岡田将生清原果耶のW主演で、監督・山下敦弘と脚本・宮藤官九郎が初タッグを組んだ映画『1秒先の彼』(7月7日公開)で、セクシー男優のしみけんが映画初出演を果たしている。「消えた1日」をめぐって、不器用な男女が織り成す「愛」と「時間」をコミカルに描いた本作において、なぜ彼に白羽の矢が立ったのか。
セクシー現場とは異なる緊張感に圧倒されながらも、チャラいギャル男を好演したしみけんに、撮影現場でのエピソードや、これまでのキャリアを語ってもらった。

【写真】脚本・宮藤官九郎、岡田将生と清原果耶のW主演、映画『1秒先の彼』場面写真【30点】

『1秒先の彼』のオファーは突然のことだった。

「僕の仕事用のメールアドレスにオファーが届きました。山下敦弘監督とクドカン(宮藤官九郎)さんとは面識がなかったのですが、後で聞いた話によると、山下監督がクドカンさんに『しみけんどう?』と推薦してくださったそうです。山下監督が撮られた映画『苦役列車』には、先輩男優の花岡じったさんが出られていたのもあって、オファーはうれしかったですけど、セリフがあったらどうしよう……と不安でした。そしたら、結構セリフのある役で焦りました」

AVはドラマ物が多いだけに、演技力のあるセクシー男優も少なくない。
だが、しみけんはドラマ物の出演が極端に少ない。

「僕がドラマ物に出演すると、普段のキャラが出ちゃうので、どんな役でも“しみけん”になってしまうんです。だからドラマ物には、あんまり呼ばれないんですよね」

本作は何をしても人よりワンテンポ早いハジメ(岡田将生)と、いつも人よりワンテンポ遅いレイカ(清原果耶)の異なる視点から描かれる、「消えた1日」をめぐる物語だ。

「僕自身、エレベーターに乗ろうとしたら目の前で閉まってしまったり、横断歩道を渡ろうとしたら目の前で赤になってしまったり、飲食店の列に並んでいたらタッチの差で前に割り込まれて満席になってしまったりと、レイカのように1秒遅い経験がよくあります。また周りにはハジメのように1秒先を行く人もいます。

なので初めて脚本を読んだときに、『こんな人いるいる!』というエピソードが身近に感じられ、素直に面白いと思いました。
もともとタイムリープを描いた作品が好きなので、時間軸がテーマなのも惹きこまれました。ただ自分の出番を見たら、歌を唄うシーンがあって、音痴なのでドキッとしました」

しみけんが演じるのは、ハジメの妹でガングロギャルの皇舞(片山友希)と交際している、ギャル男のミツル。3人は長屋で同居していて、お互いの気持ちを忌憚なく言える仲だ。

「山下監督に『ギャル男はマッチョじゃないから、撮影日までジムは駄目だ』と言われたので、2週間ぐらいジム通いをやめたんです。その間は体を鍛えたくてムズムズしましたね。役作りで言うと、ミツルは舞ちゃんに頭が上がらないけど、お義兄さんのハジメには"心で距離が近くなるような雰囲気"を出したいなと思って。
ミツルだったら、どういうふうに話すのかなとシミュレーションして、撮影日の1週間前から気持ちの切り替えをしました。ただ、山下監督が『そのままでいい』と言ってくださったので、無理にキャラ作りはしませんでした」

クランクインまでにセリフを頭に叩き込み、万全の状態で臨んだが、初めての映画撮影では勝手が違った。

「知人の俳優さんが『あまり感情を入れないで、真っ白の状態でセリフを覚えてくれ』とアドバイスされたので、寝言でもしゃべれるぐらいセリフを覚えて現場に行ったんです。でも、『ヨーイスタート!』ってなったら、緊張で全部飛ぶんですよね。そんな僕を見て、片山友希さんが積極的に話しかけてくれたのがありがたかったです。

あと舞台が京都なので、台本の時点ではミツルも京都弁だったんですけど、それだとギャル男っぽくないということで、標準語に変更になったのは助かりました。
とはいえ苦戦するシーンも多くて……特にハジメが出したコンドームを奪うシーンがあるんですが、『お義兄さん!』と言いながら奪うタイミングがなかなか合わず、何回かリテイクしてしまいました」

現場では度々、山下監督の演出や観察眼に圧倒された。

「緊張感がある中にも、皆さん生き生きしていて、『これが山下監督の現場か……』と山下監督の偉大さを感じましたし、登場人物のすべての行動に深い意味があって、観察眼がすごい人だなと。コンドームを奪うシーンも、監督がやると自然なのですが、僕がやると違和感があるんです。その自然な空気感を作れる演出ができる山下監督は本当にすごいなと思いました」

岡田将生の人間力にも助けられた。

「岡田さんは笑顔が素敵で優しいスーパーお兄さんです! 休憩中に食べ物や車の話をしてくれたので、すぐに打ち解けることができました。岡田さんと片山さんのおかげで、3人の中に家族感、仲間感ができたように思います。
お二人の姿を見て、僕も初心に帰るというか、本業でも初めての女優さんに対して、より優しくしようと襟を正しました」

完成した作品を試写で観てたときは、クオリティーの高さに圧倒された。

「台本を読んだときに、僕が頭の中で想い描いていた絵とは比べ物にならないほどクオリティーが高くて、テンポも良くて。とても見やすくて楽しめました。当たり前なんですけど、自分の出てくるシーンが前もって分かるじゃないですか。『この次に僕が出てくるんだ!』と思うと緊張して、逆にニヤニヤしちゃって。そのニヤニヤを誰にも見られたくないから、椅子に隠れて見ました(笑)。


正直、反省点もあったんですけど、この作品を通して、いろんなことを学ばせていただきましたし、役を通して違う人の人生を歩むって面白いなと。みんなが同じ方向を向いて作品を作る楽しさも知って、またチャンスがあれば映画に出てみたいです」

【後編はこちら】映画初出演・しみけんの波乱な人生「僕を助けてくれた業界、死ぬまで男優を貫きたい」