遺伝子のコピペミスが人間や動物の進化に多様性を与えた
 新たな研究によると、7億年前に誕生したさまざまな動物の共通祖先の遺伝子のおよそ半分は、本来の用途を変えることで、今日の動物に見られるさまざまなユニークな特徴を作り出しているという。

 そのような古い遺伝子は、生物の体において基礎的なきわめて重要な機能を担っている。
それほど重要なものを、なぜ動物たちは別の用途に再利用することができたのか?

 スペインの研究者が『Nature Ecology & Evolution』(2024年4月15日付)で発表した研究によれば、その原因は遺伝子のコピペミスで、同じ遺伝子を2つ作り出してしまったことだという。

前後、上下がある生物の共通先祖 7億年前、驚くべき生物が地球に誕生した。今の基準からすればどこがスゴいのかわからないだろう。

 その動物には前と後、上と下があった。この特徴は当時としては画期的なもので、私たち人間をはじめ、ほとんどの複雑な動物が受け継いでいる。

 太古の海の海底を這っていたと推測されているその生物は、脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)と無脊椎動物(昆虫、節足動物、軟体動物など)が含まれる大グループ「左右相称動物」の最後の共通祖先である。


 バルセロナ科学技術研究所(スペイン)をはじめとする研究チームは、ヒト、サメ、カゲロウ、ムカデ、タコなど20種の左右相称動物を調べ、じつに7000グループ以上の遺伝子がその共通祖先まで遡ることを突き止めた。

 もう1つ驚くべきことは、この共通祖先の遺伝子の半分が、その後の動物のさまざまな部位で再利用されていたことだ。

 そのような古い遺伝子は、たいていの場合、身体の中で基礎的な役割を担っている。それほど重要な遺伝子をどうやって別の用途に使うことができたのか?

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photo by iStock遺伝子のコピペミスが原因で進化の多様性が生じる この研究によると、その原因は、左右相称動物の進化の過程でたまたま起きたコピペミスだ。

 遺伝子のDNAはいわば設計図のようなもので、体の構造などタンパク質合成に必要な情報がすべてつまっている。その設計図を複製するときに誤りが生じたのだ。


 例えば、脊椎動物が誕生してまもない頃、体の各種組織に特化した遺伝子が大量に出現するという重要な出来事が起きている。

 偶然か必然か、それと時を同じくして、ゲノム情報全体がコピーされるという非常に重要な出来事(全ゲノム重複イベント)が2回起きている。

 こうして同じ遺伝子を2つ手に入れたことで、動物たちは片方を基本的な機能のために残しつつ、もう片方を進化のために大胆に使うことができた。

 研究チームの1人、フェデリカ・マンティカ氏は、我々の遺伝子は、組織や臓器を作るためのレシピが書かれた膨大な数の料理本のようなものだと語る。
例えば今、手元にパエリアのレシピがあったとする。書きうつすときにミスをして、2種類のレシピができてしまった。


元々のレシピを保持しつつ、もう1つのレシピはミスした部分が変更されていき、いろいろ工夫を凝らしたところリゾットが出来上がる


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photo by iStock共通祖先に起源を持つ現代の遺伝子 しかも、このような出来事は、程度の差こそあれ、左右相称動物の進化の歴史を通じて繰り返し起きているのだという。そして今回の研究では、そうした事例がいくつも発見されている。

 例えば、件の共通祖先に起源があるTESMIN遺伝子とtomb遺伝子は、脊椎動物と昆虫の両方の精巣において、それぞれ独自の役割を果たしている。

 それはとても重要なもので、この遺伝子が正常に働かないと精子を上手く作ることができず、マウスでもミバエでも生殖に問題を抱えるようになる。

 先祖遺伝子の特殊化は、複雑な神経系が発達する基礎にもなった。脊椎動物では、神経細胞の周囲に「ミエリン鞘」(神経シグナルの高速な伝達には不可欠なもの)を形成するのに重要な遺伝子がそれだ。


 人間では認知機能に重要な役割を果たすFGF17遺伝子が、もともとは共通祖先から受け継いだものだ。

 昆虫では、そうした遺伝子が筋肉と表皮のクチクラを形成するために使われ、飛行能力を発達させた。

 タコの皮膚では、光の刺激を感知することに特化し、忍者のようなカモフラージュ機能や、仲間とのコミュニケーション能力を支えている。

 つまり、昆虫の飛行能力、タコの迷彩、人間の認知もすべてコピペミスから始まったのだ。

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コピペミスがユニークでバランスの良い進化につながった 今回の研究では、組織レベルで種の進化を追うことで、身体の各所にある遺伝子の使われ方の変化が、動物それぞれにユニークな特徴を進化させる大きな原動力になっただろうことが明らかになった。

 この研究の責任者であるマヌエル・イリミア教授は、こう結論づけている。
この研究は、遺伝子が果たす役割や機能を再考させるものです。生存に不可欠で、何百万年もの間、保存されてきた遺伝子であっても、進化の過程でいとも容易く新たな機能を獲得することができます
 重要な役割を守ること、新しい道を探ること、どちらも大切だが、進化はそのバランスを上手くとっているのだそうだ。

References:Evolution's recipe book: How 'copy paste' errors led to insect flight, octopus camouflage and human cognition / written by hiroching / edited by / parumo

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