極寒でも高温でも、真空でも放射線を浴びても、極限環境を生き抜くことができる地球最強生物の呼び名も高いクマムシ。
クマムシは「乾眠」と呼ばれる休眠状態に入ることで、圧倒的な耐性を発揮する。
乾眠中のクマムシが高温にさらされても生き延びられる仕組みを、インド科学大学院大学の研究チームが解明した。
乾眠中のクマムシは体内の熱伝導率が大幅に低下し、体が断熱材のように熱を遮断することで内部の細胞をダメージから守っていたのだ。
この研究成果は『Journal of the Royal Society Interface[https://royalsocietypublishing.org/rsif/article/23/238/20251033/481636/Thermal-conductivity-modulation-as-a-mechanism-of]』(2026年5月13日付)に掲載された。
地球最強生物クマムシとは何者か
カラパイアでは何度もお伝えしているが、改めてクマムシについて紹介しよう。
世界中に約1500種が確認されている緩歩動物(かんぽどうぶつ)クマムシは、海や川、コケや土壌など、水のある環境に広く生息する極小の生き物で、多くの種の体長は約0.5mm前後と肉眼でかろうじて見える程度しかない。
8本の短い脚でほわほわと歩く姿とは裏腹に、地球上に存在するあらゆる生物の中でも群を抜いた生命力を持つ。
クマムシはマイナス273°Cの極寒から真空状態、強力な放射線、水深1万mの深海に匹敵する高圧まで、ほかの動物なら即死するような環境を次々と生き延びる。
クマムシがこれほどの耐性を発揮できるのは、「乾眠(かんみん)」と呼ばれる休眠状態に入ることができるからだ。
周囲が乾燥するとクマムシは体内の水分を通常の約85%から3%以下にまで絞り込み、代謝をほぼ完全に停止させた状態、タン(tun)へと変化する。
水を与えると復活して再び活動を始め、何度でも繰り返すことができる。
熱への耐性は種によって大きく異なり、100°Cを超える高温に耐える種がいる一方、比較的低い温度で限界を迎える種もある。
低いといっても、人間なら簡単に死んでしまうほどの高温であることに変わりはない。
乾眠中の耐熱限界を調べる実験
乾眠中のクマムシの耐熱性はこれまでいくつかの研究で調べられてきたが、種によって結果は大きく異なる。
乾眠状態の複数種を対象にした研究では、80°Cまでは生存率の低下が緩やかなものの、80°Cを超えると急激に低下し、マクロビオタス科とエキニスカス科に属する種は100°Cで全滅することが確認されている。
一方、ミルネシウス科の一種は、100°Cでも90%以上が生存するなど、科によって耐熱性には大きな差がある。
インド科学大学院大学の研究チームは、インドのバンガロールで採取したマクロビオタス科の陸生のクマムシ、パラマクロビオタス属BLR株(Paramacrobiotus sp. BLR strain)を使い、乾眠状態と活動中の状態でどこまで熱に耐えられるかを比較する実験を行った。
研究チームは生存率を調べるだけでなく、高温にさらされたときに体内の熱がどのように流れているかを直接測定することにした。
活動中は45°Cで全滅、乾眠中は85°Cでも10%が生存
実験では活動中のクマムシと乾眠状態のクマムシをそれぞれ小型の容器に入れ、45°Cから85°Cの温度に1時間さらした。
活動中のクマムシは、最も低い実験温度である45°Cで1時間後に全滅した。
乾眠状態のクマムシは45°Cおよび60°Cで約90%が生存し、70°Cでも約50%が生き延びた。85°Cでさえ約10%が生き残った。
乾眠中は体が熱を通しにくくなっていた
研究チームは独自に開発した真空装置を使い、活動中と乾眠中のクマムシの体の熱伝導率を計測した。
熱伝導率とは物質が熱をどれだけ伝えやすいかを示す数値で、値が低いほど熱が伝わりにくく、断熱材に近い性質を持つ。
計測の結果、乾眠状態のクマムシは活動中の個体に比べて熱伝導率が大きく低下していた。
体が水分を失って乾燥することで熱を通しにくい構造へと変化し、外部の高温が内部の細胞に届きにくくなっていたのだ。
研究を率いたエスワラッパ博士は、乾眠状態のクマムシが熱伝導率を調整することで熱から身を守っていると説明した。
次の研究では分子レベルでのメカニズムの解明を目指すと述べている。
物理的メカニズムの発見で耐熱の謎が解けた
クマムシの極限耐性はこれまで主に生化学的な観点から研究が進められてきた。
乾眠中に体内で増えるトレハロースという糖が細胞を守る仕組みはよく知られているが、それだけでは高温への耐性を完全に説明できなかった。
トレハロースとは糖の一種で、乾燥時に細胞内の水分の代わりとなって細胞構造を保護する働きを持つ。
いわば細胞を包む緩衝材のような役割だが、なぜ乾眠中のクマムシが高温に耐えられるのかは長らく謎のままだった。
今回の研究で熱伝導率の低下という物理的な変化が加わることで、生化学と物理学の両面からクマムシの耐熱メカニズムを説明できるようになった。
研究チームは今後、乾眠中に熱伝導率が低下する分子レベルの仕組みを解明するとともに、ほかの極限耐性を持つ動物にも同様の現象が見られるかどうかを検証していく方針だ。
極限環境で使える新素材の開発に応用へ
クマムシの体が乾眠中に熱を遮断する仕組みは、生物学の枠を超えた可能性も秘めている。
研究チームは今回の発見が、極限温度でも機能する新素材や技術の開発に役立つ可能性があるとみている。
高温環境下で使える断熱材や耐熱コーティングの設計に活かせる可能性があり、宇宙探査機、砂漠地帯での設備、山火事対応機器など過酷な環境で使われる技術への応用が期待される。
まとめ
この研究でわかったこと
- 乾眠状態のクマムシは体内の熱伝導率が下がり、体が断熱材のように熱を遮断することで高温から細胞を守っていた
- 活動中のクマムシが45°Cで全滅するのに対し、乾眠状態では85°Cでも約10%が生き残った
- 高温への耐性はこれまで生化学的な仕組みで説明されてきたが、物理的なメカニズムが関与していることが初めて実験で示された
まだわかっていないこと・今後の課題
- 乾眠中に熱伝導率が低下する分子レベルの仕組みはまだ解明されていない
- ほかの極限耐性を持つ動物にも同様の現象が見られるかどうかは未確認
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References: doi.org/10.1098/rsif.2025.1033[https://royalsocietypublishing.org/rsif/article/23/238/20251033/481636/Thermal-conductivity-modulation-as-a-mechanism-of] / Tardigrades reveal extreme heat-blocking survival trick while in tun state[https://phys.org/news/2026-05-tardigrades-reveal-extreme-blocking-survival.html]











