レビュー

本書の著者はデータサイエンティストだ。ビッグデータのような大量のデータの分析を専門とする職業である。

その立場にありながらデータに対して疑問を呈していることに、最初は意外性を感じた。しかし読み進めていくと、データを過信するあまり見えなくなる人間の「悪」の側面を、行動経済学の理論を使って解きほぐそうとしていることがわかる。常にデータに接しているデータサイエンティストだからこそ、データそのものでは十分に露わにできない人間の本質に、自然と目を向けるようになったのだろう。
行動経済学は、人間の心理に焦点をあてて経済的な事象を説明する学問分野だ。従来の経済学では、「神の見えざる手」に代表されるように、人間は合理的に行動することを前提に置く。行動経済学では逆に、理屈や損得勘定だけでは説明できないような誤った行動をとる、人間の非合理性を前提としている。
人間がそうして様々なバイアスにさらされる原因を著者は「煩悩」に求めているが、説得力の高い説明によってその根拠を示している。
新たな商品やサービスを世に送り出す際、「合理的な判断をする人間」を前提にしているようでは、熱狂は生まれない。それではヒット商品を送り出すことは難しい。すでに、便利で豊かな生活を享受している私たちを熱狂させるためには、人間が持つ「悪」を刺激する必要があるのだ。消費者行動が多様化しているうえに、変化が急速であるという困難な時代において、行動経済学の重要性は増している。本書を一読することで、その基礎的な知識を得ることができるだろう。

本書の要点

・人間は、意思決定にバイアスが生じることで、合理的に考えれば選ばない選択肢を拾ってしまう。
・人間には欲求にまみれた悪の側面が潜んでいるため、アンケートなどで客観的に見えるデータを収集したとしても、正しい判断に向けてそれをうまく使えない場合がある。
・日本人が嫌う怠惰こそがイノベーションを生み出す原動力となることがある。一方でイノベーションは、過剰に期待されることで過大な評価を受けてしまうこともある。
・正しい判断を行なうためには、正しく見えるデータであっても疑う姿勢をもつことが求められる。



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