【前篇はこちら】芸人になるため東大法学部へ、大島育宙「就職は得策じゃない、芸人という“ハブ”があれば何でもできる」
【中編はこちら】東大芸人・大島育宙が絶対M-1に出ない理由「ネタ至上主義と仕事の本質はつながらない」
【写真】芸人、ドラマ&映画考察、ラジオパーソナリティ、など幅広く活躍中の大島育宙
──現在はどんな割合で仕事をされているのでしょうか。
大島 YouTubeは時間がある時に更新しているので、広告系の会社で働いている時間が一番多いです。ただ、収入としてはYouTubeのほうが多いですね。
──YouTubeチャンネルが伸びたきっかけを教えてください。
大島 2019年3月から始めて、当初は週に1本くらい映画のレビューを更新していたんですけど、なかなか伸びませんでした。秋くらいにまわりから「『あなたの番です』(日本テレビ系)を扱ってみたら?」と勧められて考察動画をアップしたら一気に伸びて。そこから仕事が広がっていきました。
──考察のポイントはあるんですか?
大島 すでにドラマ考察YouTuberがいたので、その方たちのフォーマットを勉強したんですけど、「他の人が指摘してないことを言う」のがポイントだと思いました。みんなと同じことを言うのなら圧倒的に優れた編集、圧倒的にいいルックス、圧倒的にいい滑舌でやらなきゃいけない。「他の人が指摘してないことを言う」も、ただ逆張りではなく、自分の中で人と違う視点が出てくるまで、繰り返し作品を観て思考し続けます。レビューや評論において、人と違う視点が出てこなかったら発信すべきじゃない。「これは新しいはず」という視点を思いついたらツイート検索して、同じ言葉を呟いてる人がいたら自分独自の意見としては発信しません。
──大島さんの考察が注目されたドラマ『あなたの番です』の魅力を教えてください。
大島 制作の裏側を聞くと、(企画・原案の)秋元康さんはゴールから計算して、「ここで人が死ぬようにしないと盛り上がらないから殺され方を考えてほしい」と言って、脚本家やプロデューサーが頭を抱えながらアイデアを考えたらしいですね。「どうすれば視聴者の気持ちが盛り上がるか」を徹底的に考えて、そこから逆算してトリックを考える作り方。
海外のドラマでは普通にやっていることだけど、日本では少なかった。『あなたの番です』の目的は視聴者を納得させるトリックと言うよりも、半年(2クール)走り切ってみんなを熱狂させること。最終回のネタバラシに批判もありましたが、19話まで視聴率が高かったから目的の99%は達成されていると自分は思ってます。
制作側は散りばめた謎を拾ってほしいと思っているわけで、僕が誰も気づいてないことを指摘すると、制作スタッフの方たちも喜んでくれたみたいです(笑)。『真犯人フラグ』(日本テレビ系)の時はプロデューサーと脚本家が僕のチャンネルに遊びに来てくれました。裏方の人が観ても嫌な気持ちにならない考察にしたいなと思いつつ、みんなが褒めていてもダメな作品だと思えば酷評することもあって。そんな時も、無限にしゃべることができるくらいの準備をして、「酷評のための酷評」はしないようにしてます。一応のプロ意識ですね(笑)。
──最近は考察を楽しめるドラマが増えてきました。テレビとYouTube、SNSがいい相互作用をしているのかなと思います。
大島 ただ、それだけがドラマの作り方になってほしくないというか。正直、考察を狙ったドラマで「こうしておけばいいんでしょ」という姿勢の作品も増えていて、そんな作品を作る時間があればもっと豊かな作品を作ってほしいと思います。僕のYouTubeでは、血が通ってないと思った作品は扱わないようにしてます。自分の感情に嘘をついてしまうと地獄なので。
──大島さんにとってゴールはどこに設定しているんですか?
大島 みんなゴールってあるんですかね?
──一般的に芸人だったら冠番組を持つとか。
大島 芸人にとっての目標と言える収入源はCMや冠番組だと思うんですけど、CMを継続するかは企業の判断だし、番組だって局の都合でいつ終わるかわからない。それをゴールにすることは不健全なので、自分が持ってる能力を目標にすべきだと僕は思います。僕にとっては、信頼と経験と語彙と表現力を増やし続けることが目標なのかもしれません。誰に憧れてるか聞かれた時に名前を挙げるのは伊集院光さんです。
──伊集院さんとは共演しているんですか?
大島 クイズ番組でご一緒していました。その頃、僕は怪談をやっていた時期だったので、楽屋挨拶で「伊集院さんの創作怪談を参考にしてます」と話したら、「俺はもう怪談をやらないから伝授してあげるよ」と言われて。六本木から1時間30分くらい、2人で話しながら歩いて帰りました。
ずっとプライベートなことは聞かれなかったんですけど、最後に「俺が教えてばかりでもなんだから何か君の話を教えてよ」と言われて。学生時代、テレビを観させてもらえなくて声だけを聴いていたので、デッカチャンさんを「こういう人なのかな」とイメージしていたんですけど、ある時、DJイベントのポスターに載っていたデッカチャンさんを観て元のイメージが崩壊して思い出せなくなったんです。そんな話をしたら、伊集院さんが翌週のラジオでその話をしてくださって。自分を面白がってくれたことがうれしかったです。
──大島さんにとって伊集院さんは、お笑いに目覚めたラジオのパーソナリティーですからね。
大島 若手芸人が出るテレビと違って一人当たりの持ち時間が圧倒的に長いので「競争がない」「両論併記できる」に当てはまる念願のお仕事です。レギュラーが始まってからは毎日、複数の新聞を隅から隅まで読むようにして、そこに書いてあることは言わないようにしています。スクリーニングしたうえで「何が言われていないのか」を考えてコメントするようにしてます。それが仕事だと思うので、ちゃんと仕事をしてちゃんとお金をもらう。その曲線がゆるやかに上がっていくことだけを、これからもしていきたいと思ってます。