信州大学特任教授の山口真由氏は、自転車への青切符導入そのものには賛成しつつも、日本の交通政策はこれまで自動車と歩行者の二項対立で語られ、自転車という中間的な存在を正面から位置づけてこなかったとみる。そして、「被害に遭えば歩行者と同じ、加害をすれば自動車と同じではない。自転車には自転車の進むべき道があるはずだ」と訴える。(以下、山口氏の寄稿)。
青切符導入で問われる「自転車は何者か」という問題
自転車は重要な交通手段なのか、それとも歩道と車道の邪魔者にすぎないのか。この4月から自転車による交通違反に青切符が導入された。何のペナルティもない“イエローカード”と刑事罰を伴う赤切符──この極端な二択の狭間で事実上放置されていた自転車への取り締まりが強化される。これ自体には賛成するも、長らく自動車と歩行者の二項対立で語られてきた日本の交通史において、自転車をきちんと位置づけていかなければならないとも思う。
日本の交通空間においては、自動車が走る車道と歩行者が歩く歩道を明確に区分する「歩車分離」が徹底されている。この背景には、’50年代半ば以降の自動車の急速な普及がある。交通事故による死者の水準が日清戦争の戦死者を上回る勢いで増加したことから、「交通戦争」が叫ばれた。その対策として、’60年代後半以降には、全国でガードレールの設置や横断歩道橋の建設が爆発的に進み、歩道と車道は完全に分離された。
「歩行者の敵」とされた自転車に足りなかった視点
一方、本来「軽車両」である自転車は’70年の道交法改正により、危険な車道からの緊急避難として「例外的に」歩道の走行が認められた。しかし、交通空間における中間的存在たる自転車を積極的に活用する発想はなかった。これは、交通事故により、特に子どもの死者が増加したオランダで、移動手段として自転車が注目されたのとは対照的だ。それどころか、歩行者優先の交通ルールは、自転車を突然、交通弱者の「敵」と認識しはじめる。例えば、’13年の神戸地裁判決では、坂道を高速で下っていた小5の男の子の自転車が62歳の女性と正面衝突し、重度の後遺症を残した事案で、その子の母親に1億円近い損害賠償が課された。もちろん、歩行者は保護されるべきではある。ただ、自動車と同程度に歩行者にとって有害だと認定された自転車は、今般の改正によって矢羽根(※)をちょちょいと描いただけで、交通量の多い車道に追い出されることになった。
日本も、ヨーロッパの自転車先進国のようにポジティブな価値を付与するべきではないか。例えば、デンマークの首都コペンハーゲンは、ラッシュ時に時速20㎞で走る自転車が信号待ちせずに進めるよう制御する「グリーンウェイブ」が整備されている。また、オランダでも幼少期から自転車講習がカリキュラムに組み込まれている。
被害に遭えば歩行者と同じ、加害をすれば自動車と同じではない。自転車には自転車の進むべき道があるはずだ。
※自転車用矢羽根型路面表示のこと
【山口真由】
1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任
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