作家の乙武洋匡氏は、デジタル教科書をめぐる議論は「紙かデジタルか」という二者択一に陥りがちだが、本来は子どもの特性や学ぶ内容に応じて最適な手段を選ぶべきだと考える。そして結論として「紙もデジタルも」特性に応じた使い分けは、子どもたちにとって最善の利益につながるはずだと訴える(以下、乙武氏による寄稿)。
デジタル教科書は「是か非か」で語れない
日本でもデジタル教科書が正式な教科書として認められる法案が閣議決定され、是非を問う議論が熱を帯びている。世界に先駆けて教育現場へのデジタル化を導入してきた北欧では、ここ数年で紙の教科書に回帰する動きも見られることから、日本でも慎重を期すべきだとの意見も根強い。ただ、私は「デジタル教科書は是か非か」という二者択一の議論はあまりに乱暴であり、もう少し解像度を上げた議論をすべきだと考えている。デジタル教科書に反対する主な理由として、例えば「同じ内容を読む場合、デジタル媒体よりも紙媒体のほうが理解力や記憶力で優位」とする研究結果が挙げられることがある。たしかに長文や複雑な文章を読解するには紙のほうが優位になるようだ。また記憶の定着という観点からも、紙媒体はレイアウトが変わらないという特性が有利に働くことがあるという。
こうしたことからも「紙の教科書は廃止し、すべてデジタル教科書に」という主張が今後、認められることは考えにくい。ならば、「デジタル教科書は利用すべきではない」ということになるのだろうか。
特性に応じた使い分けこそが教育の本質
気になるデータがある。文科省が’20年度に実施した小学生に対する調査で「学び」の視点から授業の達成度について児童に聞いたところ、「デジタル教科書のほうが効果を感じている児童が多い」という結果が出たのだ。また、特別な配慮を要する子どもたちには欠かせないツールとなっていることも見逃せない。文字を拡大したり、背景色とのコントラストを強くしたり、読み上げ機能を使ったりすることで、視覚や聴覚に障害があったり、学習障害などの特性によって従来の紙の教科書が読めない子たちは大いに救われている。
紙とデジタル、どちらかに限定する必要はない。国語の文章は紙で読み、算数の計算問題はデジタル教科書に解答を書き込む。社会の年表は紙で眺め、理科の実験は動画コンテンツでもリアルに体感できるようにする。こうした場面による使い分けだけでなく、個人の特性によって紙のほうが適している子もいれば、デジタルのほうが理解が進む子もいるだろう。
一人ひとりに適した教科書を届けられる時代となった。「紙かデジタルか」ではなく、
「紙もデジタルも」。特性に応じた使い分けは、子どもたちにとって最善の利益につながるはずだ。
【乙武洋匡】
1976年、東京都生まれ。大学在学中に執筆した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。
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