『ルーズヴェルト・ゲーム』や『陸王』などを手がけた池井戸潤氏の同名小説が原作のドラマ『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)。9月14日に最終話(9話)が放送され、カルト団体の恐ろしさを示す幕切れとなった。


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人気に陰りが見えているミステリー作家・三馬太郎(中村倫也)は、ハヤブサ地区という田舎に構える亡き父が残した屋敷に移り住み、そこで連続放火事件が起きていることを知る。真実の究明を進める中、放火事件には新興宗教・アビゲイル騎士団が関与していたことが発覚。

アビゲイル騎士団は過去に代表と幹部ら数人が12人の信者を拷問して死に至らしめた過去があったが、聖母アビゲイル教団と名前を変えて水面下で着々と活動をしていた。そして、ハヤブサ地区を新しい拠点にするために乗っ取りを計画していたことを知る。聖母アビゲイル教団の顧問弁護士を務める杉森登(浜田信也)は、アビゲイル騎士団の元信者である立木彩(川口春奈)を言葉巧みに騙し、教団の聖母と祭り上げ、信者を集めて聖母降臨の儀式を実行しようとする。

しかし、太郎が彩を説得して、さらには太郎の所属するハヤブサ消防団の面々の活躍によって杉森の計画を潰してハヤブサ地区を守ることに成功。
また、杉森が放火だけでなく殺人にも関わっていたことを知った多くの信者は教団を抜け、聖母アビゲイル教団は実質壊滅となった。

構図的には杉森の悪事を太郎達が阻止して多くの人達を救った、という幕切れとなったが、ハッピーエンドだったのかは判断が難しい。9話ラストに聖母アビゲイル教団の信者が喫茶店で、新たに聖母を祭り上げて信者を勧誘するシーンがあった。聖母アビゲイル教団は再び名前を変えたのかどうかは不明である。ただ、すでに活動を再開しており、今後ハヤブサ地区のように命を落とす人、放火被害に遭う人は現れるかもしれない。とにもかくにも、カルト宗教がいかにしぶといのか感じずにはいられなかった。


とはいえ、「カルト宗教がしぶとい」と言うよりは、「それだけ救いを求めている人が多い」とも言えないか。勧誘活動に努めていた信者達が、何を目的に教団再建を目指しているかはわからない。金銭目的かもしれないが、“縋れるもの欲しさ”という可能性も高い。そうであれば、縋れるものを奪った太郎達に感謝するどころか、恨んでいる信者も珍しくないのではないか。

カルトを取り上げたドラマとして『TRICK』(テレビ朝日系)のあるシーンにも触れたい。同作のエピソード1『母之泉』では、カルト団体『母之泉』の教祖であり、ビッグマザーこと霧島澄子(菅井きん)が登場する。


霧島は読心術や空中浮遊といった“特殊能力を使える”として、多くの信者から崇拝されていた。しかし、山田奈緒子(仲間由紀恵)と上田次郎(阿部寛)の働きによって『母之泉』は解体。霧島は自殺、霧島の側近として様々な悪事を指揮していた津村俊介(山崎一)は逮捕されて一件落着したが、モヤモヤの残る終わり方だった。

津村は警察に連行される時、教祖だけでなく母之泉を失って悲しみに暮れる信者達を見ながら、「正しいことをしたつもりか?」「ビッグマザーを失ったあいつらになにが残る?希望も救いもねぇ人生が待ってるだけだ」「本当にあいつらを救おうとしたのはどっちだ?」と山田に吐き捨てるシーンが印象的だった。津村の発言に加えて、勧誘を続けている聖母アビゲイル教団の信者を鑑みると、そういったカルトが心の癒し、支えになっていた人も少なくないのではないかと思えてしまう。

もちろん、殺人や放火などは決して許されない。
たとえそれが人々を救うための手段だったとしても。さらには、旧統一教会が問題視され、二世の人の苦しみを見聞きする機会も増えた。カルト団体がもたらす悪影響を嫌というほど痛感させられ、擁護しようとは決して思わない。それでも、カルトが救いになっている人がいるという事実に向き合うことも、苦しむ人を救うためには大切なプロセスなのではないか。

カルト団体を潰して、抜けさせて終わりではなく、その後の信者に対するサポート体制を整備しなければ、終わりがないことに気づかされる最終回でもあった。

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