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朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第20回 戻ってくる人、こない人――安達もじりの演出が信頼できる理由

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第4週「1943-1945」

第20回〈11月26日(金)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第21回のレビューを更新しましたらTwitterでお知らせしています


戻ってくる人

寒い晩、金太(甲本雅裕)が亡くなった。心臓が弱っていたが無理して踏ん張っていたのだろうと千吉(段田安則)は推測する。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜20回掲載中)

金太の掘っ立て小屋で気落ちしている安子(上白石萌音)の前に現れたのは、菓子の箱を託された少年(山之内亮)だった。彼はあの晩、お金を持って金太を尋ね、亡くなっていることを発見した経緯を安子に話す。医者を呼んだのも彼だった。

「夜遅うに戸をたてえたんじゃ。おっちゃん、おはぎのおっちゃんって――」

少年のボーイソプラノの清らさが奇跡の物語感を高め、鳥肌が立った。

父の死に目に会うことができなかった安子だが、少年によって金太が死ぬ瞬間、算太(濱田岳)に会えたことを知る。「ああよかった」と自分の腕をかすかに抱えながら言う安子から心からの安堵が伝わってくる。

安子は少年が返した売上をその手に握らせる。「お仕事ご苦労さまでした」「しっかりと生きていかれえよ」と子供扱いしないで少年に敬意をもって接する安子。この時の少年の真剣な表情。

「たちばなの菓子ですくわれる人がきっとおるはずじゃ」という金太の想いがひとりの孤独な少年を救った。菓子を食べたら持ち逃げしようという邪悪な気持ちが薄れ、しっかり生きる気持ちが芽生えたのだった。

奇跡の物語に立ち会った安子。空を仰ぐ背中に陽光が当たる。そこには天使の羽があるようにも見えた。

商いの楽しさに目覚めた少年の顔にも強い光が当たっている。その背後の闇市で商売する人たちも生き生きしている。戦後は辛い状況が続いたというが、この場面では生きていこうとする人たちの生命力に満ちている。

戻って来ない人

終戦から3カ月半、ラジオの英語講座が4年ぶりに復活した。ナレーション(城田優)は、安子にとっての「ラジオの英語講座を聞くことは稔を思うことでした」を英語でも語る。稔と安子だけの秘密の言葉であるように。

「ひとつ英単語を覚えるごとに稔が帰る日が近づいてくる。安子はそんな気持ちで英語の勉強を再開しました」(ナレーション)

そうしているうちに勇(村上虹郎)が帰って来た。戦地での仕事が前線でなかったことを「よかったねえ」と喜ぶ美都里(YOU)に「戦争にええことなんかひとつもねえ」と反射的に激しく返す勇に、戦地の辛さが感じられる。勇はるいとボール遊びをして、「筋がええ」と褒める。彼はまだ「塁」と思い込んでいる。るい、毛量が増えたなあ。

安子の元に戻ってくる少年、ラジオの英語講座、勇。彼女が帰りをいちばん待ち望んでいるのは稔(松村北斗)である。だが、ある日もたらされた報せは……。

受け取ったのは勇。「父さん!」と呼ぶ声だけでただならないことがわかる。「戦死」の言葉に押し黙り、後ずさる安子。泣き崩れる美都里を置いて部屋を出る。

「稔さん、稔さん、稔さん」と何度も名前を心の中で呼びながら駆け出す安子。その声以外は無音。ばらついたカットが心の乱れを、安子の世界が崩れていく様子を感じさせる。安子にとって戦争それ自体よりも稔の死のほうが絶望だろう。

神社まで走り、倒れ込むように「意地悪せんで」とうずくまる。あんなに毎日神様にお祈りしたのに、神は何も語らない。愛する人が亡くなって嘆く場面は、感情を激しく揺さぶられるものではあるが、この場面では、ただ感情に訴えるのではなく、人間はこんなにも小さくて無力であること、それを痛感させたものは何であるか、怜悧に思考する眼差しがある。

無音のほかに聴こえるのは鳥の声と風のノイズ。風の音を大きくすることで不穏な感じを出している。


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