朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第4週「1943-1945」
第18回〈11月24日(水)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

※本文にネタバレを含みます
※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第19回のレビューを更新しましたらTwitterでお知らせしています
終戦
ラジオから玉音放送。終戦の報せだ。やがてラジオから天気予報が流れるようになり、次第に日常が戻ってくる。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜18回掲載中)
だが、空襲でひさ(鷲尾真知子)と小しず(西田尚美)が亡くなり、家も菓子司「たちばな」も焼失した金太(甲本雅裕)は空襲から逃れた雉真家で臥せったまま。
安子(上白石萌音)は闇市で小豆を買っておはぎを作るが、金太は相変わらず覇気がない。気丈に振る舞っている安子も次第に心が折れかかる。それでも稔の写真を支えにして気持ちを立て直そうとするが……。
9月、激しい台風16号の中、金太が行方不明に。雨の中、安子が探しに出ると、「たちばな」の焼け跡を金太が掘り起こしていて、砂糖が入った缶を見つけた。
「あねんまじいおはぎをそなえられたんじゃあ、小しずらも安心して成仏できんわ」
戦争でアイデンティティーを喪失した者が焼け跡から菓子職人としてのアイデンティティーの欠片を発見することで立ち上がる一歩になる瞬間。
これまでの“朝ドラ”では、男性はたいてい、終戦の時、悔しそうに、でもぐっと忍耐している表情が多かったが、金太はひと目も憚らず大泣きする。そんなところも新鮮だった。『エール』の主人公も戦争でダメージを受けるが、戦争に加担した側としての反省だった。金太は戦争の被害者としての感情を体現する。そこに大雨が降り注ぐ。
朝ドラ名物・玉音放送、史実に基づいた台風の取り入れ方の妙、上白石萌音の心臓の鼓動が聞こえてきそうな迫真の演技のある第18回。制作統括・堀之内礼二郎チーフプロデューサー、広報プロデューサー・齋藤明日香さん、第4週を演出した安達もじりさんに取材した。
上白石萌音さんと赤ちゃん
『カムカムエヴリバディ』第4週は悲しいことが踵を接するような中、安子とるいのシーンがほっとする。とりわけるいが誕生した第16回や橘家に来た第17回の愛くるしさは格別だった。また、第18回の焼け跡を歩く時にはおとなしくじっとしていて、赤ちゃんも名優の貫禄。第4週の演出を担当した安達もじりさんは、赤ちゃんの良い表情はすべて上白石萌音さんの尽力の賜物と語る。上白石さんは現場で赤ちゃんと四六時中、時間を過ごしてくださっていました。赤ちゃんがどのシーンでもあれだけいい表情をするのは、上白石さんが自分の子のように接しているからだと思います。
私は『べっぴんさん』の時、かなりの長い期間、赤ちゃんと共に過ごした経験から、赤ちゃんは形だけで接すると泣きわめいて大変であることを痛感しています。お母さん役の俳優さんの力が必要なんです。『べっぴんさん』の芳根京子さんもよくやってくださいましたし、今回、上白石さんにも本当に助けてもらいました。

広報プロデューサーの齋藤明日香さんは上白石さんとおんぶひもの話を教えてくれた。
制作統括の堀之内礼二郎チーフプロデューサーは上白石さんもまた赤ちゃんから良い影響を受けていたのではないかと言う。
第5週はますます子役のシーンが多くなるので、安子とるいの場面を楽しみにしていてください。
本当にあった岡山の台風
『カムカム〜』は時系列で描くことを徹底することで、視聴者が登場人物と同じ気持ちで物語の世界に没入し、100年間を一緒に生きているような感覚で見てほしいと考えている。だから日付をテロップで出すことも意識して行っていない。その代わり、ラジオから流れるニュースの内容で年月がわかるようになっている。ラジオでアナウンサーが読むニュース原稿は、当時のニュース原稿のままではなく、時代考証スタッフが内容を整理してわかりやすく書いている。
藤本脚本の凄みは安達さんも「シーンのひとつひとつが濃いです」と言う。
朝ドラと玉音放送
太平洋戦争の頃を舞台にした“朝ドラ”は多く、終戦の日、玉音放送を聞くシーンがこれまで何度描かれてきたことだろうか。『カムカムエヴリバディ』の演出・安達もじりさんは『カムカム』を入れて4回、玉音放送のシーンに関わってきた。玉音放送をどこでどういうふうに聞いてどんな反応をするか。それがひとつのハイライトになる。
『カムカム』で金太役の甲本雅裕さんは『カーネーション』(2011年度後期)では主人公の糸子の近隣の人物・木之元栄作役で出演している。彼が8月15日、糸子たちに昼のラジオを聞くように言いに来る。女性たちはラジオの前で並んで聞くが、何を言っているのかわからない。糸子は戦争が終わって脱力したところから「お昼にしよけ」と立ち上がる。これが何があっても食べることを優先する人間のたくましさを描いたと名場面の誉も高い。
では、『カムカム』はどうだったか。
今回、私にとって朝ドラで4度目の玉音放送の場面の撮影になりましたが、改めて戦争は理不尽なことだったと感じました。金太が放送を聞いて号泣する場面はいままでにない玉音放送の瞬間を描けたと思っています。「こうなるならなぜ戦ったのか」と世の理不尽さに涙が出てくる気持ちが撮りながら痛いほどわかりました。
また、BKことNHK大阪制作の朝ドラは、空襲で焼け野原になった町並みや戦後の闇市などをいつもオープンセットでスケール大きく描いている。『カムカム』も岡山空襲やその後の街並みに力が入っている。
『カムカム〜』もそうで、理不尽、不平等が存在する厳しい現実のなかで、それでも生き抜いていく強いエネルギーをちゃんと表現することに意味を感じながら美術スタッフと一緒に作り込んでいます。戦後の闇市、焼け野原は作り込みに非常に労力を要しますが、スタッフの腕の見せどころでもあり、生き生きやってくれています。そのおかげでいい表現ができるのです。
安達さんをはじめとしたスタッフと俳優たちの総力戦が戦中戦後の迫力を作り出した。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami