朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第6週「1948」

第27回〈12月7日(火)放送 作:藤本有紀、演出:二見大輔〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第27回 みんな大好きだった「たちばなのおはぎ」勇の野球愛も止まらない
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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安子、豆腐屋でおはぎを売る

事故から3カ月ほどが経ち、安子(上白石萌音)の左腕が完治した。一方、るい(中野翠咲)の額の傷は残ったまま。ナレーション(城田優)で語りながらも、安子が両手で髪をときながら鏡で完治した手を見ること、その左手でるいの傷に触れることで、文字情報としても、画としても、両方でわかる優れたはじまりである。


【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜27回掲載中)

橘の敷地が他者のものになってしまったため、安子はきぬ(小野花梨)の水田屋豆腐の一角を間借りしておはぎを売り始めた。地元の人達は「たちばなのおはぎ」を覚えていて、懐かしみながら購入していく。

みんなが好きだった「たちばなのおはぎ」。勇(村上虹郎)も子どものときから好きだった。という回想から、勇のターンへ――。

勇はおはぎも好きだが、一番好きなのは野球。
雉真繊維の業績をどう伸ばすか、千吉(段田安則)に聞かれると、野球を例えにしてこれまでの雉真の流れを振り返る。

勇「ちゅう話しやな」
千吉「違う」

あっさり否定されてしまう勇。勇の野球愛をちょっと大げさに語るシーン。軽妙で楽しく見ることができた。野球の道具も片付けてしまい素振りやキャッチボールはできないし、野球野球とセリフで言っていても代わり映えがしない。こういうふうに大げさに見せることで勇の未練が伝わってくる。


「ちゅう話しやな」は第6週の予告編の最後にも使用されていた。汎用性の高いカットである。

朝、台所で、「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」と「たちばな」直伝のやり方で小豆を炊いていると、勇が来て、自分は野球しか脳がないと弱音をはく。四番サードという花形がいまではなんの役にも立たないとしょげる勇に、野球に打ち込んできた勇にしかできないことがあると励ます安子。おそらく勇は敗戦国日本の暗喩でもあるだろう。

幼馴染のふたりの仲良いところを、女中・雪衣(岡田結実)が目撃し、微妙な表情を浮かべる。
なんでこんなに雪衣は意味深なのか……。わかりやすいけれど、自然と雪衣にネガティブな気持ちが沸いてしまうことに戸惑いも否めない。それも狙いなのだろうけれど。

安子になおも苦難が……という流れなのだろう。雪衣の存在が気にかかるうえ、さらに千吉が安子に子連れで商いすることを禁じる。雉真のメンツにかかわるという理由で。
安子としてはるいの治療費を稼ぎたい一心だが、子連れでみみっちく商売されると、雉真家が嫁に意地悪しているみたいに思われるのがいやなのだろう。るいさえ手伝っていなければ、嫁(ある意味他人)が勝手にやっていることになる。美都里(YOU)がおとなしくなったら千吉が冷たい。

何も知らないるいは、お留守番させられることを悲しむ。引き裂かれそうな思いに苦悩する安子。前途多難である。


それでも、リアカーを使って営業にまわり、ささやかに事業を拡大していく安子。どこでも「たちばなのおはぎ」を覚えていた人たちが集まってきて好評。彼女のこのバイタリティーを見るに、本当は安子が雉真の仕事を稔に代わってやってもいいんじゃないかとさえ思う。そんな朝ドラもありそうだが、『カムカム〜』はそうではない。安子には違う世界が待っている。



「May I help you?」

ある日、中年女性が進駐軍将校(村雨辰剛)の前で平謝りしているところを目撃し、思わず「May I help you?」と話しかける。安子、はじめて、英語を実践。


ここで注目したいのは、中年女性が外国人将校に平謝りの姿勢であること。訊かれた言葉がわからないからすみませんという意味合いもあると同時に、おそらく日本人が外国人に対して敗北感があるのだと感じさせる場面でもあるだろう。何かひどい目に遭わされそうという恐怖で身を小さくして謝るしかない。終戦から3年経って、商店街に英字で看板が立っていても、外国人に対する苦手感は拭えないのではないか。

自己肯定感の低い勇も含め、この時代、大国アメリカに負けた気分からどう立ち上がっていくか誰もが模索しているような雰囲気がさりげなく描かれている。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第27回 みんな大好きだった「たちばなのおはぎ」勇の野球愛も止まらない
写真提供/NHK

気になる将校役は村雨辰剛。外国人にしか見えないビジュアルだが日本の名前で、日本人なの?と思ったら、日本愛があって日本国籍を取得したそうである。俳優ではなく庭師、そして『みんなで筋肉体操』にも出演していたという気になる経歴の持ち主だ。

今週は、たいそうのおにいさん・小林よしひさも出ているし、体操系の出演者を集めてきているのだろうか。彼らの登場によって戦後、安子の生きる世界が変わってきていることを感じさせる。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami