「うちの施設では対応ができません」
「○○(介護サービスの種類)レベルではないから対応困難です」
「(認知症の行動・心理症状等で)施設にケアをするのが難しい人がいて困っています」
このような理由で、施設・事業所から入所や利用を断られたり、退所や利用中止を求められることがあります。
私は、介護の仕事を18年経験していますが、そういった類の話を何度か目に耳にしてきました。
そして「どこに相談して良いのかわからない」「この先が不安」という家族にも出会ってきました。
施設・事業所によっては、受け入れたくても受け入れられないなど、課題があることも承知しており、一概に問題視することはできませんが、施設・事業所が根拠なく(根拠を示せず)、「大変だから」「うちのレベルではないから」という施設側の都合でサービスを拒むことはあってはならないと考えています。
今回はこの問題について事例を挙げながら考えていきたいと思います。
施設に設けられている入所判定基準とは?
【事例】Aさん(要介護3、男性)は、長女夫婦と同居をしていて、自宅で生活を送っています。Aさんはアルツハイマー型認知症で、直前の記憶を忘れる、新しいことを覚えられない、時間・場所を認識する力が衰えている、言葉が理解しにくいなど、認知機能の障がいがある反面、身体能力が保たれていて、いわば移動能力がある認知症の状態でした。
Aさんは自宅から外出し、一時的に行方がわからなくなることが度重なり、そのたびに警察や近所の方々を巻き込んで捜索を行っていました。在宅サービスを利用しながら献身的な介護を続けてきた長女夫婦は疲れ果てて、ついに施設を探すことにしました。
ケアマネージャーの協力のもと、さまざまな施設に入所の相談を行いましたが、大半の施設から「徘徊」には対応ができないと入所を断られてしまいました。
途方に暮れた長女のBさんは、私が働いていた介護老人保健施設(以下、老健)に飛び込みで相談に来られました。
介護サービスでは、省令の運営基準で、各種サービスの「提供拒否の禁止」が規定されており、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないことが明記されています。以下、特別養護老人ホーム(以下、特養)を参考に説明します。
運営基準では原則として、入所申込に対して必ず対応しなければならないとされており、特に要介護度や所得の多寡を理由にサービスの提供を拒否することは禁止されています。
提供を拒否できる正当な理由には、入院治療の必要がある場合や、その他入所者に対し自ら適切な指定介護福祉施設サービスを提供することが困難な場合があります。
居宅サービスで提供を拒む正当な理由は、主に以下になります。
- 現員数(定員・定床数に対する現在の利用者数)の限界
- 通常の事業の実施地域外・施設サービスでは、現員数と入院治療の要否
事例では、Aさんの主治医の意見(診療情報提供書等)、ケアマネージャーの情報、実際に会ったときのAさんの状態、家族の状況などを勘案しました。それに対して、Aさんの状態に応じる職員の人員や能力(知識や技術)、設備などについて施設で検討をして、Aさんを受け入れました。
私が働いていた老健では、入所判定基準があり、その基準では入所要件は下記の通りとしていました。
つまり内服薬を服用し、症状が落ち着いている状態です。これはかかりつけ医(主治医)の診療情報提供書などをもとに判定します。
なお、症状自体は安定していても、次のような場合は、対象外となります。
Bさんは「こちらの老健もダメだと思っていました。話を聞いてくれただけでうれしかったですし、さらに入所することもできて本当にありがとうございます。介護保険サービス(施設入所)を利用するのがこんなに大変だと思いませんでした」と言いました。そのときの安堵と疲弊が混じった表情を忘れることができません。
リハビリが必要な方の受け入れが可能な施設を探す人工透析が必要な方の受け入れが可能な施設を探す受け入れたくても受け入れらない事情
介護保険にかかる費用のうち、利用者が負担する1割(高所得者は2~3割)以外は、公費と私たち介護保険被保険者が納める保険料でまかなわれます。
介護保険への加入は義務ですが、いざというときのための保険です。
Aさんの事例では、待機者がいると施設入所は簡単にはいかないという認識をもっていたようですが、徘徊があるなどの理由で入所を断られるとは思っていなかったようです。
特養や老健、グループホームなどは、認知症の状態にある方を積極的に受け入れてくれると期待しているご家族も多いことでしょう。
一方、施設・事業所には、受け入れたくても受け入れられない諸事情があることも理解できます。
例えば、現在私が勤めている特養では、18時~翌朝9時までの時間、看護職員が不在です。その時間に「たんの吸引等」が頻繁に必要になる状態の方は、原則お受け入れができません。
そのような状態の方を、「行き先がなくかわいそうだから」と情緒的に受け入れることは、むしろご本人・ご家族に不利益につながります。
そのため、常時、医療・看護の提供が必要な方の場合は、根拠を示して入所をお断りし、その方に適していると考えられる医療機関や施設へ橋渡しすることもあります。
省令の「運営基準」には、サービス提供困難時の対応が示されています。
≪指定介護老人福祉施設の人員、設備、運営に関する基準 第4条の3≫※指定介護老人福祉施設は、入所申込者が入院治療を必要とする場合その他入所申込者対し自ら適切な便宜を提供することが困難である場合には、適切な病院若しくは診療所又は介護老人保健施設若しくは介護医療院を紹介する等の適切な措置を速やかに講じなければならない。
※特養の例
運営基準を読み解くと、「うちの施設では対応できません」と断るだけではなく、本人に適している医療機関や施設を紹介することが求められています。
以上をふまえ、施設への入所相談の際に、留意する点をまとめます。
施設の相談員やケアマネージャーは、他施設の情報やつながりを持っています。ご本人・ご家族が施設に相談をした際に、当該施設での入所が難しいと言われたときは、ほかの施設を紹介してもらいましょう。

介護保険制度は、万が一のときに利用できることが大切です。施設入所を拒否されたときは、他の施設を駆け回るよりも、まずはケアマネージャーなどに拒否された理由を確認して、対策を考えましょう。
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