『おかえりモネ』第19週「島へ」
第93回〈9月22日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

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本土と亀島を繋ぐ「橋」を渡って百音(清原果耶)が帰って来た時、ちょうど24時をまわり、百音の誕生日になった。24年前はまだ橋がなかったため、亜哉子(鈴木京香)は嵐の中、船に乗って本土の病院に向かったのだ(第1話)。だが、今は橋があるからいつでも島に渡ることができる。
三生(前田航基)の断髪式も行われ、百音はある決意を未知(蒔田彩珠)に打ち明ける。
【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第93回掲載中)
三生が坊主に
嵐の中、海を渡って生まれた子供・百音が橋を渡って帰って来たと耕治(内野聖陽)は大喜び。百音は「何をしたらいい?」と地元の人たちの輪の中に入っていく。震災があった時、百音は本土にいて橋もなかったからなかなか島に戻ることができなかった。やっと戻って来た時、被害の後片付けをしている同級生たちの中に気後れして入っていけなくて、それが長年百音を苦しめてきた。でも地元への想いは人一倍。この日、とうとう百音は勇気を出して地元の仲間たちと一緒に働くことができたのだ。
『モネ』の面白いところは、ここでモネが中心のようになって働くわけではないところ。あくまでみんなの中のひとりとしてそっと牡蠣の仕分けなどをしている。じつに控えめなのである。誕生日なのに。モネが主人公だから目立った働きをしてしまうと今まで地元と離れていたのに……となるからこれくらいがちょうどいい。ここでは三生に主役の座が譲られる。
三生は長年、震災で寺の仕事のヘヴィーさを目の当たりにして家業の僧侶を継ぐことに迷い、島を出てパンクスになったりラッパーになったりしてふらふらしていた。とはいえ、ゆくゆくは継ごうと思っていて、ただ選択肢がひとつしかないことに抗いたかった。たくさんの選択肢のなかから自らが選ぶことが大事であって、三生はようやく自分で選んだのである。
百音もそうだし、亮(永瀬廉)もそうで、自分の道を自分で決めたいという考えが通底している。自然災害や社会や宿命に翻弄されてなし崩しにそうなるのではなくて自分で納得した上で人生を選択したい。この気持ちは誰もが共感することだろう。

たまたま最近、ネットの記事で、『20代がFIREしたい本当の理由。目指すのは「早期退職じゃない」』というものを筆者は読んだ。そこには“FIREできるほどの資産を手に入れて、今の生活を辞めても良いという選択肢を持ちたい”という気持ちであることが書かれていた(『BUSINESS INSIDER』りょかちさんのコラム)。
なるほど納得で、二十代に限らず誰もが生活のために働いている人が多いだろう。本当はやりたいことがあっても生活のための労働が優先されていくジレンマ。
『モネ』は不況の中働く若者たちというテーマではなく、自然災害とどう向き合うかが中心に据えられてはいるが、広い目で見ると、自分が選択する自由はあらゆることに当てはめて考えることができるのではないだろうか。
三生の断髪式を見て、みんなが度重なる自然災害に明るく立ち向かって行く姿を見て、百音もようやく地元に帰ることを自分で選択するのである。

「強い」「しぶとい」「カッコいい」
突風に家や牡蠣棚は破壊されて、それでもなぜみんな笑顔なのだろう。百音が龍己(藤竜也)を心配すると、「本当にたいしたことねえんだよ」と「あん時にくらべたら、本当に大したことねえ」と言う。「強い」と百音は感心。いや「しぶとい」のだと龍己、その飄々とした姿が「カッコいい」と百音は思う。龍己をはじめとした島の人達の強さに百音は引っぱられ、「みーちゃん、私、こっちに戻って来ていいかな」と未知に許可を求める。百音にとって未知が鏡のような自己評価なのである。「お姉ちゃん、津波見てないでしょ」「お姉ちゃんずるい」「お姉ちゃんは正しいけど冷たいよ」という未知の数々の言葉は百音自身の心の中のわだかまりを鋭く照射してきた。
第92回で百音は菅波(坂口健太郎)に「もうそんなに無力じゃないでしょ」と言われた。百音は震災の時、自分の無力を感じて、力をつけたかったのだろう。
いまなら自分は地元のみんなと一緒に地元のために働くことができると自分にGOが出せた百音。あとは地元の人たちに「おかえり」と迎えてもらうだけだ。
選択とは自分が自分にGOを出すことである。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami