「正直、なんでこんな土地を持っていたのか分からないんです」
相続の相談現場で、この言葉を聞く機会がここ数年で明らかに増えています。地方の山林、かつて購入した別荘地、使われなくなった農地、あるいは親世代が保有していた郊外の分譲宅地――。
「不動産は資産」という常識が通用した時代は、すでに過去のものになりつつあります。本稿では、「売りたいのに売れない不動産」が生まれる構造的背景を整理したうえで、所有者が取るべき現実的な対処法を解説します。
なぜ「売れない不動産」が増えているのか
根底にあるのは、日本の人口減少と需要構造の不可逆的な変化です。高度経済成長期からバブル期にかけて、「値上がり期待」「別荘ブーム」「子ども世代への継承」という三つの前提のもとに購入・保有されてきた土地が、今や需要の受け皿を失っています。
特に流動性が著しく低下しているのが、以下のような土地です。
地方の山林・原野
別荘地
利用されていない農地・耕作放棄地
インフラ整備が不十分な郊外分譲地
これらに共通する問題は、「価格が高いから売れない」のではなく、「欲しい人がいない」という構造的な点です。これが値下げをしても成約に至らない理由です。
「固定資産税だけ払い続ける状態」が招くリスク
売れない不動産の保有が長期化すると、「毎年の固定資産税」「草刈りや管理費」「遠方ゆえの現地確認コスト」が静かに積み重なります。さらに相続によって共有状態が生じると、管理責任と費用負担の帰属が曖昧になり、問題は複合的に悪化します。
結果として「誰も使わないが、誰も処分できない」という塩漬け状態に陥り、次世代への負担先送りが固定化されていきます。不動産コンサルティングの現場では、こうした「負動産」案件がここ5年で目に見えて増加しています。
「そのうち何とかなる」が最も危険な判断理由
実務でもっとも頻繁に遭遇するのが、「今は売れなくても、そのうち何とかなるだろう」という先送り判断です。しかし不動産は、時間が経てば自然に価値が回復するほど単純ではありません。人口減少・空き家増加・地方需要の継続的な低下という三重苦の下では、むしろ流動性はさらに低下する可能性が高くなります。
加えて、管理が行き届かない不動産は「建物の劣化」「境界の不明確化」「雑草・倒木問題」といった二次的なリスクを招き、売却や国庫帰属の要件すら満たせなくなるという悪循環に陥ります。放置は「現状維持」ではなく、「問題の拡大」です。
現実的な四つの対処法
重要なのは、「持ち続ける」以外の選択肢を、感情論ではなく戦略的に検討することです。代表的な手段を以下に整理します。
○市場価格を直視した売却
まず検討すべきは売却ですが、「いくらで売りたいか」という希望価格ではなく、「現在の市場で動く価格はいくらか」という視点が不可欠です。場合によっては無償譲渡に近い価格設定や、隣地所有者への優先的な打診が現実的な選択肢となります。相場より感情を優先した瞬間に、出口は遠のいていきます。
○空き家バンク制度の活用
自治体が運営する空き家バンク制度は、通常の不動産市場では動きにくい物件を、移住希望者や地域活用希望者とマッチングさせます。価格よりも「使ってもらえるかどうか」を優先するマインドセットに切り替えることで、思わぬ成約につながるケースもあります。
○相続土地国庫帰属制度の検討
2023年に施行された「相続土地国庫帰属制度」は、一定の要件を満たした場合に土地を国に引き取ってもらえる制度です。「建物が存在しないこと」「管理上の問題がないこと」「負担金の納付」など適用条件は厳格で、万能な解決策ではないこともあります。しかし「処分の制度的選択肢が整備された」という意味は大きく、専門家への早期相談が先ほどの要件を満たすかどうかを左右します。
○民間の不要土地引取り業者の活用
国庫帰属の要件を充足できないケースでは、有償で不要土地を引き取る民間事業者の活用も選択肢に入ります。費用対効果の精査と業者の信頼性確認が前提となりますが、「負担を払って処分する」という発想の転換が、問題の長期固定化を防げることもあります。
「処分する」ことは、合理的な資産判断である
不動産を手放すことに後ろめたさを感じる所有者は少なくありません。しかし、「誰も使わない、維持コストだけが発生する、次世代への負担先送りが続く」状態を維持することのほうが、資産管理の観点からは不合理です。
不動産は「保有すること」自体が目的ではないのです。その資産が現在および将来において機能しているか――これが本質的な目的であり、機能しない資産を戦略的に整理することは、プロの視点からも正当な選択です。
相続不動産の問題は、都市部の収益物件に限った話ではありません。むしろ現実には、山林・別荘地・耕作放棄地・郊外住宅地といった「活用困難な不動産」に悩む所有者のほうが数的には多数を占めています。
重要なのは以下の三点です。
「いつか何とかなる」という根拠なき楽観を捨て、現状を直視すること
感情ではなく戦略として、現実的な出口を複数検討すること
問題を次世代に先送りしないこと
不動産は、持ち続けることが常に正解とは限りません。時には「整理する決断」こそが、最も賢明な資産戦略となります。
次回は「やってはいけない不動産活用」をテーマに、相続対策や土地活用で失敗しやすい典型例を解説します。「何か建てれば安心」という発想が、なぜこれほど危険なのか。その構造的な背景と実例を整理します。
佐嘉田 英樹 さかた ひでき アテナ・パートナーズ株式会社 代表取締役。1991年に東京大学卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行、主に融資営業・マーケティング戦略企画に携わる。その後不動産・建設業界に身を転じ、建売分譲、賃貸アパート、介護福祉施設等の企画開発・売買などに従事し、2023年8月に独立。地主・不動産投資家・中小企業の不動産活用コンサルティングやプロジェクト・マネジメント、テナント企業の開業支援を行う。宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、2級建築士、FP2級など幅広い専門知識を駆使し、総合的な視点からクライアントの課題解決にあたる。
アテナ・パートナーズ株式会社:https://athena-ptr.co.jp/
アテナ・パートナーズ株式会社は、お客様のニーズや目的を詳細にヒアリングして、物件や市場の調査を行った上で、所有不動産の有効活用、開発、建て替え、リノベーション・用途変更、売却、交換など、多角的・戦略的な企画提案・マネジメントを行う。企画計画から資金調達、テナント誘致、設計、工事、引き渡しまで一貫してプロジェクトをマネジメントすることで、独自のビジネスモデルを展開する。
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