厚生労働省によると、糖尿病患者や予備軍は約2000万人といわれる(2016年発表)。放置すると、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まるだけでなく、神経障害、網膜症、腎症などの合併症を引き起こす。

とりわけ夏は、血糖管理は難しいといわれる。自己管理が身につく「学習入院」プログラムを取材した。

血糖を乱す意外な落とし穴
「夏に血糖を乱してしまう要素って何だと思いますか?」

ここは東京・日本橋馬喰町にある朝日生命成人病研究所付属病院の一室。大西由希子医師(同病院糖尿病内科診療部長・糖尿病内科部長兼治験部長)が、40~60代の糖尿病患者5人にそう問いかけた。

「冷たいジュース」(Aさん)
「果物ですね」(Bさん)

大西医師は言う。

「そうですよね。私はアイスクリームが好きなので、近くのコンビニで売っているアイスの誘惑と毎日たたかっています」

この日行われていたのは同病院がほぼ毎日行う「糖尿病教室」。この病院では、糖尿病患者の「学習入院」を実施しており、糖尿病教室はその一環だ。糖尿病は食事療法、運動療法、薬物療法が治療の三本柱とされ、セルフコントロールが大事なのだが、いざ1人でやろうとすると難しい。

大西医師によると、

「学習入院する人は、ヘモグロビンA1c(HbA1c)が7~8%(基準値5.5%未満)の方が中心で、食事療法を家で実行できないからリセットするために来られることが多いです。ここに約1週間入院すると、どれぐらいの食事量が適正かとか、食生活のルールを守るとこんなに良くなるんだということを実感してもらえる。それを退院後も実践してもらえたらコントロールがよくなるのです」

さて、冒頭の「夏に血糖を乱す要素」だが、大西医師は水分でもカフェインのあるものはかえって脱水を助長するので、水か麦茶がおすすめとアドバイス。

意外に落とし穴なのが、スポーツ飲料や「低糖」と書かれた飲料だという。これも飲み過ぎるとよくない。

また、熱中症予防にと塩分を多めに取りがちだが、家の中にいる時間が長い人は塩分を摂り過ぎないようにしてほしいという。さらに夏バテすると、素麺など食べやすいものばかりを口にしてしまうが、栄養バランスを崩すので血糖値にもよくないと話した。

血糖が上がるのはなぜか?

次の話題は薬。集まった患者さんは、インスリン、その他の注射、複数の飲み薬で治療しているが、ここで再び大西医師から質問。

「糖分を摂ると誰でも血糖値は上がりますが、なぜ糖尿病の人は100から200ぐらいまで上がってしまうと思いますか?」
Cさん「インスリンの分泌が悪い」
Dさん「インスリンの効きが悪い」

大西医師はこう解説した。

「そうですね。インスリンというのは体で唯一血糖を下げるホルモンなんですが、それが出にくかったり、効きが悪いと、摂取した糖をコントロールできないんですね」

まずインスリンの分泌をよくする薬には、トルリシティ、マンジャロなどの持続性GIP/GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬。次にインスリンの効きをよくする薬にはメトグルコがある。少し違った作用の糖尿病治療薬として紹介したのが「血液中の糖を排出する薬(SGLT2阻害薬)」。そして食欲を抑えるマンジャロ、オゼンピックについても紹介された。

血を採らなくても自動で血糖測定する方法

薬の進歩を遂げるが、血糖測定に関しても便利な機器が登場した。それはCGM(持続グルコース測定器)だ。

これまで血糖測定といえば、指先に針を刺してゴマ粒大の血液を採らなければいけなかった。CGMは丸いパッチのようなものを貼り付けておけば、2週間、1分ごとに血糖値をモニタリングし、必要に応じて警告してくれる。

「何を飲むと血糖値があがるという傾向がわかりますし、低血糖になりそうだとわかったら何か食べればいいし、血糖が上がったら、インスリンを打ち忘れてない? と教えてくれる。ECサイトでも購入できますが、インスリンを1日1回以上自己注射する通院患者さんならば保険適応になります」(大西医師)

薬も今後進化し、現状は注射のマンジャロなどのGLP-1受動体作動薬が近い将来飲み薬になるだろうという。現状注射のインスリンも、それ以外の方法が開発されるだろう、と大西医師。

「『インスリンが注射なんて時代があったんだ』と言えるような未来を楽しみにしたいですね」(大西医師)

同病院で学習入院できるのは11人。うち個室3床であとは2人部屋。講座で病気や薬について再確認することも自己管理の助けになる。

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