【今週グサッときた名言珍言】


「辛さを抱くって書いて辛抱だよな。お互いに辛抱するのさ」
 (石倉三郎/フジテレビ系「ボクらの時代」5月4日放送)


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 こわもてながら味のある存在感で映画・ドラマに欠かせない石倉三郎(78)。

親友である寺尾聰に「最高の奥さまなんだよね」と言われた石倉は「夫婦っていうのは辛抱だからね」と言って続けた言葉を今週は取り上げる。「惚れて一緒になったわけだからね。多少嫌なことあったって惚れた時のこと考えりゃいい」と続けた。


 この「辛抱」の話を、水道橋博士は別の場面で聞いている。ドラマの撮影中、博士の父が脳卒中で倒れた時。見舞いから日帰りで帰ってきた博士に石倉は「芸能界は親が死んでもトチれない世界なんだよ。だから辛抱だ。辛抱ってのは、辛さを抱きしめるってことだからな。今はひとりで抱きしめろよ!」と声をかけた。そして「辛抱ってなあ我慢とは違うんだよ」と添えた(文芸春秋「藝人春秋」2012年12月6日発売)。


 石倉は三木のり平に憧れ、映画俳優を目指して上京。生涯の師となる高倉健と知り合い、東映の大部屋俳優となった。

だが、理不尽なスタッフを我慢できずに殴ってしまい、干されて東映をやめざるを得なくなってしまう。そこから長い下積み生活が始まった。そんな中、坂本九の付き人のような形で専属司会者となった。


 坂本九からは人としての行儀からタレントとしての心得まですべてを教わった。特に強く言われたのは「照れを克服しろ」ということだった。


「やっぱシャイなもんですからね。どうしてもこう、普通の顔しててもブスッとしてるように見えるらしいんですよ。それはおまえ、損だから、もっとにこやかにしろ」(BS12トゥエルビ「船越英一郎の昭和再生ファクトリー」24年12月12日)と。


 専属司会の契約が切れると、坂本九から自分のマネジャーになってほしいと言われるが、役者への未練から断った。そして、レオナルド熊とコント・レオナルドを結成し、コメディアンとしてブレーク。解散すると、俳優としての活動を再開した。


 石倉は撮影の待ち時間が長くイライラしていたことがあった。

すると「俺なんて80年待ってるよ」と声をかけられた。声の主は名優・藤原釜足だった。芸人から俳優活動を再開して気を張っていた石倉は、その言葉で力が抜けた気がしたという。


「芸人も役者も結局一緒なんだよ。売れるチャンスを待ってんのも役を待つのもおんなじことだって!」(「藝人春秋」=前出)


 長い辛抱の果てに“味”が熟成されるのだ。


(てれびのスキマ 戸部田誠/ライタ―)


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