左・『報道1930』に出演する田崎氏/右・萩生田氏(自民党HPより)


 ついに東京地検特捜部が安倍派と二階派の事務所に強制捜査が入るなど、大きく動き出した裏金問題。報道によると、パーティ券収入の超過分の不記載が直近5年だけでも10億円にのぼるといい、その悪質性が浮き彫りになってきている。

 最大派閥として権力をほしいままにしてきた状態から一転、泥沼に陥った安倍派。ところが、そんな窮地に立たされたなかでなぜか存在感を高めている人物がいる。14日に政調会長の辞表を提出した萩生田光一氏だ。

 萩生田氏といえば“安倍派5人衆”のひとりで、5人のなかでも安倍派の“親分”である森喜朗・元首相にもっとも食い込んでおり、「総理にいちばん近い男」と呼ばれてきた。そして、今回の裏金問題でも、キックバックを受けた安倍派幹部として萩生田氏の名が取り沙汰されており、キックバックによる裏金は数百万円と見られている。

 他の幹部にくらべると裏金の額は小さいが、言うまでもなく、たとえ数百万円でも違法性が問われる不記載であることには変わりはない。ところが、萩生田氏は疑惑の渦中にありながら、むしろ自身のプレゼンスを高めるような言動に出ている。

 たとえば、萩生田氏は岸田文雄首相が人事で安倍派を閣僚から一掃する方針だと報じられた直後の11日、「今回のことが原因で、閣僚や副大臣などが辞めるならば、政調会長の私の責任も同等に、またそれ以上に大きなものがある。人事は首相の専権事項だが、出処進退については自分で決めたい」と発言。疑惑の渦中にありながら一掃人事に牽制をかけ、結果として岸田首相に政務官5人の続投を決定させた。

 この期に及んでも影響力を誇示するとは厚かましいにも程があるが、この萩生田発言について、『ひるおび』(TBS)や『報道1930』(BS-TBS)などの番組で政治ジャーナリストの田崎史郎氏は、「(萩生田氏は)政務官を守ろうとしていた」「萩生田さんとしては他の人が辞めているのに自分だけ残って美味い飯を食うわけにはいかんだろう、と。冷や飯を食うときは(一緒に)冷や飯を食わなくてはいけない(という思い)」などと解説。

しきりに萩生田氏の“男気”をPRしたのだ。

 そもそも、萩生田氏の発言は安倍派が受けるダメージを少しでも和らげようとする保身でしかなく、国民からの批判を完全に無視したものだ。その上、安倍派による組織的犯罪を黙認し裏金づくりに勤しんでいたと考えられるような人物を、あたかも“若手議員思いのリーダー”であるかのように持ち上げるとは……。

 さらに、田崎氏は「『(予算編成が終わったら)辞表を渡させてください』という萩生田さんを岸田総理が慰留した」「総理は(萩生田氏を)残したいという気持ちが強い。党でいちばん頼りにしていますから」「岸田さんと萩生田さんの関係は依然として良好。さまざまなことの相談相手になっている」と、やたらと萩生田氏の存在感の大きさを強調したのだ。

 だが、驚くべきことに、萩生田氏を持ち上げるジャーナリストは田崎氏だけではない。他の大手メディア政治部記者らからも「安倍派解体で萩生田派結成か」「萩生田氏は永田町で株をあげた」「将来の総理の目も残っている」という見方までもが出てきているのだ。

「永田町の常識は世間の非常識」とはよく言われるが、リクルート事件以来の一大疑獄の当事者のひとりと見られる人物を“総理候補”などと褒めそやすとは、異常としか言いようがないだろう。
 
 しかも、気になるのは、田崎氏の発言だ。じつは田崎氏、「僕は日曜日にも月曜日にも萩生田さんとちょっと話したんですけど」などと萩生田氏と密に連絡をとっていることを口にしているのだ。

 田崎氏といえば、安倍晋三氏や菅義偉氏、岸田首相といった時の権力者にすばやく食い込んで、「直接、電話で話した」などと関係を誇示。

その時々のキーマンとパイプを持ち、相手を利する情報を垂れ流すことで関係をさらに強固なものにしてきた。いわば、芽がある人物に擦り寄り、芽がないと判断するや否や見切りをつけるという“目利き力”で現在の立場を築き上げてきた。

 そんな田崎氏が、いま萩生田氏と距離をかなり縮めているという事実を考えれば、「安倍派解体からの萩生田派結成、将来の総理へ」という信じられないような展開が現実味を帯びているといえるだろう。

 しかし、あらためて言うまでもなく、萩生田氏は安倍元首相の“悪い部分”をすべて継承しているような人物である。そんな人物が、安倍派が解体したあとに派閥を立ち上げても、それは安倍派の存続にほかならない。

 実際、萩生田氏は、自民党内でもとくに統一教会との関係が深いことが露呈したというのに、「反省している」と口にしただけ。それで何事もなかったかのような顔をして、ここまで政調会長の座に居座りつづけてきたこと自体が異常だったのだ。

 しかも、萩生田氏は、札幌と大阪の法務局から「人権侵犯」認定を受けた杉田水脈・衆院議員を、あろうことか政策立案に携わるポストである環境部会長代理に起用した張本人。完全に開き直った杉田議員は、いまも差別発言を繰り返している状態だ。

 そればかりか、萩生田氏は安倍元首相や森元首相の子飼いとして、教育業界や自治体に圧力をかける別働隊として暗躍。実際、安倍元首相が血道を上げていた教科書批判の尖兵として教科書会社に圧力をかけたり(既報参照→https://lite-ra.com/2019/09/post-4960.html)、森元首相が目論んでいた東京五輪に絡む神宮外苑地区の再開発でも萩生田氏が都に働きかけをおこなっていたことがわかっている(既報参照→https://lite-ra.com/2022/09/post-6224.html)。

 もちろん、そうした圧力体質はメディアにも発揮。

2014年11月に当時の安倍首相が街頭インタビューVTRに逆ギレした『NEWS23』(TBS)生出演後、萩生田氏が自民党筆頭副幹事長として在京テレビキー局の編成局長、報道局長宛てに“報道圧力文書”を送りつけたほか、2017年8月には『グッド!モーニング』(テレビ朝日)で田原総一朗氏が「萩生田光一は加計学園問題のいわば一番の責任者」と発言したことに猛抗議。正当な論評であったにもかかわらず、放送の3日後に番組は謝罪をおこなった。さらに統一教会問題でも、萩生田氏は各メディアの番記者を通じて報道に圧力をかけたといわれている。

 同じ歴史修正主義者として差別発言を繰り返している議員を重要ポストに就け、圧力をかけることで政治や行政を歪め、報道を封じ込める。まさに萩生田氏は“悪夢の安倍政権”を側近として支え、いまも安倍元首相とそっくりの手法で権力を維持しているのだ。しかも、萩生田氏といえば、自身のブログに安倍元首相と加計学園・加計孝太郎理事長らとバーベキューを楽しむ写真を投稿していたにもかかわらず、加計学園問題が追及されていた2017年6月に国会で「腹心の友と確認したこともないし承知していない」と答弁。安倍氏同様、“息を吐くように嘘をつく”人物なのである。

 このような人物が、安倍派の裏金問題を逆に利用して総理の座を虎視眈々と狙っているとすれば、まさに地獄のような展開としか言いようがない。今後の要警戒が必要だ。

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