『おかえりモネ』第21週「胸に秘めた思い」

第102回〈10月5日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:田中諭、舩田遼介〉

『おかえりモネ』第102回 坊主DJや悠人と希望ある未来に向かい始めた百音 一方、未知は難しい局面に
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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突然現れた女子中学生・石井あかり(伊東蒼)にまで「なんかきれいごとっぽい」と言われてしまった百音(清原果耶)。何がきれいごとなのかといえば、気象予報士の仕事をはじめた理由を「誰かの役に立ちたいと思ったから」と言ったことである。先日、亮(永瀬廉)にも言われた言葉なので百音は反論する気も起きない。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第102回掲載中)

ぶしつけなことを言いながらラジオ収録を見学していってもいいかとそこに残ろうとするあかりもなかなか神経が太いが、百音は冷静にあかりを受け止める。そしてあかりも6年、地元を離れていたことを百音は知って、自分と似ているように感じる。百音の十代のときや今のあかりは十代特有の鋭い感受性の持ち主として、この世界の厳しさをその瞳に映しながら、荒波に耐えるように立っている、そんな人達の代表なのであろう。

なにを聞いても「どうかな」というあかりに、「いいですね、正直で。『そうですね』なんて簡単に言えないもんね」と理解を示す百音。否定とまではいかずとも疑問に思う態度は大事である。
百音だってこのままでいいのかいけないのか、現状を疑問に思ったからこそいったん島を出て、時間をかけて考えてきたのだ。百音がいつだって誰のことも受け止めるのは、なんでも「そうですね」と簡単に肯定するのではなく、深いところで他者を理解しようとしているから。その忍耐力と包容力がサンドバッグでありヒーラー的だなと思う所以である。

「きれいごと」という言葉で思い出したのは、東日本大震災が起こった当時、ベテラン俳優であり歌手である杉良太郎が被災地に寄付をして「売名ですか」と問われて否定しなかったことである。それはもちろんそんなことを聞く人に対する皮肉めいた言い回しであるが、どう思われようと被災者に何かしたいと思ったからできるだけのことをしている事実は揺るぎない。お金を出して行動する。
それが役にたてば売名だろうが無欲の善意だろうが関係ないのである。

指原莉乃は、2020年、九州地方に豪雨被害があったとき寄付をして、“偽善・売名だと言われても、私の行動で「もう少し踏ん張ろう」と思ってくれる被災された方が1人でもいたら、何か被災した場所・人の力になりたいと思ってくれる人が1人でもいたらなと思っています。”とツイートしていた

当事者でない人間が何をできるか。見返りを求めることなく他者のために行為を捧げることであって、嫌われても嫌がられてもやるしかない。『モネ』ではその考え方が終始一貫していて、菅波(坂口健太郎)が「あなたのおかげ」という言葉で百音が満足しかかったときに警告した。


そこからずっと百音は自分の行いによって感謝されることに満足することに常に警戒心をもって行動してきた。ときには「自分のため」のほうがシンプルだという莉子(今田美桜)の意見も聞き、ときには、自分のためにすべてを賭けた後は他者のためになることをしようと切り替える人物・鮫島(菅原小春)に出会いながら、百音は自分のやるべきことを研ぎ澄ませている。

『おかえりモネ』第102回 坊主DJや悠人と希望ある未来に向かい始めた百音 一方、未知は難しい局面に
写真提供/NHK

一歩ずつ一歩ずつ。百音は三生(前田航基)にコミュニティFMでDJをやってもらうことにする。その名も坊主DJ。三生はしゃべりがうまく好評。
本人も楽しんでいる。悠人(高田彪我)にも仕事の相談をする。やりたかった地域防災の活動は人間関係が密な島からはじめることにする。百音が帰ってきて動くことで、三生や悠人や島の人たちのやることが拓けてくるところに希望がある。

一方で、未知(蒔田彩珠)は、長らく亮のことを想ってそばにいたが、一向に恋心を受け止めてはもらえず悩みはじめていた。百音に一瞬の慰めを求めた亮だったが未知にはそれはなく、ストイックに接している。
漁から帰った日は未知と会うものの遅くなるまでには未知を帰し、それが未知には残念でならない。未知がやたらとお酒を飲むのは隙をつくろうとする女ごころなのかもしれない。



『おかえりモネ』第102回 坊主DJや悠人と希望ある未来に向かい始めた百音 一方、未知は難しい局面に
写真提供/NHK

亮は母と父のことを見て、大切な人がいなくなることが怖くて大切な人を作らないようにしているため、誰にも積極的にならない。会うときはいつも未知が誘うばかり。そんな時に東京で研究をするチャンスがやってきて、自分の研究を選択するか亮のそばにいることを選ぶか迷いはじめてしまう。

8年も思い続けて振り向いてもらえなかったら悩んでしまうのも無理はない。
まあでも亮がほかの女性たちと遊びながら未知だけ妹のようにしか接してくれないとか、未知からお金を借りて遊び呆けているとかいうわけではないからマシだとは思うけれど……。いや逆に亮にマイナス要素がないからこそ未知は諦める理由がみつからないとも言える。こういう時、諦めずにそばで見守り続けることができるか、最も難しい局面に未知は立たされている。

「菜津さん元気かな」と宇田川の絵を見て思いをはせた菜津(マイコ)は未知の先輩になりそう。何年も部屋にこもった宇田川をそっと見つめている人物だから。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami