1980年12月、イギリス東部サフォーク州のレンデルシャムの森に、奇妙な光を発する三角形の物体が降り立った。
隣接する米空軍基地の兵士が森に駆け込み、実際に触れたと証言する飛行物体は、46年たった今も正体不明のままだ。
地面に残された3つの凹み、ガイガーカウンターが拾った放射線、副司令官が残した1本の録音テープ。
物理的証拠がそろう「英国版ロズウェル」と呼ばれる事件は、機密解除された公文書が存在するにもかかわらず、真相は深い霧の中にある。
森に降り立った謎の三角形の物体
イギリス東部サフォーク州の海辺にあるレンデルシャムの森のすぐ隣には、冷戦時代にアメリカ軍が運用していたベントウォーターズ空軍基地があり、敷地内には複数の核ミサイルが配備されていた。
1980年12月25日深夜、基地の東門付近を巡回していた米空軍憲兵のジョン・バロウズ氏は、森の奥で赤と青の光が点滅しているのを見つけた。
バロウズ氏が上司のバド・ステフェンズ二等軍曹と車で森の入口まで近づくと、白い光が新たに加わった。
こんな航空機は見たことがないと判断した2人は、東門の警備小屋に戻って応援を要請した。
当時三等軍曹だったジム・ペニストン氏は、警備小屋からの連絡を基地で受け、運転手のエドワード・カバンサグ氏とともに現場へ駆けつけた。
航空機の墜落を疑ったペニストン氏が中央管制室に問い合わせると、「15分前にレーダーから未確認物体が消えた」という報告が返ってきた。
爆発音も火災の通報もない。協議の結果、ステフェンズ二等軍曹は基地に残り、ペニストン氏、バロウズ氏、カバンサグ氏の3名が暗く冷たい森に車で進入した。
森の奥で待っていたのは、墜落した航空機の残骸ではなかった。
無線機に突然ノイズが走り、ペニストン氏は髪と服に静電気が走るような感覚を覚えた。
次の瞬間、目の前で閃光が炸裂し、爆発を予測した3人は地面に伏せた。
だが爆発音はなく、光が薄れていくと、森の小さな空き地に黒い三角形の物体が静止していた。
表面には多色のネオンのような光が走っていたという。
不可解な力を帯びた謎の物体を間近で観察
ペニストン氏は物体に近づこうとした。すると体に負荷がかかり「腰まで水に浸かったプールを歩いているような重さだった」と本人は振り返っている。
物体は地上から少し浮いていた。底面からは光の柱が3本伸びて地面を支えており、光の当たった土には凹みができていた。
試しに押してみても、まったく動かない。基地は多数の将官や研究開発チームが配属された大規模拠点である。
当時最先端兵器の知識があるペニストン氏は「これは自国の技術ではない」と直感したという。
物体の高さは約2m、表面には古代エジプトのヒエログリフのような彫り込みが並んでいたという。
ヒエログリフとは、古代エジプトで使われた絵文字に近い文字のことである。
表面に手を触れると暖かく滑らかで、彫り込みの部分だけがサンドペーパーのようにざらついていた。
ある彫り込みに触れた瞬間、再び閃光が走り、ペニストン氏の頭の中を「0」と「1」だけで構成された膨大な数字の列が駆け抜けた。
コンピューター言語の最も基本的な形式であるバイナリーコードである。手を離すと数字の流れは止まり、視界も戻ったという。
やがて多色の光が物体の表面を再び走り始め、機体はゆっくりと浮上し、森の樹冠を抜けて消えた。
翼もローターもなく、音もしない。物理学で習う飛行の常識に当てはまらない動きだった。
基地に戻ったペニストン氏はノートに見えた数字を書き留めた。
副司令官が残した衝撃の録音テープ
ペニストン氏が機体に触れた翌26日の夜にも、複数の兵士が森の上空に再び謎の光を目撃した。
基地内に動揺が広がる中、翌27日の夜、副司令官のチャールズ・ホルト中佐が、副官のブルース・イングランド少尉らとともに、物体が着陸したとされる空き地を調査するため森に入った。
ホルト中佐はテープレコーダーを持参し、現場の状況をすべて録音していた。
録音テープには、地面に残された3つの正三角形の凹みを確認する声、ガイガーカウンターで放射線を測定する音、空き地を囲む木々の幹に同じ向きの擦り傷が残っているのを見つけた驚きが、生々しく記録されていた。
さらに調査中、ホルト中佐ら一行は空に奇妙な光を発見する。
光は赤や黄色に脈打ち、半月形から完全な円形へと姿を変え、約8km先から急速にホルト中佐らの頭上へ接近した。
光の物体は不規則にホバリングし、地面に向かって光線を発射した。
後年ホルト中佐が語ったところでは、基地内の同僚から無線で「光線が核兵器の貯蔵区域に降り注いでいる」という報告も入っていたという。
3日連続、未確認物体が目撃されたこととなる。
ホルト中佐は基地に戻ると、録音テープを上官に提出するよう命じられ、「これは米軍基地外で起きたイギリスの問題だ。事件は終わり」と将軍は決断を下した。
納得しなかったホルト中佐は数週間後、自ら署名入りのメモを書き、現場で見たことを詳細に記録した。
1983年、このメモはアメリカの情報自由法によって機密解除され、英タブロイド紙「ニュース・オブ・ザ・ワールド」が一面で報道した。
これ以降、レンデルシャム事件は世界に知られることになった。
灯台の光だったのか?懐疑派の反論
事件には冷静な反論も存在する。
