朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第8週「1951-1962」

第38回〈12月22日(水)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第38回 雪衣「うっ…」るい「I hate you」視聴者「!!!!」
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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るい!

「なんでこないなことに」――。
安子編からるい編へ――怒涛の展開だった。別れ、誕生、再会、成長……世界の縮図がそこにある。
それはかなりの痛みを伴っていた。

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雨に映える青もみじ。梅雨のように見えるが春。るい(古川凛)の入学式の日。彼女はひとり列車に乗っていた。お母さんのことを思いながら。顔が稔(松村北斗)に似ているが、ひとり列車に乗って会いたい人に会いに行く強い精神力は安子に似ている。

その頃、お母さんの安子(上白石萌音)は「るい…るい…るい」とうわ言を繰り返し……。目が醒めたら、そこにはロバート(村雨辰剛)がいた。

大阪に算太(濱田岳)を探しに来て倒れてしまった安子。「入学式!」と起きあがるが、「もう間に合わないでしょう」と冷静なロバート。「なんでこないなことに」と嘆く安子。
本当に「なんでこないなことに」の第38回。

「わたしはただ当たりめえな暮らしがしたいだけなのに」とるいをやさしく抱く稔を妄想する安子。そんな彼女をロバートはアメリカに誘い、「アイラブユー」と抱きしめる。

運悪く、それをるいが外で目撃していた。ここは大阪の物置を改装した場所? それでるいは見当つけて訪ねてきたの?

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第38回 雪衣「うっ…」るい「I hate you」視聴者「!!!!」
写真提供/NHK

「るいを置いてはいけません」と断ったところまで見ないまま、るいは雨の中、ひた走る。そこで蘇るのは、雪衣(岡田結実)のるいを“女手ひとつで育てることを諦めて雉真家に返した”という言葉だった。ほら、やっぱり幼い子にへんな言い方をすると影響を及ぼしてしまうのだ。るいは自分が母に捨てられたと確信してしまったのだろう。

そんな罪深い雪衣がさらに罪深いことになるとは……。

「るいが私の幸せです。なによりもるいがいちばん大事なんです。一緒に暮らせなんでもええ、るいのそばにおりてえ。
るいは私の命なんです」と安子はるいファースト。

入学式に間に合わないことをわびるため岡山に電話したら、千吉(段田安則)から「るいがおらんようになったんじゃ」と聞き、土砂降りの中、るいを求めて走る。岡山に急ぎ戻る。

「るい…るい…るい」とるいのことで頭も心もいっぱいの安子。岡山でもるいを探す人たち。定一が店で物憂げに「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」をかける。ひなたの道を求める歌と、土砂降り。そこにきぬ(小野花梨)が産気づき、雪衣がつわりをもよおし、定一のひとり息子で戦争に行った健一(前野朋哉)が帰って来る。別れ、誕生、再会、雨とサニーサイド……人生の縮図である。

「るい…るい…るい」

大阪駅でみつかって連れ返されたるいがやけになって家から出てくると、ちょうど安子が帰って来た。「るい!」とすがりつく安子に、「二度と会いとうねえ」と冷たいるい。額の傷を出して、「I hate you」とだけ言って戸を閉める。


愕然となる安子に、きぬの生まれた子の産声が響き、安子がるいを生んだときのことが蘇る。安子の中のどうしようもない娘への愛情を、これから生まれる子どもと母、長らく待ち続けた息子の帰還を迎える父という様々な親子愛を重ねることで、安子とるいの物語が普遍的な親子の情にまで高まった。

さらにいえば、出産と帰還の喜びと妊娠?の驚きによって、安子とるいの悲劇が幾分緩和されて見える。これだけだとしんど過ぎるから、いろんな出来事が分散されてよかったように思う。

るいに拒絶され、呆然となった安子が雨のなか、土手を降りていくと、ロバートがやって来た。安子は「私をアメリカにつれていって」と英語でお願いする。



そこに「アルデバラン」がかかる。<君と私は仲良くなれるかな この世界が終わるその前に>。この歌詞を“私たち”の普遍的な祈りに思って聴いていたが、ここでは前述の安子とるいの物語を世界中の親子の物語にしてみせたこととは逆に、安子とるいの物語の歌であることを示す。大きな世界と小さな世界、この鮮やかな循環! まさに「禍福は糾える縄の如し」を映像化して見せた『カムカム』の偉業にスタオベしたい。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第38回 雪衣「うっ…」るい「I hate you」視聴者「!!!!」
写真提供/NHK

タイトルバックが終わると、河原に勇(村上虹郎)がやってきて、その視線の先にいる人物は――
深津絵里演じる成長したるい編が幕を開ける。

安子はあのままアメリカに行ってしまったのか。
この空白の部分の謎は今後の『カムカム』を牽引していくのだろう。

それにしても「I hate you」。安子としいたけが同じになってしまったことが最も胸をしめつける。でもこれも逆をいえば、しいたけ程度のことだったのに、なんか深刻に受け止め過ぎちゃったのでは……とあとで笑って話せたらいいのに。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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