恒星間天体3I/ATLASは毎秒2トンもの水を宇宙空間に噴出していることが判明
木星探査機JUICEがとらえた「3I/ATLAS」 Image credit:ESA <a href="https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/igo/" target="_blank">CC BY-SA 3.0 IGO</a>

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 太陽系外からやってきた恒星間天体「3I/ATLAS」が、毎秒約2トンもの水を宇宙空間に噴き出していることが明らかになった。

 これは、欧州宇宙機関(ESA)の木星探査機JUICEが太陽への最接近時に緊急観測を行い、2026年2月に届いたデータから判明したものだ。

 約100億年前に別の恒星系で誕生したとみられるこの3I/ATLASの水は、太陽系の水とは化学組成が根本的に異なっており、他の星系における惑星形成の手がかりとなる貴重なデータである。

太陽系に水をまき散らして去っていった「3I/ATLAS」

 2025年7月、ハワイの望遠鏡網「ATLAS」によって発見された恒星間天体「3I/ATLAS」は、太陽系の外から飛来した観測史上3例目の恒星間天体だ。

 太陽系に突入後、火星に接近し、2025年10月末に太陽への最接近点である近日点を通過、同年12月に地球に最接近した後、そのまま太陽系の外へと去っていった。

 ガスや塵を噴き出しながら尾を形成するなど彗星に似た活動が観測されたことから「恒星間彗星」と呼ばれることもあるが、その正体はまだ完全には解明されておらず、謎多き天体だ。 

 通常、彗星のような天体は近くの星の熱を受けて初めて表面の氷が液体を経ずに直接気体へと変わる「昇華」が起き、ガスや塵を噴き出す。

 ところが3I/ATLASは太陽に近づくよりずっと前から水を放出し始めていた。

 地球と太陽の距離の3倍も離れた場所にいた2025年10月の時点で、NASAのニール・ゲーレルス・スウィフト天文台がすでに毎秒40kgの水の放出を確認している。

 水の存在を示す化学的な証拠である水酸基(OH)の放射を検出したことによるものだ。

 通常の彗星では考えられない早さで目を覚ましたこの天体を、研究者たちは「全開で放水する消火栓」と表現した。

 これは3I/ATLASの構造が非常にもろく、小さな氷の塊を砕きながら、通常では氷が保てない距離にまで広大なガスのかたまりを形成している可能性を示している。

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木星探査機JUICEが挑んだ緊急観測

 太陽への近日点通過の前後、地球上の望遠鏡は太陽の強烈な光に邪魔され、まともな観測ができない状況に陥った。

 そこに好機が訪れた。欧州宇宙機関(ESA)の木星探査機JUICEが、深宇宙のちょうどよい位置にいたのだ。

 JUICEは本来、木星の氷衛星であるガニメデ・カリスト・エウロパを探査するために2023年に打ち上げられた探査機で、木星系への到着は2031年の予定だ。

 3I/ATLASの発見を知ったミッションチームは急きょ、搭載する5つの科学機器をこの天体へ向けることを決断した。

 観測の窓は非常に短く、天体からの信号は微弱で、精密に冷却されたカメラにとって熱環境も厳しい条件だった。

 ESAのJUICE計画科学者オリヴィエ・ウィタス氏は、最接近のタイミングにJUICEが近くにいると気づいたとき、一生に一度のデータが得られる機会だと確信したという。

 観測データが地球に届いたのは、それから数か月後の2026年2月のことだ。成功の保証がない困難な観測だったが、結果的にJUICEの木星への旅における最大の収穫の一つとなった。

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毎秒約2トン吹き出す水。核でなく塵の雲から湧き出ていた

 届いたデータは研究者たちの予想を超えていた。

 JUICEに搭載された赤外線観測装置MAJIS(木星・衛星撮像分光計)が水蒸気と二酸化炭素の放射を繰り返し検出し、彗星の核からの噴出量が毎秒約2トンに達することが判明した。

 イタリア国立天体物理学研究所(INAF)のジュゼッペ・ピッコーニ氏は、これは毎日オリンピックプール約70杯分の水蒸気が宇宙に放出されている量に相当すると説明している。

 さらに興味深い発見があった。

 搭載機器SWI(サブミリ波装置)の観測によって、この大量の水の多くが天体の固体の核から直接噴き出しているのではないことが明らかになったのだ。

 水は太陽に向いた側で天体を取り巻く氷の塵の雲から沸き上がっていた。

 固体の核ではなくその周囲に漂う無数の小さな氷の粒が熱を受けて蒸発し、膨大な量の水蒸気を生み出していたのだ。

 高解像度カメラJANUSは6000万km離れた距離から天体の姿を克明にとらえ、核を包む広がったガスの雲であるコマ、尾、そして光線状・糸状の細かい構造まで確認された。

 紫外線観測装置UVSは、天体核の後方に約500万kmにわたって広がる水と塵の痕跡を記録している。

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100億年前の星が残した化学の指紋

 3I/ATLASの水には、もう一つ重大な秘密が隠されていた。

 通常の水(H₂O)と、水素の一部が重水素に置き換わった半重水(HDO)の比率を分析すると、天体がどのような環境で生まれたかを特定できる。

 ALMAやジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による分析では、3I/ATLASのこの比率が太陽系の水と根本的に異なることが示されており、若い恒星からの強烈な紫外線が降り注ぐ極めて寒冷な環境で形成されたことを示唆している。

 太陽系の年齢は約45億年だが、3I/ATLASは約100億年前に別の恒星系で誕生したと考えられている。

 米アラバマ州のオーバン大学の物理学者デニス・ボーデウィッツ氏は、「恒星間天体から水を検出することは別の惑星系からのメッセージを読み解くことであり、生命の化学に必要な材料は私たちの太陽系だけに特有のものではないことを示している」と語っている。

 同大学の研究者ゼシ・シン氏は、太陽系にやってきた恒星間天体の仲間、オウムアムアは乾燥していて、ボリソフは一酸化炭素に富んでいて、3I/ATLASは予想もしなかった距離で水を放出していると指摘する。

 恒星間天体が発見されるたびに、星の周りで惑星や彗星がどのように形成されるかについての理解が更新されてきた。

 JUICEは間もなく次の航行フェーズに入り、木星系への到着は2031年を予定している。

 今回の緊急観測は、深宇宙の過酷な環境でもJUICEが高い観測能力を持つことを証明するとともに、100億年前に別の星系で生まれた天体が、生命の材料が宇宙に広く存在することを示す証拠を運んできた意味は大きい。

References: JANUS sees Comet 3I/ATLAS in different colours[https://www.esa.int/ESA_Multimedia/Images/2026/04/JANUS_sees_Comet_3I_ATLAS_in_different_colours] / Juice's MAJIS instrument detected water vapour and carbon dioxide from Comet 3I/ATLAS[https://www.esa.int/ESA_Multimedia/Images/2026/04/Juice_s_MAJIS_instrument_detected_water_vapour_and_carbon_dioxide_from_Comet_3I_ATLAS] / Interstellar invader 3I/ATLAS is spraying tons of water into space every second. Jupiter-bound spacecraft JUICE discovers[https://www.space.com/astronomy/comets/interstellar-invader-3i-atlas-is-spraying-tons-of-water-into-space-every-second-jupiter-bound-spacecraft-juice-discovers?]

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