【MLB】岡本和真の現在地 加藤豪将氏とシュナイダー監督が語...の画像はこちら >>

昨季のア・リーグ王者のトロント・ブルージェイズでメジャー1年目を迎えている岡本和真。現在はまだメジャーリーグやチームへの適応段階だが、徐々に力を発揮しつつある。

果たして岡本はいかに新たな環境に順応しようとしているのか。また、チーム側は現段階の岡本をどのように捉えているのか。

ブルージェイズの野球運営部門補佐を務める加藤豪将氏、ジョン・シュナイダー監督のコメント等をもとに岡本の現在地を探る。

【「こういうこともあるだろうと、契約時から話していました」】

 4月19日のアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦、メジャー20試合目。岡本和真のバットが、ついに"長打"という答えを出した。地元トロントの記者からは「BIG OAK(大きな樫の木)」と呼ばれ、どっしりとした体格のパワーヒッターとして期待される岡本。この日は、その愛称にふさわしいスイングだった。

 初回、3-0とリードした無死満塁の好機で直球を捉え、左越えの2点二塁打。3回には低めのスライダーを叩き、16試合ぶりとなる3号ソロを左翼席へ運んだ。

「真芯ではないですけど、しっかり捉えたので、ホームランになってよかったです」

 ダイヤモンドを一周して戻ると、主砲ウラジミール・ゲレロがブルージェイズ恒例の青い"ホームラン・ジャケット"を持って出迎え、羽織らせたうえでヘルメットを軽く叩いて祝福した。久々の長打(12日ぶり)について問われると、「そうですね、うれしかったですね」と安堵の表情を見せた。

 昨年ワールドシリーズでロサンゼルス・ドジャースと7戦の激闘を繰り広げたブルージェイズは、4年総額6000万ドル(約95億円)を投じ、レギュラー三塁手として岡本を補強した。しかし、18試合終了時点で打率は.188まで低下。

本塁打も2本にとどまり、空振りや三振の多さから周囲の評価も揺らぎ始めていた。さらにアメリカのデータサイト『ベースボールサバント』によると、FRV(守備でどれだけ失点を防いだかを得点換算した指標)で「―2」、OAA(平均的な野手ならアウトにできる打球と比べて、どれだけ多くアウトを取ったか)でも「―2」と、守備でも平均を下回る数値となっていた。

 しかし、元メジャーリーガーで、日本ハムで2年間プレーし、現在はブルージェイズの野球運営部門補佐を務める加藤豪将氏は、こう言いきった。

「打撃でも守備でも、今はアジャストメントの段階ですし、チームの誰もパニックにはなっていません。こういうこともあるだろうと、契約時からみんなで話していました。むしろ、これから上がっていくだけなので、僕としては楽しみです」

 さらに加藤氏は、日米で異なる野球環境のなかでプレーする難しさについても言及した。

「僕は岡本選手の1/100くらいの選手なんですけど、アメリカから日本に行った時はアジャストにすごく苦労しました。だから彼も、必ず苦労する部分はあると思います。そのなかで、僕は日本語が話せるので、少しでも役に立てればと思っています」

【ブルージェイズ独自の打撃スタイルとは?】

 巨人の主砲として長年活躍してきた岡本は、現在、メジャーの投手に対応するだけでなく、ア・リーグ東地区の強豪ブルージェイズのスタイルにも適応しようとしている。投手と違い、毎日出場する野手にとって、このプロセスは極めて重要だ。加藤氏は続ける。

「特にうちは、2ストライクになっても自分のベストなスイングをするというのがチームの個性です。それでも粘り強く戦えるのが、昨年ワールドシリーズまで進んだ理由だと思います。

まずはその考え方を岡本選手に理解してもらい、三振は悪いことではないと伝えています。ただ、日本で長年トップレベルの打者としてやってきた選手にとっては、これまで言われたことのない考え方なので、馴染むまでに時間がかかると思います」

 2ストライクからでも当てにいくのではなく、しっかり振りきる。ジョン・シュナイダー監督も同様の考えを示す。

「今は、結果(打率など)は見ていない。見ているのは、スイングの選択と打球の強さのふたつだ。結果はコントロールできないが、何を振るか、どう振るかはコントロールできる。選手たちは毎日、スイング判断、打球速度、バットスピードなどのフィードバックを受けている」

