東京女子プロレスで活躍する瑞希。もとはアイドルとプロレスの二刀流として活動しており、発売中の書籍『プロレスとアイドル』(太田出版・刊)でも、その凄まじい半生と成長物語が綴られている。
2024年、ベルトもパートナーも失ったという瑞希はどのような未来を見据えているのか、話を聞いた。

【写真】現役アイドルより小柄な身体を個性に試合で躍動する瑞希【11点】

「ホンモノのアイドルの中に、ひとりだけニセのアイドルが混ざってる。アハハハ!」

刷りあがったばかりの書籍『プロレスとアイドル』を開いた瑞希は巻頭に掲載されている撮りおろしページの自分の写真を指さして笑った。

現在は東京女子プロレスのトップレスラーとして君臨する瑞希だが、もともとはプロレスとアイドルの二刀流で活動してきた。しかしアイドルとしてはブレイクすることなく、プロレス一本に絞ってきた過去があるため、著名なグループに所属している他の選手と比べて、私だけニセのアイドルと自虐してみせたのだ。

それでも撮影時にもっとも「アイドル性」を発揮したのは誰あろう瑞希だった。
シャッターを切るたびに表情やポーズが小気味よく変わる。アイドルとしては地下育ちだけれどもそれゆえの「したたかな生命力」を強く感じた。

そして、プロレスラーとして瑞希は大成した。

昨年、団体最高峰のプリンセス・オブ・プリンセス王座を獲得すると、春・夏・秋の年間3大ビッグマッチのメインイベントをコンプリート。1年を通じて安定した活躍を見せる真のトップに輝いた。

現役のアイドルと比べても小柄な部類に入る瑞希だが、あえて肉体改造という強くなる近道を選ばず、小さくて細い身体を「個性」として受け入れ、その自分らしい体形をキープしつつ、ほかの選手にはないインパクトのある技を繰り出せないか、と試行錯誤を繰り返した。
それが昨年、見事に華開いたことになるのだが、事態は急変する。

2023年10月に王座から陥落すると、12月には最高にして最強のパートナーだった坂崎ユカが海外に主戦場を移すため東京女子プロレスのリングを卒業。ベルトもパートナーも失ってしまった瑞希は「いまの自分にできることはなんなのだろうか?」と自問自答しながら2024年を迎えることになった。

「性格的にいろんな面で自分にないものを数えがちだけど、2024年始まってみたら改めて今年も応援してくれる方がそばにいてくれて、新しく見つけてくれる方がいて大好きな仲間もいる。落ち込んでいる暇なんてないなって思いました。こうなったら今年はありとあらゆる『可能性のドア』を開けまくって、新しい可能性に挑戦していきたいと思います!」

1月20日に開幕した『第4回“ふたりはプリンセス”Max Heartトーナメント』。
タッグ王座を狙うチームが続々とエントリーする中、正パートナー不在の瑞希は鈴木志乃との異色コンビで参加することとなった。

鈴木志乃はアップアップガールズ(プロレス)のメンバー。プロレスとアイドルの活動を同時におこなっていくプロジェクトの一員なのだが、プロレスラーとしては苦戦が続いており、まもなくデビューから1年が経つが、いまだ自力勝利はゼロ。同時期にデビューしたライバルたちの後塵を拝している。このあたりの話はアップアップガールズ(プロレス)の物語として、しっかりと書き記しておいた。彼女も『プロレスとアイドル』の登場人物のひとりなのだ。


「瑞希さんはずっとタッグのチャンピオンだったのに、1回も勝ったことがない私みたいなパートナーで本当に申し訳ないって思います。でも、いままでタッグチームらしいことをしたことがなかったので、瑞希さんとダブルのドロップキックをやれたりしたのは、すごく嬉しかったです!」

抽選の結果、運よくシード枠に入れたものの、緒戦で荒井優希&上原わかな組に惜敗。結果は残せなかったものの、あわや鈴木志乃が自力初勝利か? というシーンが何度も見られる白熱の好勝負となった。

試合後、バックステージでコメントを出していると、「同期の上原わかなに私の得意技でもあるスリーパーホールドで逆転負けするなんて……」と頭の中が悔しさでいっぱいになってしまった鈴木志乃は大号泣。その姿を見た瑞希は「昔の私を見ているみたい」と、鈴木志乃を抱き寄せた。

「私も自力で初勝利を挙げるまでに2年ぐらいかかっているんですよ。
だから志乃の気持ちはよくわかる。同期に置いていかれて、ものすごく焦っていると思うけど、ここでふてくされてしまった終わり。その点、志乃は大丈夫ですよ、あの悔しがり方を見たらわかるでしょ? 志乃は強い子だから、大丈夫。ただ『自分は劣っている』とだけは思ってほしくないな。そんなことは絶対にないし、これかも初勝利に向かってがんばっていくなら、私は支えていきたい」

試合の後半、鈴木志乃にリング上を託すシーンも多かったが、これは瑞希ならではの気遣いだった、という。

「ただ勝ちを狙うだけだったら、私がギリギリまで相手を攻めて、さぁ、あとは決めるだけだよってタイミングで志乃にタッチすればいいんだろうけど、それじゃ志乃も応援してくれるファンのみなさんも嬉しくないですよね? 私も嬉しくない! 志乃ががんばって自力で勝つことが大事なわけだし、そのために私も“一緒に”闘う。
この先のことはわからないけど、また組むことがあったら、一緒に勝利を目指して闘いたいですね」

プロレスラーとしても、アイドルとしてもうまくいかない時間を過ごしてきた瑞希。そこから苦しみ悩んで、現在の地位まで昇りつめてみせたからこそ、同じ道を歩んでいる鈴木志乃にとって、これ以上、頼れる背中もない。けっして甘やかしてくれないところも信用できる。この試合のあと、6人タッグで組む機会もあったが、そこでも華麗な連携プレーを見せてくれた。

正式なタッグチームになるかはわからない。いや、むしろパートナー不在の瑞希にとって、今回のトーナメントで鈴木志乃と意外な化学反応を起こしたように、これからいろんな後輩たちと組んでいくことで、いままでにない若手の魅力、そして瑞希自体の可能性を引き出すことができるのかもしれない。

「正直、私にとっての“活動の軸”になっているのは、私がこうしたいっていうんじゃなくて、応援してくださるファンの方たちが『見たいもの』や『喜んでくれるもの』なんですよ。それを実現させて、ファンの方が楽しんでくれたら、それが私にとっての幸せ。うん、ファンのみなさんとも一緒に闘っているんですよ、私は。もちろん、シングルのベルトに返り咲くことも諦めてないですけどね、うふふふ」

アイドルを諦めて、プロレスラーになり、頂点を経て自由な立ち位置になった瑞希は、まるでアイドルのような笑顔を浮かべてみせた。この人の可能性は、まだまだ底知れないものがある。

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