当時、現地で森林管理人として働いていたヴィンス・サーケトル氏は、地面の3つの凹みについて「あれはウサギの掘り跡だ。たまたま三角形に配置されていただけ」と2020年にBBCに語っている[https://www.bbc.com/news/uk-england-suffolk-54649675]。
木の枝が折れていた件についても「森には折れた枝などいくらでもある」とし、木に残された焦げ跡は数日前に森林管理人が伐採準備のために斧で付けた印だと指摘した。
イギリスの天文学者でUFO懐疑論者のイアン・リドパス[http://www.ianridpath.com/ufo/sitemap.html]氏は、ホルト中佐らが空に見た光のうち、点滅する光は約6.4km沖合のオーフォードネス灯台のものだと主張する。
実際、録音テープでホルト中佐は「目をウィンクするように光って見える」と発言しており、5秒間隔の点滅も灯台の信号と一致するという。
テープに記録された「破片が飛び散る」現象は、雲が灯台の光を歪めたことによる光学的錯覚で、他の光のいくつかは流星だと、リドパス氏は説明している。
ペニストン氏の証言にも疑問の声がある。
事件直後の公式報告書には三角形の物体もバイナリーコードも書かれていない。
詳細な証言が登場するのは、ペニストン氏が1990年代に2回受けた退行催眠以降のことだ。
退行催眠とは、過去の忘れた記憶を取り戻すとされる療法だが、現代の心理学では、本来なかった偽の記憶を植え付けてしまう危険性が高い手法と評価されている。
ただし、ホルト中佐が三角形の物体について書いたメモは、ペニストン氏が催眠を受ける10年も前に作成されている。
記憶の捏造説だけでは事件全体は説明しきれないのが現実だ。
放射能被害と公文書、残された謎
事件のもう1つの謎は、兵士たちの放射線被曝である。
第一発見者のバロウズ氏は事件後に体調を崩し、米退役軍人省に医療補償を申請した。
しかし軍歴の記録を入手しようとすると「最高機密」に分類されてあり、故ジョン・マケイン上院議員の補佐官だったシェリル・ベネット氏が間に入り、2015年にようやく記録を入手できたと振り返っている。
この年、バロウズ氏は退役軍人省から和解金を獲得し、医療費の支払いを受けることになった。
バロウズ氏側の弁護士パット・フラスコグナ氏は「灯台や天体現象では、この健康被害は説明できない」と述べている。
証拠として提出されたのは、英国国防省が10,000件以上のUFO目撃を分析し2006年に機密解除した460ページの報告書「プロジェクト・コンディン」だった。
報告書はレンデルシャム事件の観察者複数が「未確認航空現象(UAP)の放射線にさらされた」と明記している。
英国国防省は2011年に35件分のUFO関連文書をまとめて公開したが、レンデルシャム事件の防衛情報ファイルだけが「巨大な空白」として欠落していたとBBC[https://www.bbc.com/news/uk-england-suffolk-51565054]は報じている。
第二次世界大戦の退役軍人で、元国防参謀総長のピーター・ヒル=ノートン卿は生前「ホルト中佐の報告通りに起きたのか、全員が幻覚を見たのか。どちらだとしても国防上の最重要問題だ」と語っていた。
事件を生涯にわたって追い続けた元英国防省UFO調査官のニック・ポープ氏は、2026年4月6日、食道がんのため米アリゾナ州トゥーソンの自宅で亡くなった。60歳だった。
目撃者は複数の軍人、3晩連続の遭遇、レーダー記録、放射線、地面の痕跡、そして公開された公文書
これはUFO事件のパーフェクトストーム(複数の厄災が同時に起こり、破滅的な事態に至ること)だ
というポープ氏の言葉が、事件の輪郭を最も的確に表しているのかもしれない。
この事件でわかったこと
- 英レンデルシャムの森で3晩連続で複数の米軍人が謎の発光体を目撃し、地面の凹み・放射線・録音テープという物的証拠が残された
- 1983年にホルト中佐のメモが機密解除され、英国史上もっとも証拠のそろったUFO事件として世界に知られるようになった
- 目撃者の1人バロウズ氏は事件後に健康被害を訴え、2015年に米退役軍人省から医療費の支払いを受ける和解が成立した
まだわかっていないこと
- 三角形の発光体の正体が宇宙人の乗り物なのか、灯台や星などの自然現象の誤認なのか、決定的な証拠はいまだにない
- レンデルシャム事件に関する英国国防省の防衛情報ファイルは2011年の公開時に「巨大な空白」として欠落が判明して以降、2026年現在も所在不明のままだ
References: Rendlesham Forest UFO: Are we any closer to the truth 40 years on[https://www.bbc.com/news/uk-england-suffolk-54649675] / The Rendlesham Forest mystery: ‘It’s the perfect storm of a UFO case’[https://www.theguardian.com/world/2026/apr/30/the-rendlesham-forest-mystery-its-the-perfect-storm-of-a-ufo-case]











