったのが発端となっている。
LUNA SEAが2020年5月に主宰したチャリティー・オンラインイベント『MUSIC AID FEST.〜FOR POST PANDEMIC〜』にも、INORANの大きな功績がある。医療従事者、フロントラインワーカーの支援をするため企画されたテレビフェスで、本来はLUNA SEAの30周年記念ライブを放送するための番組枠を急遽転用したものだった。
豪華アーティストから届けられたリモートライブ映像やメッセージ動画を、LUNA SEAのメンバーがスタジオホストとなって生放送で紹介していく、初の試み。INORANはSUGIZOと共に企画立案から尽力し、多数のアーティストに自ら出演交渉。
INORANのイメージが静から動へと変化したように見えるのは、内面の変化であると当時に、表現の仕方が変わったという側面も大きい。満ちたり欠けたりして様々な形を見せる月の実体は一つであるのと同様に、INORAN自身の本質は変わらないのかもしれない。
クールな印象だった当時も冷たかったわけではなく、人を想う熱さはもともと備えていたはずで、それがかつては繊細さという形で表れていたのだろう。本心を露わにしないよう抑制していたストッパーを外し、想いのままに曝け出していくようになったINORAN。その姿、変化の軌跡に観る者は鼓舞され、心が解放されて救われる。
ここまで書いてきた見立てを本人に投げ掛けたら、「違う」と笑われるかもしれないが、少なくとも私自身は取材者としてその恩恵を受けた一人の実体験者である。
(大前多恵)
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●LUNA SEA特集
【#1】RYUICHI 歌に身を捧げることを無上の喜びとする求道者
【#2】SUGIZO 弱者のために声を上げ続け、音楽を捧げる、稀代のロックスター
【#3】INORAN “風”のように“凝り固まる”こととは程遠い可変性が魅力
【#4】真矢 熱く人間的なドラミングで魅せる一方、静寂の存在を浮き彫りにする名手
【#5】J 炎の如く情熱を燃やし続けるロッカー、絶対的存在感の雄々しきベーシスト
※次回LUNA SEA特集を更新しましたら、Twitterでお知らせします
ライヴ情報
【LUNA SEA 30th Anniversary Tour 20202021 -CROSS THE UNIVERSE-】■会場:福岡サンパレス
2021年6月12日(土)※2020年3月21日(土)より振替
2021年6月13日(日)※2020年3月21日(日)より振替
問い合わせ:キョードー西日本(TEL.0570-09-2424)
■松山市民会館 大ホール
2021年6月26日(土)※2020年4月11日(土)より振替
2021年6月27日(日)※2020年4月12日(日)より振替
問い合わせ:DUKE松山(TEL.089-947-3535)
■札幌文化芸術劇場 hitaru
2021年7月3日(土)※2020年5月9日(土)より振替
2021年7月4日(日)※2020年5月10日(日)より振替
問い合わせ:WESS(TEL.011-614-9999)
■名古屋国際会議場センチュリーホール
2021年7月17日(土)※2020年5月14日(木)より再延期・振替
2021年7月18日(日)※2020年5月15日(金)より再延期・振替
問い合わせ:サンデーフォークプロモーション(TEL.052-320-9100)
■南相馬市民文化会館ゆめはっと大ホール
2021年7月31日(土)※2020年3月14日(土)より再延期・振替
2021年8月1日(日)※2020年3月15日(日)より再延期・振替
問い合わせ:ニュース・プロモーション(TEL.022-266-7555)
■宇都宮市文化会館大ホール
2021年9月1日(水)※2020年2月27日(木)より再延期・振替
2021年9月2日(木)※2020年2月28日(金)より再延期・振替
問い合わせ:クリエイティブマンプロダクション(TEL.03-3499-6669)
■仙台サンプラザホール
2021年10月2日(土)※2020年4月25日(土)より再延期・振替
2021年10月3日(日)※2020年4月26日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードー東北(TEL.022-217-7788)
■上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)
2021年10月23日(土)※2020年3月28日(土)より再延期・振替
2021年10月24日(日)※2020年3月29日(日)より再延期・振替
問い合わせ:HIGHERSELF(TEL.082-545-0082)
■大阪国際会議場メインホール
2021年11月29日(月)※2020年4月4日(土)より再延期・振替
2021年11月30日(火)※2020年4月5日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードーインフォメーション(TEL.0570-200-888)
■本多の森ホール(旧石川厚生年金会館)
2021年12月4日(土)※2020年3月7日(土)より再延期・振替
2021年12月5日(日)※2020年3月8日(日)より再延期・振替
問い合わせ:FOB金沢(TEL.076-232-2424)
■神戸国際会館こくさいホール
2021年12月20日(月)※2020年5月2日(土)より再延期・振替
2021年12月21日(火)※2020年5月3日(日)より再延期・振替
問い合わせ:キョードーインフォメーション(TEL.0570-200-888)
関連リンク
■LUNA SEA オフィシャルサイト■INORAN オフィシャルサイト
大前多恵
ライター・編集者/NHKディレクターを経てロッキング・オン入社、2006年独立後はフリーランスに。音楽家や俳優など、表現者へのインタビュー取材を中心に活動中。ライブレポート、作品レビュー、書籍編集、語り起こし本の執筆、物語の創作なども。
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