朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第5週「1946〜1948」

第23回〈12月1日(水)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第23回 安子と「カムカム英語」が出会う 朝ドラ名物・立ち聞きの役割は
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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朝ドラ名物・立ち聞き応用編

安子(上白石萌音)は毎日午後6時30分になると、塀越しにラジオ番組「カムカム英語」こと『英語会話』を立ち聞きしはじめる。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜23回掲載中)

「立ち聞き」は朝ドラあるあるのひとつである。登場人物が知り得ない重要な情報を偶発的に知る手立てとして手っ取り早い方法で、朝ドラではたいてい誰かが立ち聞きすることで話が動く。
そういうお役立ちのアクションだ。戦前戦後の襖で仕切った木造の和風建築がまだ主流だった時代だったから可能であり、現代のコンクリートでドアの洋風建築では立ち聞きは難しい。「立ち聞き」は時代を表すアクションでもあるのだ。

第23回で安子が外で偶然、ラジオから聞こえてくる『英語会話』を立ち聞きできるのも、防音が行き届いてない昔ながらの建築だからであろう。朝ドラ名物「立ち聞き」がこんなふうに生かされていると思うと楽しくなってくる。平川唯一(さだまさし)が「小さい赤ちゃんが――」というときに安子が背中のるいを見るところも細やかだ。

大阪で自立するため芋飴を作って売っていた安子は住宅街でたまたま「カムカム英語」の第1回を聞いて心惹かれる。主題歌が子供の頃に歌っていた「証城寺の狸囃子」だったことと、平川唯一のあたたかい声が魅力的だったのだ。

平川役はさだまさし。昔からラジオのパーソナリティをやっていて、人気を博している。落語もやっているからこその話術で、ライブでのMCの面白さにも定評がある。やさしくあたかかく、それでいて言葉が粒立って聞きやすい。
そんな語りが、安子をはじめとして日本全国の人たちが聞き入る声を演じるにはぴったりだ。あくまで声だけ、姿は見せない。見せてしまうといかにも“さだまさし”だろうから声だけのほうがいい気がした。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第23回 安子と「カムカム英語」が出会う 朝ドラ名物・立ち聞きの役割は
写真提供/NHK

それにしてもさだまさし、大ヒットメーカーにもかかわらず、朝ドラの主題歌をまだ手掛けていない。これがちょっと意外だが、長寿シリーズドラマ『北の国から』の主題曲のイメージが強すぎるのだろうか。


るいがしゃべった

15分という短い時間、新聞を読むことをやめて、お皿を洗うことを止めて、ラジオを聞いて……というのは朝ドラのコンセプトともつながっているように感じる。『エール』(2019年)でもラジオドラマが朝ドラの原点のように感じたが、ラジオドラマをさらに遡るとこういうラジオ番組が存在するわけだ。


制作統括の堀之内礼二郎チーフプロデューサーはこのように語っている。

「(前略)僕は『カムカムエヴリバディ』の裏テーマは“積み重ね”だと思っています。朝ドラの『1日15分』というペースは、語学学習にもぴったりなんです。それは藤本さんが英語講座の話をドラマにしようと考えたことのきっかけにもなったそうです。ラジオ放送がはじまった日に生まれた安子が、英語講座を聞きながら必死に学びを積み重ねていきます。……そんな小さな1日1日の積み重なりが最終的に今に繋がっていくことがドラマの中で描かれていきます」(ヤフーニュース個人より)

“小さな1日1日の積み重なり” の通り、安子は芋飴を工夫して、その味は人気になって売れるようになっていく。
仕事の合間の息抜きの『英語会話』を立ち聞きしていることをその家の人・小川澄子(紺野まひる)に知られて逃げてしまうが、のちのち、澄子に助けられ、ラジオを聞かせてもらえるようになるのも、芋飴がきっかけだった。

「英語の勉強はもうやめよう思ってました。そやけど、あの歌聞きよったら元気になるんです。大丈夫、どねんかなる、明日もがんばろうという気になれるんです」

安子の自助努力(芋飴と繕い物で生活を営む)と隣人の助けによって『英語会話』を聞いていると、いつも一緒に聞いていたるいが「カムカムエヴリバディ」とはじめて言葉をしゃべる。しゃべるというか歌う。『英語会話』の主題歌の歌詞である。安子とるいがひだまりの中、明るい音楽が流れた。12月の最初の放送は気持ちのよいものだった。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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