朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第7週「1948-1951」
第31回〈12月13日(月)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり、橋爪紳一朗〉

※本文にネタバレを含みます
※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第32回のレビューを更新しましたらTwitterでお知らせしています
「クリスマスにサンタがやってきました」
今週はサブタイトルによれば1948年から1951年まで話が進むようだ。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜31回掲載中)
「メリークリスマス Mrs.雉真」「メリークリスマス Mr.ローズウッド」とロバート(村雨辰剛)と安子(上白石萌音)がやりとりするとき、映画『戦場のメリークリスマス』(大島渚)を思い出した人もいるのではないだろうか。北野武とデヴィッド・ボウイのあれである(音楽:坂本龍一)。

算太が雉真家の玄関に訪ねてきたとき、正面を向いてなくて背を向けて、喜びと驚きに一拍間を置くために、電球を直しているという小芝居も良い。こういうひと手間が芝居には重要だ。


るい(中野翠咲)は「算太おじさんじゃ」と安子に紹介されて、「サンタのおじさん?」と勘違いする。サンタは贈り物を持ってくる存在だが、算太は彼自体が最高の贈り物だ。なにしろ、安子しかいなくなってしまった橘家の生き残りであるのだから。彼さえいれば、橘家は生き続ける。
るいへのクリスマスプレゼントは、ロバートのお菓子と稔(松村北斗)の形見の英語の辞書。安子からるいに稔の形見が引き継がれた瞬間は胸が熱くなった。
また、安子が「Mrs.」であることも地味に印象的。英語は呼び方で既婚か未婚がわかるから便利でもあると同時に、いちいちその人をカテゴライズすることがうっとおしくもあるところ。そのため最近はこの分け方を使用しなくなってきているが、『カムカム』で安子に「Mrs.」呼びすることは稔のことを思い出させる仕掛けとして効果的である。
戦場のサンタ
モノクロ映画のような算太の戦場の回想シーンは『戦場のメリークリスマス』ならぬ『戦場のサンタ』だった。戦地のジャングルで飢えて、おはぎの幻を見ていた算太。チャップリン(濱田岳)が現れて一緒にダンスをする。チャップリンの背中には「WAR IS OVER」と書かれている。おはぎに見えたものは動物かなにかの排泄物だったのだろうか。でも手にしたとき、そこには何もなかった。命からがら生還したが、すでに父も母も祖母も祖父も亡くなっていて、「いっぺんに多すぎるじゃろ」と安子に冗談めかして言う算太。だが彼のショックははかりしれないことがあとでわかる。

安子に「ダンスのお仕事探すんじゃろ、お兄ちゃん?」と訊かれ、「もうその必要ねえじゃろ」と返すのは、見てもらいたい人がもういないという無気力の現れだったことがわかると、なんともやるせない。そんな思いを払拭するために算太は酒を飲み、「おめえ、意外とわしより策士じゃのう」などと何かとひねくれた物言いをしはじめる。
算太の気持ちがわからず安子が手をこまねいていると、美都里(YOU)がやって来て、「恋しんじゃろ、おとうさん、おかあさんに会いとうてたまらんのじゃろ」と抱きしめる。少し精神が正常でなくなっているような美都里の醸し出す雰囲気だからこそ、算太は本音が出せるのだ。息子を亡くした母の悲しみと親と折り合いをつけられないまま亡くした子供の悲しみが重なり合った。算太の「お父ちゃん、お母ちゃん」と呼ぶ声は子供のようになっている。
そして再び『戦場のサンタ』。母・小しず(西田尚美)がジャングルに現れて、算太に港への道を教える。抱きしめたアングルが美登里と同じだった。
「生きとるだけでええんじゃ」と美登里。「よう生きとってくれたねえ。もうそれだけで十分じゃ」と小しず。

藤本有紀が贈る、あたたかなクリスマス・ストーリー。これは、金太が亡くなったエピソードと対になっている。筆者がヤフーニュース個人で制作統括の堀之内礼二郎チーフプロデューサーに取材したとき、「朝ドラは、よく幽霊が出てきてそれも良いのですが、『カムカム』では単なる回想ではないあり得たかもしれない場面がいくつも出てくることがステキだなと思います」と感想を述べると、CPはこんなふうに話してくれた。
一方で、リアリズムを大事にしていて、幽霊ではなくあくまでもリアリズムの世界で、また違う世界を見せたいというか、リアリズムもファンタジーもあるエンタメとしての見せ方を大事にしているのではないかと思います
夢や空想の場面を別途出すと話が作りやすいものだが、『カムカム』の場合、ここから夢です、妄想です、と切り分けてしまうのではなく、なぜ人が夢を見たり妄想したりするか、それがその人の心にどう作用するか、ちゃんとそこを含めて描いていて、だからこそ深く心に染み入ってくる。物語は表層的なものではなく深く丁寧に、小豆のように煮込んでいくものであることを『カムカム』はやってみせてくれている。2021年の暮れにいいものを見ることができて幸せだ。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami