クマ出没「5万件超」で過去最多を倍増更新…ドングリ予測が外れる“意外な主食”とは

5月11日、昨年度の全国でのクマの出没件数が過去最多を更新し、5万776件にのぼったと発表されました。これまで最多だった2023年度(2万4348件)の倍以上に急増したことになります。

従来のクマ対策では、クマの主食であるドングリの豊作・凶作による『クマの出没予測』がなされてきましたが、この予測には精度のバラツキがありました。

精度向上のための研究が続けられるなか、関西の一部のエリアでは「どうやらクマの主食はドングリではなさそうだ」ということがわかってきました。

では、クマはドングリではなく何を食べているのか。出没予測はどう変わっていくのか。12日に最新の研究成果を発表した兵庫県立大学・藤木大介准教授への取材をふまえて解説します。

過去最多を更新し続ける「クマの脅威」

関西のクマの主食はドングリじゃない!?一部地域では秋に『液果...の画像はこちら >>

11日発表された「5万776件」という数字は、これまでの常識を覆す衝撃的なものです。かつて最多だった2023年度からわずか2年で倍増していて、今後も増加することを予感させる右肩上がりのグラフを描いています。

地域別では、特に東北地方での出没件数が深刻で、なかでも去年、最も出没が多かったのが秋田県でした。

秋田県などでは、クマの主食とされるドングリの豊凶を調査し、「凶作の年は人里に下りてくる」という予測を立ててきましたが、近年はこの予測を大幅に上回る出没が相次いでいます。

その背景には、クマの個体数が増えすぎたために、山のエサだけでは足りなくなっているという構造的な問題があります。エサを求めて人里へ進出せざるを得ない「飽和状態」が、この異常な出没件数につながっているおそれがあります。

兵庫県のデータが示す「予測の精度」と「地域差」

関西のクマの主食はドングリじゃない!?一部地域では秋に『液果類』を大量採食 時に襲われそうになりながら…「フン収集」調査で判明の新事実 出没予測の精度向上につながるか これからのクマ対策は?【解説】
MBS

関西においても、クマの出没予測は重要な課題です。

特に兵庫県はクマの研究が進んでいて、独自のデータに基づいた予測を出しています。その基準の一つが、夏の終わりから秋の初めにかけて「コナラ」「ミズナラ」「ブナ」の3種類のドングリがどれだけ実を結んでいるか、双眼鏡を使って200地点以上で調査するというものです。

これまでのデータでは、少なくともこれら3種類すべてが一斉に「凶作」となった年には、クマが大量に出没するという傾向が明確に現れていました。

あの巨体を維持するために、クマは多いときで1日に数千個から、ときには「万」単位のドングリを食べるといわれています。それほど膨大な量のエサが必要なため、主食であるドングリがなくなれば、クマは困り果てて人里へ下りてくる——というのが、これまでの予測の根幹でした。

同じ兵庫県内でも…京都府側では予測が合わない??なぜ精度がばらつくのか

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しかし、この予測モデルには課題がありました。

兵庫県内でも、鳥取・岡山県境に近い「西側」では予測の精度が比較的高いのに対し、京都府境に近い「東部(北東部)」では予測と結果が合致しないことが多かったということです。

なぜ精度にバラツキがあるのか…その謎を解明するために今回の研究が行われました。

「ドングリ好きは本当か?」時にはクマに襲われそうになりながら…地道なフン調査

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兵庫県立大学の藤木大介准教授らの研究チームは、「そもそもクマは本当にドングリが一番好きなのか?」という根本的な疑問から、クマが実際に何を食べているのかを正確に把握するため、約6年間にわたりクマの生息域で「フン」を拾い集めるという調査を敢行しました。

「コスパは悪いしリスクも大きい」それでもフンを拾い集め…

藤木准教授曰く、クマのフン収集は「コスパは悪いしリスクも大きい」命がけの調査です。これまでに10回以上クマと遭遇し、一度は休憩中に目の前までクマが迫るという危機的な状況も経験したといいます。その際はクマが逃げてくれたため事なきを得たということですが、こうしたリスクを背負いながら、1日歩いても1個も見つからない日もあるなかで、計600個ものフンを集めました。

関西のクマの主食はドングリじゃない!?一部地域では秋に『液果類』を大量採食 時に襲われそうになりながら…「フン収集」調査で判明の新事実 出没予測の精度向上につながるか これからのクマ対策は?【解説】

