朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第4週「1943-1945」
第17回〈11月23日(火)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉
※本文にネタバレを含みます
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安子と赤ちゃん
安子(上白石萌音)がるいを連れて実家を訊ねる。ひさ(鷲尾真知子)も小しず(西田尚美)もるいを愛おしそうに見つめる。この時の安子の表情もいい。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜17回掲載中)
抱きかかえ方も安定していて、安子がるいの背中にいいリズムで触れている様子が見ているほうの心を落ち着かせる。歌ってはいないけれど、子守唄が聞こえてくるようだ。上白石萌音の身体にやさしいリズムとメロディがある。彼女が今年の紅白歌合戦に出ることは必然であるように感じる。
るいを見ながら、安子の生まれた時のことを思い出す小しず。生まれた時、甘いあんこの香りがしたと言う。
「またね」「またね」「ほんならね」「ほんなら」と名残惜しみながら別れる安子とるいと、小しずとひさ。よく、小説やドラマのナレーションで「この時は知るよしもなかった」というような言い回しがあるが、こういう時に使うのだなと、あとで思うことになるとは……。
岡山の空襲
以前はあんなにもにぎやかだった商店街はめっきり人がいない。そこで再会したきぬちゃん(小野花梨)は疎開すると言う。別れを惜しむ安子ときぬ。東京、大阪と空襲が起こり、地方にも危険が近寄ってきていた。
空襲の時、吉右衛門の危機に体を張って守ったのは吉兵衛だった。吉右衛門はあのとき、あんなことを言わなければと後悔しただろう。
吉右衛門、喋り方がだいぶ普通になっていた。成長してしまったようでちょっと残念だが、燃えた柱みたいなものにぶつかって倒れる動きが巧く、才能を感じる。
商店街では赤螺家と橘家が交錯して逃げている。一方、離れたところで岡山城が燃えているのを見ながら逃げる安子。俯瞰で見ると、登場人物たちの立ち位置がわかるように撮られている。ワンカットワンカットがバラバラでなく、ちゃんと繋がっているように目配りされている。
安子とるいと美都里(YOU)と千吉(段田安則)は川のそばに避難したのであろうことがその前の川のカットとその水の反射のような灯りで感じられる。空襲が収まり、雨が紫陽花を青く濡らす(青インクを降らしていたように見える)。
金太の慟哭
るいを美都里に預けて橘家の様子を見に行くと、商店街は見る影もなく破壊されていた。「たちばな」もない。金太(甲本雅裕)がその焼け跡にしゃがみこんでいた。彼の口から発せられた言葉が衝撃的で……。水のあるほうに一家で逃げた雉真家と、火が燃えている商店街に残り、小しずとひさを匿(かくま)い、金太だけ消化活動に出た橘家の命運の差。吉兵衛も戦争が終わったら儲けようと思って集めてきた品のみならず店まで燃えて、その前で息絶える。どれもやりきれない。この気持ちが金太の慟哭に集約される。
「フラグ」という言葉がある。あらかじめ先の展開を予感することで、SNSで「フラグ立った」などと展開の予想で盛り上がる。『カムカム〜』第17回をあとで見返すと、小しずが安子の生まれた時の思い出を楽しそうに語ったこと(そこに吉兵衛もいる)や、「またね」と言って安子を見送る小しずとひさの表情の余韻にはフラグが立っているように見えるが、初見だとわからない(感じていた人もいるかもしれないが)。
吉兵衛と吉右衛門もついに父子に亀裂が……というショックのほうが大きく、その後、吉兵衛の身にふりかかることまで頭がまわらない。だからこそショックが大きい。
来る来る、来たー!というのも楽しいが、思いがけないほうが物語を味わう満足感があるような気がする。
最近は「フラグ」という言葉より「伏線」という言葉がSNSでは多用されるようになった。フラグは受け手が勝手に感じることだが、伏線は作者が物語を編むときに意図して張り巡らしているもので、レーザー光線のように目に見えないほうが上等である。つまり『カムカム』は見事に透明な糸で編まれ、そこここに驚きが仕掛けられている。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami