『おかえりモネ』第15週「百音と未知」

第74回〈8月26日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第74回 りょーちんの「やせ我慢の美学」を表現する永瀬廉の俳優としての技能の高さ
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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ふいにふらりと東京に現れた亮(永瀬廉)百音(清原果耶)に亮が何か言いかけた時、明日美(恒松祐里)未知(蒔田彩珠)が帰って来て……。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第74回掲載中)

翌朝は菅波(坂口健太郎)と亮が鉢合わせして微妙な雰囲気に。
亮が微笑めば微笑むほど本音を言えない彼の辛さが染みてくる。

亮の本音

百音「りょーちん、元気?」
亮「ん、なんで?」
百音「だって急に来るから」
亮「来ちゃダメなの?」
百音「そうじゃないけど」

特別な言葉が一個もないが、言葉ひとつひとつにいろんな妄想が沸いてきて、ものすごくドラマティックである。とくに亮の「来ちゃダメなの?」。永瀬廉のセリフの言い方も正鵠を射ていた気がする。いろんな言い方があるだろうが、甘くなく弱くなく強くなく、でも明晰。

『モネ』では永瀬廉の俳優としての技能の高さが際立っている。第73回で指摘したアルカイックスマイルの絶妙なコントロールといい、第74回の本音をひた隠す人物の強がりの魅力を例えば高倉健に代表される昭和の男のようなごりごりした感じを現代にも通じるように少しマイルドにして提示している。


先日、百音の父役の内野聖陽に『モネ』とは関係ない舞台『化粧二題』に関する取材をした時、「やせ我慢の美学」について語ってくれた。そういう概念は現代にはなくなってきているが、今でもあると思っていると内野は言っていた。あくまで舞台の登場人物の話をしただけであるが、今朝『モネ』を観て、亮にもその「やせ我慢の美学」があるように筆者は感じた。

『おかえりモネ』第74回 りょーちんの「やせ我慢の美学」を表現する永瀬廉の俳優としての技能の高さ
写真提供/NHK

百音がテレビに出たのを観ているのに、まだ観ていないと嘘をつく亮。第73回で観ている場面があるのであからさまに嘘なのだが、なぜそんな嘘をつくのか。その理由よりもこの場面で大事なのは、亮は常にそういうふうに本音を語らない人物であることだ。
この場面があるからその後の亮の言動のどれが本音でどれが嘘なのか慎重に観ることができる。

ただ、未知の服を「かわいい」と言ったり、おずおずとそばに寄って来た未知に椅子を動かしさりげなく座るように示唆したりするところはしぶしぶやっているわけではなく、自然と身についた他者に対して親切であろうとする心がけなのであろう。椅子を動かすしぐさは、お盆のときに未知の背中をそっと支えたしぐさ(第12回)に次ぐヒットである。

本音を語らない亮が本音を言いかけたときに明日美がわいわい騒いで入ってきて、言葉を引っ込めてしまうことが切ない。そして明日美と亮は「軽々しく」言ってしまうタイプとして同類なのである。お互い、その軽々しさをわかって、さばけた関係になっているところこそ、『モネ』のおもしろいところである。


百音は亮と明日美とは違うタイプの自分に正直な人物だが、中継キャスターのときは「キャラを変えている」と言うように、彼女もまた少し、本音を隠す術を身に着けたのである。そんな百音にだから亮は本音を言いかけたのかもしれない。



菅波……

亮は男がカッコよく強くあらねばならないとされていた名残のある人物で、菅波は男が強くあらねばならない時代の終わりにいる人物である。菅波は今の時代の流れに合っているのでネットでもてはやされる。

亮の来た翌朝、菅波がやって来た。初めて約束して会う日。「ちょっと早すぎました」とやって来る。
彼もまた本音がわかりにくい人物だが、亮とはちょっと違う。亮は弱音を吐かずカッコよくいようと頑張っている人物だが、菅波は自分の弱いところを隠してよく見せようと頑張っているわけではない。単に不器用で気持ちを表せないだけなのである。だから良い人なのにぶっきらぼうなことを言って他者を傷つけてしまうことがある。でも百音はそれを理解して受け止めている。

この朝もきっと、菅波は百音との約束(要するにデート的なこと)が嬉しくて早く来てしまったのだろうけれど、まだ百音が仕度しているときに来てしまうというタイミングの悪さ。
でもたぶん汐見湯と菅波の住居は近いだろうから来る時間は調整が効くと思うのだが、どこまで不器用なのか。そのせいで、亮と鉢合わせ。なぜか亮は紹介されることを拒み、時計を見て急ぐように去っていく。

菅波は亮のことをちょっと気にしつつも、マイペースに初デートに「サメ展」を提案し、未知がたまたまそのチケットを持っていたのを嬉しくもらう。「これは…どうしよう。嬉しいな」という菅波のつぶやきが素朴だ。
素朴過ぎる。彼の素朴さやカッコつけようとしないところが愛されていくわけだが、カッコつけて我慢し続ける亮も、ちゃんと弱音を吐いて、良いことがあってほしいと願うばかりである。

『おかえりモネ』第74回 りょーちんの「やせ我慢の美学」を表現する永瀬廉の俳優としての技能の高さ
写真提供/NHK

スマホ時代の場面

最近のドラマはケータイが普及したので、すれ違いが描けない。以前は待ち合わせに現れない場面がよくあった。今はケータイ忘れてすれ違いはあるが、そればっかりも無理がある。『モネ』ではスマホを活用しまくっている。

そうはいってもケータイをかけている画ばかりではワンパターンになってしまうので、画像機能を使って相手の顔を見ながら話すことで新しい会話劇の見せ方が生まれた。仙台の三生(前田航基)悠人(高田彪我)と汐見湯の百音、明日美、亮、未知、菜津(マイコ)が交互に映って楽しい。別々のスタジオで撮影したと公式Twitterで紹介されていた。

コロナ禍、直接会わず、リモート会話が増えている今だから、画面越しのコミュニケーションにリアリティーを感じる。みんなとわいわいやって「楽しいなあ」とつぶやく亮。きっと本当に楽しかったのだろうと思ってこれまた切なかった。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪










番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami