4月・5月、大阪松竹座は「さよなら公演」。昨年夏に設備の老朽化などを理由に5月で閉館すると発表されていた。
これが最後との思いがあるので、舞台は充実しており、見ごたえがある。なんといっても、片岡仁左衛門の『寺子屋』の松王丸が圧巻。芝居を超えた「何か」で、次元が違う。坂田藤十郎七回忌追善としての『夕霧名残の正月』『河庄』は、藤十郎の子や孫たちの、芸を継いでいくとの決意が伝わる。東京からは松本幸四郎や中村獅童が客演。来月は中村勘九郎が出る。
東京の歌舞伎座は、尾上菊五郎(八代目)と中村勘九郎・七之助が中心の座組。
昼の部の「裏表先代萩」では菊五郎が小悪人、忠義の人、大悪人と性格の異なる3役を演じる。忠義の政岡は何度もやっているが、「本心を隠し、内面を見せない」ところでの無表情が完璧。そこから一転して、殺された我が子への思いの噴出になる場面は、緩急の呼吸がいいので、引きこまれてしまう。
菊五郎は、大役3つのあとの夜の部では、勘九郎の『浮かれ心中』に、妻おすずをつきあう。ふざけた人たちのなかでの「まじめな人」なので、そのちぐはぐさがおかしくて、いい。大名跡を継いだのに助演というポジションは役不足ではあるけれど、ちゃんと主役を引き立てており、これは長年、父・七代目の相手役をつとめてきたからだろう。
勘九郎はその逆で、父を早くに亡くしたので、若くして主役をつとめてきた。『裏表先代萩』での細川勝元は、劇全体での主役ではないが、菊五郎の仁木弾正が殺されたあとに出て、朗々たるセリフで拍手を浴びて、幕。それまでの菊五郎の印象を吹き飛ばす、得な役。父を継いだ「浮かれ心中」は、完璧に自分のものとしている。
今年になって女形の大役が続く中村時蔵は『本朝廿四孝』で八重垣姫。同世代のなかで、新作にはめったに出ず、古典をしっかり勉強してきた成果が、今年になって開花している。
尾上右近と尾上眞秀の『連獅子』は、若さのパワーで押し切るのかと思ったら、エネルギーを拡散させるのではなく、凝縮させた感じ。首振りショーにならず、舞踊劇として見せてくれる。
(作家・中川右介)

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