朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第6週「1948」

第29回〈12月9日(木)放送 作:藤本有紀、演出:二見大輔〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第29回 英語が堪能な上白石萌音 撮影で苦心したのは? 演出家に聞く
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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上白石萌音の英語力を演出の二見さんが絶賛

英語の得意な上白石萌音さんの面目躍如。安子がコツコツ学んだ英語が披露されるシーンは日本のドラマでこんなに英語が長く続くなんてとびっくりするものだった。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜29回掲載中)

演出を担当した二見大輔さんが上白石さんの英語を絶賛した。


撮影では、上白石萌音さんの英語が堪能なので、逆にどうレベルを落としていくかに苦心しました。英語指導の先生とも相談して、毎日毎日ラジオ英語講座を聞きながら必死の思いで勉強したらどこまでたどり着けるか、ということを検討した上で、上白石さんと相談して安子の英語表現を作っていきました。毎日15分、ラジオ講座を聞けばこうなるかもしれないよという希望も感じていただければと思います。


英語がわからない方も多いと思いますが、たとえ、意味がわからなくても、安子やロバートの感情は言葉以上に伝わった気がしています。英語が堪能な上白石さんは、英語でも言葉に気持ちを載せることができるので、それは本当にすごいと思います。

楽しい晩に

クリスマス・イブ。安子とるい(中野翠咲)はいつものように平川唯一(さだまさし)の『カムカム英語』を聞く。平川がクリスマス・イブの意味を語る一節に、「この楽しい晩に何もできない人たちのためには方々(ほうぼう)の教会とか団体でクリスマスバスケットというのを作って、そっとそれを送り届けたり、それは見るからに楽しい日なんですよ」というものがあった。続けて、「自分のことよりもまず人の喜ぶ幸福を心がける日なので、自然と自分も限りなく楽しいわけなんです」と語る。

クリスマスとは何不自由なく持っている人達が自分たちだけ楽しく満たされていればいいのではなく、持たざる者への慈善の心を振りまく日なのである。そんなこと、いまの時代の日本人は忘れてしまっている気が筆者はした。

「家族団らん」の語りのところでは、水田屋豆腐店や雉真家の人たち、「この楽しい晩に何もできない人たちのために」のところでは雪衣(岡田結実)がたったひとりで食事の支度をしている場面。家族団らんの楽しい晩にも労働している雪衣の家族はどうしているのだろうかと気になる。


平川は「私たちカムカムの赤ちゃんは毎日辺りへ幸福を撒き散らしているんですから、自分も幸福なわけですね」とも言う。「カムカムの赤ちゃん」――これはどういう意味だろう。『カムカム英語』を聞いて学んでいる子供たちということだろうか。幸福を撒き散らす赤ちゃん――天使のイメージが浮かんできた。

『カムカム英語』は未来ある子どもたちに、英語と道徳心を語りかけていたのであろう。楽しくて役に立って心が豊かにきれいになる。ラジオでもテレビでもそういう番組が放送されてほしい。そればっかりでも押し付けがましくなってしまうから、ときには不謹慎なくらいのものがあってもいいけれど、例えば朝ドラはたったひとつの“良心”として残ってほしい気がしてしまう。

るいはいつもと違う顔でラジオを聞いていた。美都里(YOU)稔(松村北斗)を殺した国の言葉を聞きたくないと言われたからだ。それを知った安子は呆然となる。このときの安子の固まった表情。
言葉が出ないという顔そのものだった。

おはぎより洋菓子の時代に

クリスマス、進駐軍が子供たちにチョコレートなどの洋菓子を配っているため、おはぎが売れなくなってしまう。しょげる安子は将校――ロバート・ローズウッド(村雨辰剛)と再会。彼はおはぎを全部買い上げてくれて、進駐軍の建物に案内する。彼は実は日本語を勉強してある程度話せるが、焦ると言葉が出なくなる。花屋さんとの誤解はそのせいだった。ロバートがお花が好きなのは、村雨辰剛が庭師だからなのか。

ロバートは安子がなぜ英語が上手か質問する。安子は英語で自分と英語の出会い――すなわち稔との出会いを語る。幸福だった日々が戦争で壊れてしまった。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第29回 英語が堪能な上白石萌音 撮影で苦心したのは? 演出家に聞く
写真提供/NHK

15分のドラマの3分の1くらいが英語という斬新さだったが、英語で語ることで安子にとっては不可侵なほど特別な体験であることが強調されるし、過去の振り返りが説明科白ではなく、まるで詩のように感じられる。ここは本来、日本語で詩というか文学的な表現をしたいところだけれど、敵だった外国人に彼らの言葉できちんと日本人の物語を聞かせるということが大事なのである。

Why my hazband is not with me anymore?
「もう夫はいないのに、どうして英語を勉強しているんでしょうか?」

懸命に学んだ稔の努力は戦争で泡と化した。
残された安子のどうしようもない想い。安子の嘆きが英語になって震え響きわたる。

言葉や文化や歴史や、何もかもが違う異国の人たちと対等に語り合い、互いの意思を表明し、わかり合うこと。稔が願った「自由」とはそこからはじまるのではないかというけっこう骨太な意思を感じるのは気のせいだろうか。ロバートが日本語を学んでいることもその心を感じる。

安子の気持ちを聞いたロバートが彼女を連れていった場所は――
『あさイチ』で博多華丸が「あてつけですか?」と言うような華やかな場所。ロバートの思惑は果たして?
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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