『おかえりモネ』第14週「離れられないもの」
第69回〈8月19日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:押田友太〉

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龍己(藤竜也)の牡蠣が品評会で金賞を獲った授賞式に出席するため東京に来た耕治(内野聖陽)は一晩、百音(清原果耶)の住むシェアハウス・汐見湯に泊まり、翌朝、百音の職場・ウェザー・エキスパーツに立ち寄る。そこで朝岡(西島秀俊)と出会い、思いがけず話し込む。
【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第69回掲載中)
内野聖陽と西島秀俊は今秋映画化もされる予定の連続ドラマ『きのう何食べた?』(以下、『何食べ』)でもW主演している仲で、息のあった演技を見せた。
それもこれも『おかえりモネ』の脚本家・安達奈緒子が『何食べ』の脚本も書いているからこそ成立した、半ば公式的なパロディのようでもあり、『何食べ』ファンにとっては二重の楽しみのあった15分。ふたりの共演に『何食べ』の公式Twitterまでが反応を見せた。今回ばかりは主人公・百音はふたりの話を偶然立ち聞きしてしまう目撃者に徹していた。
耕治に話をする朝岡
朝岡はかつて気象を読み間違えたために駅伝で痛恨の敗北をしている。それをきっかけに気象予報士となったわけだが、気象予報士になってからも壁にぶつかっていた。8年前、東北のある地域(架空の場所)に大雨が降り、朝岡が天気予報で自宅待機を呼びかけたところ、土砂災害が起きて家屋が被害を受けた。自分の判断の誤りを後悔し続けている朝岡。当時も現場に駆けつけたが、8年後、土砂災害が起きたとき、再び現地に向かう。土砂災害の状況を直接的なビジュアルで見せず、朝岡の泥だらけの靴だけで表している。その泥は大雨によってどろどろに溶けた土であると同時に、朝倉の心の決して晴れないわだかまりでもあるのだろう。
他者にどんなに心を寄せても何もできない無力感に苛まれている朝岡の心の内を、たまたま出くわした耕治が聞く必然性は、百音の父親であることから気を許せたこともあるだろうし、耕治は暗さの一切ないひたすら明るい人物という設定だから、何か話したくなってしまうと考えれば成立するだろう。
耕治の特別な明るさについては第30回で妻の亜哉子(鈴木京香)が「この人の音、全然影がない、明るいっ!」「正しくて、明るくて、ポジティブで前向きであることが魅力にならない世界なんてくそです」などと言い表していた。

朝岡は合理的な人物かつ、「地元」がなくて、被災地の暮らしを実感できない。何度も被害に遭うなら移住を考えればいいのではないかと思ってしまう。そこで当事者の気持ちを聞いてみたいが、デリケートな百音には聞けない。その点、今、目の前にいる耕治は明るそうだし、銀行員をやっていて視点も違いそうだし、この人になら聞けるんじゃないかと考えたのだろう。そういう人を見る目は朝岡にはありそうだ。誰彼かまわず問いかけるようなことはしない。おそらく気を使ってこれまで誰にも聞けずにいて、だからこそ悩みも深まっていたのではないだろうか(全部筆者の推測ですが)。
ふと耕治が「離れられないんだろうな、海から」と龍己に思いをいたしたことで、朝岡は「離れられない」ことについて堰を切ったように話し出す。
ウェザー・エキスパーツの1階にある一般人が天気を知る装置の修理をしながら話を聞く耕治。装置の修理が物事を理路整然と理解することのようで、でも、一回、直って竜巻が上がり、朝岡も耕治も立ち聞きしている百音も笑顔になったのもつかの間、装置はまた沈黙してしまう。その瞬間は少しだけ、愛情深い耕治の考えで霧が晴れたように思えるも、装置が直らないことは、被災地の思いが簡単に解決する問題ではないことを物語るようである。
ただ、耕治の「おまえたちの未来は明るいんだって。
立ち聞きする百音
父と朝岡の一部始終を聞く百音。なぜか、社長(井上順)も傍らで聞いて、目配せしている。菅波(坂口健太郎)といい朝岡といい、無力感に苦しんでいるのは百音だけではない。内野聖陽と西島秀俊
違う役を演じることで、俳優の資質がよく見える。内野聖陽は外見から内面まで徹底した役作りによる迫真に定評があり、『モネ』でも『何食べ』のケンジの片鱗は微塵も感じないところがさすがである。海の街に生まれた耕治は漁師を選ばず、芸術や経済を選び、家庭を持つとその家庭を守るために尽力する。悩んだりもするがガハハと笑い飛ばして前向きに生きる生命力の固まりのような人物である。役を形にしようとする努力が役に息吹を吹き込む内野に対して、西島秀俊は、丸腰で現場に立って心が動くことを大切にしているように感じる。ベースは体にフィットしたスーツで姿勢よくしゅっとまっすぐ立っていて、相手から受けたもので変化していく、合気道のような演技をする。
今回の場合、内野が作り込んできた耕治の力が西島の中の朝岡を駆動する。最初は朝岡が話しているが、やがて耕治が話しだし、それを聞きながら、朝岡の心が整い最終的に笑顔になる。朝岡の瞳があまりにも耕治に対して心を開いてしまっていて、西島が『何食べ』モードになっているようにも感じなくもないが、西島の場合、心からその人を信頼しているとか、気持ちが少し楽になったとか、その瞬間の感情重視の演技なので、それはそれで奥深い。
内野と西島の演技の相違がドラマを重層的なものにする。
物語の根幹に関わる重要な内容でなければ、このふたりは引き受けていないんじゃないだろうか。そこは芝居に対して真摯だと思うのだ。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami