いよいよ後半戦の戦いへと向かうJリーグで2位につけているセレッソ大阪。ポジショナルプレーの信奉者としても知られるミゲル・アンヘル・ロティーナ監督率いるチームの戦術コンセプトとは? 鹿島アントラーズ、横浜F・マリノスに続きらいかーると氏に分析してもらった。
川崎フロンターレの独走の影に隠れているセレッソ大阪。直接対決で負けてしまった(第11節/●5-2)ことも、その印象を加速させていることは間違いない。9月16日の時点で、首位の川崎フロンターレとの勝ち点差は8。ただし、セレッソ大阪の方が1試合少なかった。未消化の試合にセレッソ大阪が勝ったことで、勝ち点差はたったの5となっている。もう、川崎フロンターレの独走状態ではないのだ。地味に首位を追走しているセレッソ大阪について、今回は考えていきたい。
攻守の4局面の中で、セレッソ大阪が得意としている局面は“ボール保持”と“ボール非保持”だ。ボールを持っている時も持っていない時も得意としているのか!!となりそうだが、“トランジション”を徹底的に避けていることが最大の特徴と言えるだろう。現代のサッカーにおいて、カウンターや速攻は欠かせない局面だ。なぜなら、相手の配置が整っていない時に相手のゴールに一気に迫る方が、効率が良いとされているからだ。しかし、セレッソ大阪は“トランジションの連続”、つまり、ボールが両チームを行き交うような無秩序を徹底的に避け、試合を秩序で満たそうと画策している。
試合を計算されたもの、論理で埋め尽くそうとする――つまり、秩序であふれたものにしようとするチームは、ボールを保持することで試合を支配しようとする傾向にある。しかし、セレッソ大阪の場合は“ボール非保持”で試合を計算されたものにしようとしている。世界を見渡してみた時、ボール非保持で試合を支配しようとするチームは決して珍しくない。ただし、そのようなチームは多くの場合ボール保持の局面を苦手としていることが多い。
ところが、セレッソ大阪の場合はボール保持ができるにもかかわらずボール非保持で試合を支配しようとしている。相手がボールを持っている方が、秩序を乱されないと考えているのだろう。自分たちがカウンターに出るか出ないかの選択肢を持っている方が、試合の支配には都合がいいと計算しているのではないだろうか。最低限の無秩序を味方につけ、論理的に相手を追い込んでいく今季のセレッソ大阪は、真綿で相手の首を絞めつけていくかのような緻密なサッカーを見せてくれている。相手がボールを保持し、ゴールに何度も迫ってくれば事故で失点する可能性だってある。しかし、セレッソ大阪は事故さえ起こさせないほどの完成度なため、自信満々でボール非保持によって試合の秩序を保とうとしているのだ。
ボール非保持時の特徴
セレッソ大阪は[4-4-2]のゾーンディフェンスを基調としている。相手のビルドアップの枚数に応じてプレッシングの枚数を調整することが流行になっている昨今だが、セレッソ大阪は[4-4-2]から変化することはない。
最初に1列目の特徴から見ていく。
1列目の守備タスクが多い、低い位置まで下がってくるとなると、カウンターはどうなるのか? 攻撃の時に前線の選手たちは体力を残しているのか?と疑問が浮かぶことだろう。
[4-4- “0”- 2]になってしまうチームの正当な理由として、FWには攻撃に専念させたいというものがある。だがセレッソ大阪の場合は、まずはボール非保持を計算されたものにしたい。そのために、相手に使いたい放題にされるエリアを与えたくない。よって、FWにはいざとなったら、2、3列目の選手が動かされてできたエリアのカバーリングも行わせる。もちろん、状況によってはカウンターに出ることもあるのだが、相手の攻撃が終わればマイボールになることも事実だ。ボール保持を苦としないセレッソ大阪なので、マイボールになればこっちのものという計算が成り立つのは事実だろう。
次に2、3列目について見ていく。
例えば、SBとCBの間のカバーリングはCH(セントラルハーフ)が行う。セレッソ大阪のSH(サイドハーフ)とSBの間で相手がボールを受けることも多い。その時にSHは背走することになるが、SBとCHのコンビで枚数はそろっている。そして、ボールを奪えたらSHに預けてカウンターを仕掛ける仕組みになっている。つまり、罠である。この役割を主に担っているのが清武弘嗣だ。この時のSHとSBとCHの立ち位置はL字のようになっている。もちろん、Lで飛び出しているのがSHだ。SHがボール保持者へのプレッシングが可能ならSBと連係して行い、CHはカバーリングを行う。この時のトライアングルは強固で、相手の選択肢を削っている。
クロスへの対応はそれぞれの立ち位置が細かく決まっている。クロスを上げるボール保持者へプレッシングをかける守備者を中心にトライアングルを作るような配置となっており、SBがボール保持者にプレッシングに行けば、SBを頂点としてゴール前をCB、マイナスのクロスを2列目の選手たちが埋める形となっている。なお、誰かがいないとその位置はすっからかんとなり、横浜F・マリノス戦(第16節/○1-2)での相手の先制点の場面では、木本恭生が間に合っていなかった。相手がクロスを上げる前にヨニッチが立ち位置の指示をしていることもにくい。
最後にマテイ・ヨニッチ、瀬古歩夢、キム・ジンヒョンの空中戦の強さ!という理由も失点数の少なさには間違いなく影響はしているだろう。しかし、彼らの力に頼り切ることなく、チーム全員でやるべきことを淡々とこなすことでセレッソ大阪は撤退守備、つまり、押し込まれた状態でも平常心で過ごすことができている。変な気負いもないので、余計なミスが生まれにくいのだ。よって、相手からすれば押し込んでいるんだけど、得点が遠い、という試合内容が延々と再現されているのであった。そんなセレッソ大阪にエラーが起きるとすると、持ち場を離れて相手についていったり、ボールを奪いに2度追いさせたりすることだろう。そのためには効果的な飛び出しや相手をおびき出すパスが必要になってくるのだが、それを得意としているのが川崎フロンターレという流れになっている。
ボール保持時の特徴
セレッソ大阪のボール保持は、是が非でも行われる形ではない。秩序を愛していることもあって、相手のカウンターを発動させるようなボールの奪われ方は厳禁となっている。よって、陣地回復を第一とした相手の裏へロングボールを選択する場面も多い。
セレッソ大阪がボール保持を選択する局面は、相手のボール保持を脅威と感じている時だ。その時は、ロングボールによる陣地回復よりも地上戦でもボール保持を意地でも行う傾向にある。つまり、ボール保持、ボール非保持のどちらの局面が自分たちにとって有利か?を常に試合の流れを加味しながら判断しているように思える。局面の選択で問題を解決しようとしている姿勢は、現代的なフットボールの流れに沿っていると言えるだろう。
ビルドアップの特徴
キム・ジンヒョンに頻繁にボールを下げることはセレッソ大阪のビルドアップ時の特徴だ。相手が前に出てくれば、キム・ジンヒョンは冷静に長短のパスでボールを前進させることができる。ボールを持った時に焦ることなく冷静にボールを繋げるキム・ジンヒョンの存在はかなり大きい。実際にキム・ジンヒョンのロングボールでセレッソ大阪の攻撃のスイッチが入ることが多く、そこから得点に繋がることも多い。
列の枚数の調整を行うのは藤田直之だ。相手のプレッシングの枚数に応じて、CBの間に移動する藤田直之の動きはセレッソ大阪の“恒例行事”となっている。藤田直之が加わることで3バックに変化するCBは、運ぶドリブルを苦にしない。特に瀬古歩夢は左足でのパスも平気でこなし、サイドチェンジもお手のものと現代的なCBとなっている。
左右でSHとSBの役割は差がある。左サイドは清武弘嗣の独壇場となっている。大外はSB、内側はSH。清武弘嗣は2トップによるピン留めの恩恵を受けてビルドアップの出口となる場面が多い。また、本人のスキルの高さから多少は相手に捕まってもものともしないことも大きい。清武弘嗣が前を向いて、逆サイドに展開する形はおなじみの景色となっている。ベガルタ仙台戦(第12節/○2-1)での坂元達裕の勝ち越しゴールはその一例だ。
