一大ムーブメントとなった、アニメ『鬼滅の刃』主題歌であるLiSAの「紅蓮華」を手がけたことで一気に全国的知名度が上がった作曲家・草野華余子。そんな彼女は、自身もシンガーソングライターとして活動しており、今年1月27日にフルアルバム『Life is like a rolling stone』を発売。
本作は草野華余子が全身全霊を込めた、捨て曲なしの“純J-POP”アルバムだ。

【動画】草野華余子「Life is like a rolling stone」MV


■温故知新のJ-POPアルバムを作りたくて“純J-POP”をコンセプトにした

──草野華余子の名義としては初のフルアルバム『Life is like a rolling stone』を発表。作曲家として非常にお忙しいなかで、今作を出された流れをお聞きできれば。

草野華余子 2019年の2月に、カヨコから本名の草野華余子に改名したんです。そこから約2年本名で活動してきて感じたことや、カヨコ時代から引き連れてきた想いを、今までの人生で聴いてきたJ-POPという形に反映したアルバムを作ろうと思って。死ぬ時に墓に入れてもいい一枚になりましたね。


──コンセプトが“純J-POP”ですが、なぜ“純”を付けたのですか?

草野 今、J-POPと呼ばれるものがすごい多様化してきてると思うんです。ボカロ発信で、それを人間が歌う文化やダンサブルなビートがあるうえで、日本語をいかに面白く歌うか、みたいなものもある。多様化しているなかで、歌謡曲や演歌とかの流れを汲んできたJ-POPもある。そういう温故知新のJ-POPアルバムを作りたくて“純J-POP”をコンセプトにしました。

──ご自身もJ-POPに強い思い入れがあるから、このコンセプトになったのでしょうか?

草野 私はやっぱり、80年代の後半から90年代前半くらいの、“洋楽に憧れながら、日本の音楽とはどういうものか?”を試行錯誤してた曲が好きなんです。今回はそういうものをやりたいと思いました。



■シンガーとしての自分で、まっさらな気持ちで歌えた

──今回、岸田教団&THE明星ロケッツの岸田さんを筆頭に、たくさんのアーティストが参加しています。草野さんが作ってきた人間関係が詰まっているというか。

草野 バンドもやってたし、シンガーソングライターの弾き語りもしてたので、今まで出会った方がいろんな界隈にいるんですよね。もちろんアニメの音楽を作るというクリエイター界隈にも。いろんな場所にいて、いろんな人と出会えたっていう総決算なところはありますね。今回参加してくれた方々って、皆さんが思っているよりもさらにすごい人たちで。
曲がりなりにも音楽を頑張ってきたって自負できる自分が、本当に「すごい! やばい!」って思える人ばかり。このすごさをどう伝えたらいいかがわからない(笑)。

──そういう方々とコラボして、一緒に楽曲を作っていくっていうのはいかがでしたか?

草野 それぞれみんな、このアルバムのためにコラボしようって言ってたんじゃなくて、「いつか一緒にやりたいね」って言ってた人たちなんですよ。自然と、曲を集めていくなかで、こういう流れになりました。

──ご本人から、アルバムの聴きどころをお聞かせいただければ。

草野 「Higher-Ape」は、私以外がやってるからやらなくてもいいよね! と思ってた、アニソンライクな曲になっています。
あと、友人や関係者に聴いてもらった時、ダントツで人気だったのが「ドミノ倒し」ですね。草野華余子はこういうこともやれるんだ! っていうのをファンの皆さんにお伝えできるのはうれしいですね。

──では、いちばん難産だったのは?

草野 いちばん歌うのが難しかったのは、ラストに入っている「マーメイド・ララバイ」ですね。

──これはご自身のライヴでも、ずっと歌われてる曲ですよね?