クマは消化力が比較的弱いため、食べたものがフンに出てきやすいという特性があります。収集したフンの内容物を詳細に分析した結果、兵庫県北東部の個体群について、これまでの定説を覆す実態が判明したというのです。

「液果類」が主食——予測が外れた決定的な理由

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分析の結果、兵庫県北東部のクマたちは、ドングリがある森であっても、冬眠前の秋には好んで「液果(えきか)類」を食べていることがわかったのです。

液果類とは、アオハダ、ウラジロノキ、タカノツメといった、水分を多く含んだ瑞々しい果実=いわゆるベリー類です。

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カキなどの果物と比べると非常に小さな実ですが、兵庫の東側の個体群にとっては、ドングリ以上にこれら液果類が「主食」となっていました。

この発見は、今までの出没予測が当たらなかった理由を裏付けるものとなり得ます。

今後はドングリだけでなく、液果類の実り方も予測に組み込むことで、出没予測の精度を高められると期待されています。

季節で変わる「クマのメニュー」と夏の意外なエサ

藤木准教授の調査では、クマが季節ごとに食べ物を変えている実態も明らかになりました。

季節ごとの主な食べ物(研究で判明した内容)

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【春】冬眠明けの体力を戻すため、消化が良くタンパク質の高いタケノコなど
【初夏~夏】山から植物性のエサが減る時期。アリ、ハチ、オオゴキブリ(山の昆虫)など
【秋】冬眠に備えるための液果類、および炭水化物や脂質の多いドングリ類

夏の時期に食べる「オオゴキブリ」は、街中で見かけるものとは異なり、朽ち木の中などでゆっくり動く昆虫です。これらは消化が悪く、そのままの形でフンに出てくることから、藤木准教授は「好きで食べているというより、他にエサがない時期に、仕方なく食べているのではないか」と推測しています。

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こうした季節ごとの詳細な食生を知ることは、クマの生態を理解するうえで重要な材料となります。

クマが好みそうなタケノコや、液果類の「代替採食物」となるカキがなる木といった誘引物を近くから無くすことで、クマ被害のリスクを低減できる可能性がある、ということです。

「クマ棚」に注意!目撃情報がなくても潜むリスク

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クマの被害から私たちの身を守るために、対策もアップデートが必要です。

目撃情報がなくてもクマが近くにいることを示すサイン、それが「クマ棚」です。

クマは木に登って枝を折り、実を食べた後、その枝を自分の足元に敷き詰める習性があります。これが地上から見上げると、木の上に不自然な枝の塊(鳥の巣のようなもの)として残ります。

もし庭のカキの木や近くの栗の木にこうした「クマ棚」を見つけた場合、目撃していない間にクマが来ているということなので、伐採などの対策が必要になります。

ばったり遭遇のリスク高…早朝の散歩にも要注意

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また、警戒すべきは時間帯です。クマは本来昼間に活動しますが、冬眠前などにエサを探して人里に下りる際は、人間を避けるため「夜行性」にシフトしてカキを食べたりすることがあるということで、深夜から早朝にかけて人里で食事をし、人間が動き出すであろう早朝には山へ帰っていくという行動パターンが確認されています。

そのため、早朝の散歩をする人が、山へ帰る途中のクマとばったり遭遇して被害に遭うリスクが非常に高まっているのです。

早朝の外出には、鈴や撃退スプレーを携帯するなどの対策を徹底してください。

保護から「適切な管理」へ——問われる共存のあり方

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兵庫県では、20年前にはクマの数は100頭にも満たず、一時は保護されてきました。その結果、現在は数百頭にまで回復しました。マイクロチップを使った20年以上にわたる追跡調査により、個体数の把握は進んでいますが、「適正な数」が何頭なのかという問いに答えを出すのは容易ではありません。

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今回の研究成果を活かし、山の奥深くに液果類の木を増やすことで、クマが山の中で暮らせる環境を作る「生息域のコントロール」も、長期的には検討されるべきです。

環境変化によって里山の境界線が曖昧になり、クマとの距離感が変化してしまった現代。私たちは最新のデータを基に、これまでの常識をリニューアルし、自然との向き合い方を考え直す局面に差し掛かっているようです。

(2026年5月12日放送 MBS「よんチャンTV」内『山中プレゼン』より)

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