「いきなり路上」が当たり前――。フィリピンの自動車教習所では、専用コース不足という構造的な課題が浮き彫りになっている。
近年、同国では運転免許取得のハードルが急上昇し、従来の「陸運局に行けば比較的容易に取得できる」時代は終わった。現在は15時間の座学と8時間以上の実技講習が完全義務化され、制度は一気に厳格化された。

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 この法改正を受け、公認自動車教習所ビジネスは空前の活況を呈している。しかし、ここにフィリピン特有の「理想と現実の落差」が潜む。多くの教習所が専用コースを持たず、練習環境が整っていないのだ。

 地方都市ダバオを例に取ると、広い敷地と専用コースを備えるのは一部の「本校」に限られる。各地に乱立する「分校」の多くは、小さな事務所と教習車があるだけで、コースは存在しない。そのため、分校に入校した生徒は、アクセルとブレーキの基礎を習った直後から、いきなり一般公道へ出ることになる。

 ジプニーやトライシクル、バイクが縦横無尽に走り抜ける混沌とした道路が、彼らの“初めての練習場”だ。リアガラスの「Student Driver」ステッカーだけを頼りに、怒号が飛び交う路上で揉まれる姿は、日本の教習生なら卒倒しかねないサバイバルそのものである。

 なぜコースが整備されないのか。背景には土地価格の高騰がある。
広大な敷地を確保するコストが経営に見合わないうえ、陸運局が教習料金に上限を設けたことで、事業者は巨額投資を避け、車と指導員だけで路上教習を行う方が効率的という判断に傾く。

 しかし、この「習うより慣れろ」を極限まで突き詰めた方式も限界が見え始めている。急増する車両にインフラ整備が追いつかず、都市部の渋滞や事故率の高さが社会問題化しているためだ。

 こうした状況を受け、ドライビングスクール業界もようやく設備強化に動き出した。陸運局による監査が厳格化され、今後は日本や欧米のように、専用コースで基本操作を習得してから路上に出すという安全基準への移行が進む見通しだ。

 インフラの未熟さが結果として「どんな割り込みにも動じない強靭なドライバー」を育ててきたフィリピン。しかし、真の先進交通都市を目指すうえで、安心して基礎を学べる「まともな練習コース」の整備は急務となっている。各地でその整備がようやく加速し始めた。
【編集:EULA】
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