警察の職権乱用とマスコミの暴走はもはや当たり前になってしまったということか。昨日11月16日、沢尻エリカが合成麻薬MDMAを所持していたとして警視庁組織犯罪対策部第5課(組対5課)に逮捕された。
逮捕の一報が報じられた約1時間後には、TBS NEWSのツイッターアカウントに、逮捕前日の15日夜21時半ごろ自宅から出かける沢尻の動画が投稿された。YoutubeにアップされたTBSの動画には「これだ、これだ!来た!」という現場の記者の声が入っていることから、明らかに逮捕を想定して張り込んで撮影したことがわかる。
実際、この映像は『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS)でも流され、MCの安住紳一郎アナはこう説明した。
「これまでにも大麻使用疑惑などなどが週刊誌などで報じられていて、そして今回は非常に確度の高い情報がマスコミに一部もたらされていたということで、TBSの報道記者もこの映像を持っているということのようです」
TBSだけではない。「週刊文春」(文藝春秋)も、昨日21時すぎにに「【「週刊文春」記者は見た】家宅捜索3時間前、クラブで踊り明かす沢尻エリカ」と題したスクープ記事を配信。逮捕前夜から逮捕当日の朝方にかけて都内のクラブで過ごしていた様子を写真付きで詳細に報じていた。その後、ニコニコ生放送の番組『直撃!週刊文春ライブ』ではお酒を飲んだり友人とハグし合ったりしている動画も公開していた。しかも、記事によれば、「週刊文春」は沢尻本人がクラブに到着するより前から、記者を当該クラブに先回り入店させ、張り込んでいたという。
ようするに、TBSも「週刊文春」も事前に逮捕情報をリークされ、前日から沢尻を張り込みしていたのだ。
情報をリークしたのはもちろん、沢尻を逮捕した警視庁の組対5課だ。逮捕の瞬間を大々的に報道して、見せしめのショーにするために、映像を撮らせようと、事前に情報を流したのである。
「今回、沢尻を逮捕した組織犯罪対策部5課は、ASKA、そして清原和博を逮捕した部署。組対5課はとにかく逮捕をマスコミにアピールしたがることで有名。清原のときも、ASKAのときも同じように逮捕を事前リークして、その瞬間を実況中継させた」(警察関係者)
たしかに、元プロ野球選手の清原和博が2016年2月に逮捕された際も、逮捕の一報を受け、テレビ各局のワイドショーやニュース番組で、深夜、清原が自宅やサウナから出てくる姿、車に乗り込もうとする清原を記者が直撃する映像が流れた。今回と同じく現場記者が「来た!来た来た来た!」「これから夜の街へ繰り出す模様です」「サウナから清原がでてきました。3時間入って出てきました」「周りをきょろきょろ見てるぞ」「夏なのに長袖・長ズボンです」などと、臨場感たっぷりに伝える声も入っていた。
そして清原が逮捕されると、テレビ各局は「我々は前から逮捕の情報を知ってましたよ」と自慢するかのように、その前年からの清原張り込み、直撃映像を公開した。なかでもフジテレビは、ニュース予告に「清原容疑者追跡!1200時間」というキャッチフレーズをうつほどのはしゃぎよう。さらに、今回沢尻の逮捕前夜を撮影したTBSは、清原のときも逮捕の瞬間を独占スクープ撮影していた。
もっと酷かったのは、2016年11月のASKAの2度目の逮捕劇だ(周知のとおり、のちに不起訴処分)。このとき、NHKと共同通信が「歌手のASKA元被告逮捕へ。覚醒剤使用容疑」と速報を打つと、テレビ各局が逮捕状も出ていない段階で一斉に「ASKA元被告 逮捕へ」と大々的に報道。当のASKAは自分のブログで逮捕も覚醒剤の陽性反応も完全否定したが、その後も断定的な逮捕報道は続き、逮捕当日には午前からASKAの自宅前にマスコミが集結。