草野 この曲は、体に沁み込みすぎてたんですよ。でも、そこに岸田さんや、ディレクションしてくれた、はやぴ~さん(岸田教団&THE明星ロケッツ ギター担当)が新しい風を吹かせてくれました。ライティングした時とは違う、シンガーとしての自分で、まっさらな気持ちで歌えたかなと。


──ディレクションが入ることによって、今までの感覚と違う部分がありましたか。

草野 「音符に対して敏感過ぎる」って言われたんです。歌詞の内容に対するアプローチと、音符に対するアプローチの方法って違うから。それをうまく融合させる方法を、はやぴ~さんがいろいろ教えてくれましたね。お歌の先生です(笑)。



■「おまえ、もうこんなええ曲書いてんから、もうちょっとうまいこと歌えや」

──そして、やはり草野華余子と言えば、作家としての顔がメジャーになっていると思います。


草野 ありがたいことです。

──「紅蓮華」の話もいろんなところでされていますが、作曲家の草野華余子とシンガーの草野華余子、自分の中の乖離ってあるのでしょうか。

草野 以前は乖離を感じたりもしましたが、今はないですね。普通に生きてると感じるバイオリズムの波みたいなものはもちろんあるんですけど、ただ、音楽に対するアウトプットは一個になった感じはします。何というか……作家の草野華余子が書いた曲を、アーティストの草野華余子に楽曲提供してるようなイメージですかね。

──俯瞰ができるようになったというか。

草野 そうですね。ただ、自分のことを書くんで、やっぱり感情移入しやすいし、いろいろなものが出てきやすいです。この自分のアルバムの制作が終わってから、すでに10曲ぐらいは提供曲を書いたんですけど、自身のアルバム制作以降は、曲を提供する人に対するアプローチの仕方が、もっと豊かになりました。

──その目線でいくと、クリエイター・草野華余子から見た、シンガー・草野華余子の評価って、どうなんでしょう?

草野 うーん、「おまえ、もうこんなええ曲書いてんから、もうちょっとうまいこと歌えや」っていうところはある……(笑)。

──厳しいですね。

草野 今回アルバムを作っている時に、岸田さんにもこれ言われましたからね(笑)。でもそれを言われて、受け取る私は、シンガーの私じゃなくて、作家の私なんです。クリエイターの私と、サウンドプロデュースの岸田さんが打ち合わせて、シンガーの草野華余子にどう歌わせたらこの曲はよくなるか? っていう、建設的な相談ができたので、今まででいちばん表現の方向性が広がったアルバムになったと思います。

──シンガー・草野華余子には伸びしろがある?

草野 そうですね。作家として乗っている時って、音符が勝手に動くような感覚もあるんです。でも歌う時って、考えなきゃいけないし、練習しなきゃいけない。岸田さんに「音符をしっかり取るとか、リズムをしっかり刻むっていうことが、すごくできるから歌にアソビがない」って言われて納得しちゃって。そのアソビの部分をチューニングするのが、これまではライヴだったんじゃないかな? って今思いますね。

──なるほど。

草野 ファンの皆さんの前で曲を披露することで、歌い回しとか、歌詞が変わっていったり。そう言うことをずっとしてきたんです。でも今はそれができないので……そういう部分は試行錯誤していますね。

──最後に、このアルバム。そして、シンガーソングライター・草野華余子として、読者にひと言メッセージをいただければ。

草野 楽曲提供のクリエイター、作詞作曲家として名前を知ってくださった方がいらっしゃると思うんですけど。そういう方々にも、今までずっと応援してきてくださったファンの皆さんにも喜んでいただける幅の広い、受け皿の広い一枚になったかなと思いますので、ぜひどこかで見かけたら、手に取って、楽しんでいただければなと思います。

INTERVIEW & TEXT BY 加東岳史

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【ライブ情報】
草野華余子1st Band Oneman Live “愛されたかったあの日の僕らへ”
07/21(水)東京・渋谷WWW X
07/25(日)大阪・Live House ANIMA ※昼夜2公演。

【プロフィール】
クサノカヨコ/大阪府出身・東京都在住、シンガーソングライターときどき作詞作曲家。3歳の頃からピアノと声楽を始め、18歳の大学進学を機にバンド活動を始める。バンド解散後、2007年頃から「カヨコ」として活動を開始、2019年に本名である「草野華余子」に改名。

【リリース情報】
2021.01.27 ON SALE
ALBUM『Life is like a rolling stone』