右サイドは坂元達裕と松田陸がコンビを組んでいる。内側でもプレーすることはあるが、外側でのプレーを得意としている坂元達裕を生かすために、松田陸が内側にポジショニングすることも多い。今季のブレイク候補の坂元達裕は、必殺技のキックフェイントからの切り返しで違いを生み出している。清武弘嗣のサイドチェンジを受けて、坂元達裕がドリブル突破を発動するのがセレッソ大阪の最も相手に警戒されているパターンだ。
2トップの役割はボール非保持時と並んで多岐にわたっている。セレッソ大阪はロングボールを多用する関係で、両者ともにできれば空中戦をいとわないタイプが望ましい。タイプを分ける場合は、はっきりと裏抜けと競り合う選手とにタスクが分かれることが多い。
ショートパスによる前進をする時の2トップの役割は、サイドのサポートと相手のCBをピン留めすること。また、一人の選手が裏抜けをすれば、もう一方の選手は空いたスペースを使うなどコンビネーションも求められている。そして、相手のCBの注意を自分たちに引きつけ、2列目から飛び出してくる清武弘嗣にプレースペースを与えている。
セレッソ大阪のボール保持能力はすこぶる高い。ビルドアップ隊は時間とスペースを味方に紡ぐことができる。相手のプレッシングの枚数に応じて、自分たちの配置を調整することもできる。2トップはピン留めとサイドのサポート、裏抜けを惜しみなく行い、大外と内側のレーンに誰が立つかの分担もしっかりしている。そして、清武弘嗣のゲームメイクとフィニッシュに絡む仕組み、そして坂元達裕のアイソレーションと非常に論理的なデザインとなっている。よって、ボールを持っていようがいまいが、セレッソ大阪は秩序を従えて試合を進めることが可能となっている。
ひとりごと
華麗なスタイルで得点を量産している川崎フロンターレと比べると、セレッソ大阪の冷静に耐え忍び、時には相手からボールを取り上げ、まったりとするスタイルはつまらないと評されるかもしれない。しかし、セレッソ大阪の[4-4-2]の完成度はゾーンディフェンスの教科書だと言っても過言ではないだろう。さらにゴールの場面を見てもらえれば気がつくだろうが、再現性のあるプレーが多い。つまり、詰将棋のようにすべてのプレーが計算されている可能性が高い。相手の配置が異なる中で、これだけ同じような形でゴールを決めているところにセレッソ大阪の真の恐ろしさが潜んでいる。
また、秩序を好むセレッソ大阪はスプリントをあまりしない。両チームの間をボールが頻繁に行き交わないこともあって、相手のスプリントの回数も自然と減っているはずだ。つまり、セレッソ大阪は試合をスローペースにすることで、相手をイレギュラーな状態に追い込もうとしている。スローペースを可能としているのが完成度の高いボール保持とボール非保持だ。
ボール保持時には、バックパスを多用し、キム・ジンヒョンを使いながらピッチを幅広く使うことで、相手のプレッシングの心を折り、試合のテンポをスローにしている。ボール非保持時には計算された配置によって、相手の選択肢を削り、相手にボールを持たせる選択をすることによって、試合のテンポを落とさせている。スローテンポを打破するために、相手は同数プレッシングや速さで勝負を仕掛けてくるはずだ。すると、精度の高いロングボールを延々と繰り返し、局面を変更し、スローテンポを維持しようとする。つまり、スローな流れからは逃れられない仕組みになっている。
今後の課題は絶対に負けられない試合において、テンポを上げる必要が出てきた時にどのように振る舞うのか、である。そんな展開にならないようにゲームをデザインしているのだろうが、どんな時にも対応できるように、が世界のトップクラブの流れならば、セレッソ大阪がその流れに追随していくのかどうか、非常に注目していきたい。
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