朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第3週「1942-1943」

第15回〈11月19日(金)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第15回「あの人がおめえの祝言の相手じゃ」千吉が粋すぎた
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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「あの人がおめえの祝言の相手じゃ」

銀行の頭取の娘と結婚するため、稔(松村北斗)が岡山に帰って来た。すっかり精彩を欠いた顔になり、足取りも重いように見える稔。

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駅まで迎えに来た千吉(段田安則)は「待ち切れなんで迎えに来たぞ」とその足で相手に会いに行くと急かす。
せかせかと向かった先は――神社。そこには安子(上白石萌音)がお参りに来ていた。

「稔、あの人がおめえの祝言の相手じゃ」と言う千吉。なんと粋な計らいであろうか。なにかと展開が早い『カムカムエヴリバディ』ではあるが、ここはその展開の早さを逆手にとったといえるだろう。神社の前で「僕と結婚してください」とプロポーズするのも絶好のシチュエーション。

なぜ安子がここにいることを千吉が知っていたかといえば、勇(村上虹郎)に教わっていた。勇もひょっこり現れて「おめでとう」と言う。勇はいつも神社でひょっこり現れるので、どこか神の使いの狐かなにかにも見える。

雉真家では美都里(YOU)が拗ねながらもけっきょく折れて、安子に自分の髪に差していた細工の美しいかんざしを渡す。嫁に来た時に義母からもらったものだった。男性が家業を継いだりするけれど、女性はこうしてある印を受け継いでいくのである。
品には指輪とか着物とかのパターンもある。昭和の作品にはこういう儀式めいたエピソードがよくあるが、最近はそういうものをめっきり見なくなった気がする。

稔と安子は橘家に挨拶に行く。「おじい様の喪が明けんうちに、こんな用件で伺い、申し訳ありません」ときちっと挨拶する稔。この時の腿(ほぼ股関節)に手を当てたポーズが松村北斗は本当に似合う。今日はさらにそこから体をきれいに二つ折りにして頭をゆっくり下げ動きを止める形が決まっていた(神社に父に向かって頭を下げるときの深さも)。どこまでもぱりっと仕立てたシャツのように折り目正しい。

安子、雉真家へ

結婚の家族写真を撮影し(松村北斗は着物姿も似合う。大河ドラマに出てほしい)、朝ドラ名物、「お世話になりました」と涙ながらに挨拶する場面は割愛された(小しず役の西田尚美的に言えば「カッツアイ」(LIFE!)か。その前に稔とふたりでお辞儀していたから、そこに集約されているのだろう。

すぐに安子は雉真家へ。嫁いびりできないほど、安子はよく働く。女中にも評判がいい。
さすが、実家の菓子屋でよく働いていただけある。

ふたり並んで朝ごはん。稔が「安子」と呼び捨て。稔が今日は出かけようと言うと、安子は家の仕事に気を使って返事を濁す。が、千吉は「出征まで間がねえんじゃ。安子さん、稔と出かけなさい」と助け舟を出す。

ここで安子と稔の結婚の展開の早さが制作の事情(100年を半年で描く)だけではないことに気づく。喪が明けないうちに結婚式をあげるほど急いでいるわけは稔が戦争に行くからだ。前の場面では美都里が安子との結婚には反対だが、「稔が心残りのまま戦地に行ってしまうのはもっといや」と言っていた。

もちろん無事で帰ってきてほしいけれど、誰もの心に不安はある。頭上を覆った黒い雲をはらうかのように「結婚」というおめでたい行事を行うのだ。それはきっと稔の無事を祈る行為でもある。


安子が毎日、神社で稔の無事を祈っていたことも千吉の心を動かしたのだろう。銀行の頭取の娘はきっとそんなことしてくれない(結婚したらするかもだけど)。

余談も余談だが、最近、芸能人同士の結婚が多いのもコロナ禍で鬱々した空気を晴らしたい気分なのではないかと思う。それは自分たちのためのみならず世の中全体のためでもあって、華やかで幸せそうなグッドニュースは部外者でも気分が晴れる。甘いお菓子を食べた時と同じ効能である。笑顔になること。それが大事なのだ。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第15回「あの人がおめえの祝言の相手じゃ」千吉が粋すぎた
写真提供/NHK

「出歯口の憂鬱」では定一(世良公則)が代用コーヒーではないホンモノのコーヒーを入れながら、「子どもは作ってから行けよ」と急かす。健一(前野朋哉)が独り身のまま出征したと寂しそうだ。

稔も「子ども、授かるといいな」と言う。子どもが自由にどこへでも行き来できるようであってほしいと願う稔。「ひなたの道を歩いてほしい」。


すでに子どもの名前を考えているという稔だが、安子が聞くと「ひ…みつじゃ」と言う。「ひ」と言うから「ひなた」と考えているのかと思ったが、すでに公表されているドラマ情報によれば、ひなた(川栄李奈)は孫の名前だった。子どももまた幸福な未来への祈りなのだろう。

「安子と稔が暮らせたのはほんのひと月足らずでした。短いけれど幸せな日々でした」とナレーション(城田優)の響きはただただ優しい。文脈的にはある未来を物語っているわけだが、今、この瞬間の安子と稔は最高に幸福であったことだろう。戦争の進行、稔の出征とばたばたと追い立てられるように物事が進行していくなかで、安子と稔が一緒にいる時間は悠久の時のごとくゆるやかに見える。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪


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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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