 デービッド・ポプキンス打撃コーチはこう語る。

「岡本がベストのスイングをしているときは、あらゆる方向に強い打球を飛ばせるし、どんな投手からでも打てる。しっかりボールの後ろに入って、下半身も使えている。ただ、試合で結果が出ないと、どうしても手先だけでボールに当てにいこうとする意識になりがちだ。でも空振りを恐れる必要はない。むしろ最高のスイングをすれば、結果的に空振りは減っていくと思う」

 実際、試合を重ねるにつれて打率は下がっていたものの、打球の質は向上していた。

95マイル(152.9キロ)以上のハードヒットは増加し、4月19日の試合までの時点で、直近11本の打球のうち7本が100マイル(161キロ)を超えていた。

「開幕からヒットは出ていましたが、自分としては、それよりも今のほうが、しっかりゲームの中で対応できている感覚がありました」と本人も振り返る。その感覚が、19日の試合で結果として結実した。二塁打は102.3マイル(164.6キロ)、本塁打は103.3マイル(166.2キロ)。"樫の木"の幹から放たれるような、重く力強い打球だった。

【「アウトではなく点を防ぐことが目的」という考え方】

 一方、守備については、よりチームのコンセプトに基づいて動く必要があり、多くのアジャストが求められる。『ベースボールサバント』によると、岡本の守備は三遊間など横の動きに課題があり、特に右打者の引っ張りに弱いとされている。しかし、それは一歩目が遅いとか、レンジが狭いといった単純な話ではない。岡本が今、足を踏み入れているのは、これまでとは異なる守備の考え方だ。

 加藤氏はこう説明する。

「何が守備で重要かを理解し、それにどうやって到達するかを考えて守るのがメジャーの野球です。アウトを取ることが目的ではなく、点を防ぐことが目的なので、カルチャーショックというより"野球ショック"から始まります」

 そのアウトがどれだけの価値を持つのか、どの打球を防ぐことが最も失点を減らすのか、そうした発想に基づく守備なのである。

ゆえに岡本は、同じ三塁を守っていても、毎打席異なる位置を守っている。時には深く、時にはライン際へ。感覚ではなく、データに基づいた配置だ。配られる「守備のカード」をもとに、ヒットを防ぐために前に出るのか、長打を防ぐためにラインを切るのかを選択する。だが、どちらを選んでも、もう一方のリスクは残る。三塁とは、常に「何かを捨てる」ポジションなのである。

 実はブルージェイズは昨年、守備の考え方を大きく転換した。従来は打球が飛びやすい位置に守るのが基本だったが、2025年からは状況に応じてライン際を優先し、長打を防ぐ配置を取るようになった。この割りきりは言葉にすれば簡単だが、現場では混乱も生んだ。

 加藤氏は2025年を振り返り、「モデル(データに基づく意思決定ツール)の強みと弱点がわからず、苦労した」と明かす。だからこそ、そこに"人"が必要になる。その役割を務める内野守備コーチはドミニカ出身のカルロス・フェブレス。

「バランスを保つのが本当にうまい方で、僕もすごく仕事がしやすいです」と加藤氏は言う。コーチはデータを現場に落とし込み、選手に「なぜそこに立つのか」を理解させる役割を担う。日本とアメリカ、両方の野球を知る加藤氏は、岡本にその"翻訳"を試みている。

 日本人メジャーリーガーで、正三塁手として最も多く先発出場したのは、タンパベイ・レイズ時代の岩村明憲で129試合にとどまる。投手と違い、野手には前例が少ない。しかし加藤氏は「ちょっとずつ学んでいけば、こっちでもゴールドグラブを取れる可能性はあると思う」と期待を寄せる。

 現在のメジャーで最高の三塁手といえば、ホセ・ラミレス(クリーブランド・ガーディアンズ)、アレックス・ブレグマン(シカゴ・カブス)、マット・チャプマン(サンフランシスコ・ジャイアンツ)らの名が挙がる。そこにどこまで近づけるかは未知数だが、ブルージェイズの評価は高い。

「契約前のミーティングでも、(本人に)まだ大きな伸びしろがあると伝えました。選手育成というわけではありませんが、岡本選手自身もどこまで伸びるかを楽しみにして来てくれたと思います。もちろん我々も大きな期待を持っていますし、確実に伸ばせるという自信があります。彼は今、そのプランに乗っている段階です」(加藤氏)

 身長185センチ、体重99キロの岡本は、メジャーのクラブハウスにあって、ひときわ大きいわけではない。

それでも、張り出した臀部と分厚い太ももは強烈な存在感を放つ。その存在感こそ、"BIG OAK"の名にふさわしいのである。

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