ちなみにASKAが逮捕されたのは警察に身柄を移された後、その日の夜のことで、マスコミ報道は明らかな逮捕の前打ちだった。
これだけでも完全に人権無視の暴挙だが、ASKAはこの件では、約3週間後に嫌疑不十分で不起訴処分となり釈放されている。ようするに、警視庁組対5課は証拠が不十分なまま不当逮捕を強行し、マスコミもその暴挙に丸乗りして煽っていたのである。
そして、今回の沢尻逮捕。組対5課もメディアもASKAの逮捕劇の失態についてなんら反省も検証もしていなかったということらしい。
「今回の沢尻については、さすがに情報を全社に流すということをはしなかったが、それでもTBS、さらには記者クラブに入っていない『週刊文春』にまで逮捕を事前リークし、クラブ通いの映像を撮らせた。映像があれば、大々的に報道してくれると考えたのでしょう」(警視庁担当記者)
しかも前述のように、「週刊文春」は3カ月前から取材に動き、逮捕前夜も沢尻を自宅から尾行してクラブに行ったのではなく、文春記者のほうが先回りしてクラブで沢尻を待ち伏せしていたのだ。それこそ逮捕の成否に関わる相当センシティブな情報を「文春」に流していることがうかがわれる。
しかし、普通に逮捕の確実性だけを考えれば、事前にマスコミが動くと、ターゲットの有名人が警戒したり逮捕しづらくなるはずだが、それでも情報を流している。しかも、これは末端からの流出とは考えにくい。ようするに組織として、逮捕の確実性よりも、広報・PR効果を重視している証左だろう。
「組対の捜査員は『マスコミに報道させるのは警鐘を鳴らすためだ』などと言っているが、ようは自分たちの組織の宣伝だよ。スタンドプレーにもほどがある」(前出・警察関係者)
しかも、こうした自己宣伝の事前リークは、警視庁組対5課だけではない。先月21日に判決が出たばかりの元KAT-TUNの田口淳之介と女優の小嶺麗奈の大麻事件では、厚生労働省管轄の麻取(関東信越厚生局麻薬取締部)だったが、なんと麻取がふたりの自宅を家宅捜索したときの動画をマスコミに提供していたことが発覚。判決が数カ月延期されるという事態も起きている。
「このとき麻取は、自宅内の捜索の様子に加え、ふたりに手錠をかけ連行に至るまでの映像を、未編集のままテレビ制作会社に提供。当初の判決予定日にフジテレビで放送される予定だったと言われています。ところが、検察がその動きをキャッチし、激怒。放送が頓挫し、逆に『捜査が適正だったか検証が必要』として判決が延期されたんです」(ワイドショー関係者)
しかし、多くのマスコミは、保釈時の田口の土下座謝罪や法廷プロポーズなどを大々的に報じていたにもかかわらず、この捜査機関とマスコミの癒着問題はアリバイ的に報じただけで、追及する動きはまったくなかった。
また、世論のほうも、こうした捜査機関の職権乱用にあまりに無批判だ。清原や田口のケースでも、今回の沢尻のケースでも、「悪いことをしたのだから撮られて当然」などという声のほうが圧倒的に多い。のちに不起訴処分になったASKAのケースですら、「1回逮捕されてるし」「そもそも疑われるようなことがあるのだから仕方ない」「クロと証明できなかっただけで無実ではない」などとASKAに対する同情の声も、報道に対する批判の声もほとんどない。
薬物犯罪について、厳罰・排除よりも治療・包摂が必要という議論も以前よりは周知されるようになっているが、世論の大勢はむしろ逆で、出演シーンのカットや映画公開中止、DVDやオンライン動画の販売が停止になったり、反応はより過剰になっているし、厳罰論や排除論もより強化されている。
他罰感情の高まりに加え、もともと国家権力や監視社会化への無防備さも手伝って、警察権力の横暴とその片棒を担ぐマスコミに馴らされ、完全に麻痺してしまっているのだ。
この他罰主義と警察国家化のエスカレートの先に何があるのか。国民はその恐ろしさを本当にわかっているのだろうか。