レビュー

本書ではチェス、武術の双方においてトップレベルのプレーヤーとなった著者によって、最高のパフォーマンスを引き出す方法論が示されている。まったくジャンルの異なる勝負の世界を移動した著者だが、その技術の習得方法には多くの共通点があった。


その基礎となるのは、徹底した内省だ。と聞くととっつきにくそうに思われるかもしれないが、語り口は明快でわかりやすい。それは、その内省の深さが、とてもシンプルな原理として浮かび上がってきているからにほかならない。チェスと出会った少年時代独特の心の揺らぎに始まり、成長するにつれて感じる重圧や、太極拳と出会ったときの感動など、とても細かく描写されている。一方で、その時々の状態に合わせどのような学習を行ったのか、意識的なものから無意識の領域まで具体的な方法論が示されていく。その分析の詳細さは、一見すると真似のできない神業と思われるプレーがどのように出来上がっているのか、要素に分けて解説できるレベルだ。

著者も言及する通り、膨大な知識をどう扱うかや、試合中に現れるやっかいな感情への対処といった課題は、どのような分野でも遭遇するものだ。しかし、心折れることなく柔軟な姿勢で、いつでも最高のパフォーマンスを行える強さを身に着けられる可能性は、誰にでもある。ある分野に打ち込みたい、より成長したいと考える人たちにとって、本書はバイブルとなり得るだろう。そうして自分自身のパフォーマンスの向上を目指す人だけでなく、だれかを指導する立場にある人にもおすすめしたい一冊である。

本書の要点

・「数を忘れるための数」と呼ぶ学習法では、戦い方におけるいくつもの原理が統合され、1つの流れとしてとらえる直感が養われる。
・自分の技術をより効率的な技へ昇華させるには、エッセンスの真髄だけを保ちながら、テクニックの外形を徐々に小さく凝縮する、「より小さな円を描く」メソッドが必要となる。


・集中が必要な状況で心が激しく動揺したとき、感情を遮断する方法では解決できない。感情を観察し利用することで、より深く集中した心理状態に自らを導くことができるようになる。



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