認知症とは、脳の機能が低下して、記憶や判断力、言葉や行動などに障害が生じる状態を指します。
認知症の患者数は年々増加しており、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人にあたる約650万~700万人になると推定されています。
しかし、認知症を発症すると周囲の理解や配慮が不足して、さまざまな困難に直面することもあります。
そこで生まれたのが「認知症バリアフリー」です。
「認知症バリアフリー」とは、認知症になってからもできる限り住み慣れた地域で普通に暮らし続けていけるよう、生活のあらゆる場面で障壁を減らしていくための取り組みのこと。
社会に存在するさまざまな障壁をなくすことで各々が心のバリアーを広げ、認知症の人が尊厳と希望を持って認知症と共に生きることができるようにすることを目的としています。
今回は認知症バリアフリーについてご紹介いたします。
認知症バリアフリーの理念と考え方
認知症バリアフリー社会を実現するためには、以下のようなことが必要です。
- 認知症の人の多様性や個性を尊重し、できることを支援し、できないことを補うような環境づくりをすること
- 認知症の人の意思決定支援や自立支援を行うこと
- 認知症の人に対する偏見や差別をなくすために、正しい知識や理解を広めること
- 認知症の人が安心して利用できるサービスや商品を提供するために、各業種や企業が認知症への対応方法や事例を参考にして、独自のマニュアルや取り組みを作成すること
- 認知症バリアフリー宣言を行い、認知症への理解や配慮を表明する企業や団体を支援し、認証制度等を検討すること
- 認知症の人自身や家族、地域住民、企業、行政などが協力して取り組むこと
厚生労働省では、こうした理念を基に「認知症バリアフリー宣言」という取り組みを進めています。
認知症バリアフリー宣言とは、認知症の人やその家族にとって安心して店舗やサービス・商品を利用できる環境の整備などに努めるとともに、認知症バリアフリー社会の実現に向けた機運を醸成することを目的としたもの。
企業・団体などが自ら宣言する制度で、参加した団体は「認知症バリアフリー宣言ポータル」で公表され、ロゴマークが付与されます[1]。
認証制度等の検討も行われ「認知症バリアフリー」宣言するには、以下の4つの基準を満たす必要があります。
地域で見かける具体的な取り組み
次に、認知症バリアフリーに向けた具体的な取り組みを紹介いたします。
図書館での取り組み
日本図書館協会では、認知症の人が読書や調べものをしたり、心地よい時間を過ごすために図書館を利用できるよう配慮しています。
例えば、図書館員が認知症の人への理解を深める研修を受けたり、認知症の人にやさしいサインや案内を設置したり、本などに触れる喜びを味わえるイベントやサービスなどの提供をしています。
金融機関での取り組み
福井銀行では、認知症の人が安心して金融サービスを利用できるようにするためのマニュアルを作成。さらに、店舗内に認知症サポーターのステッカーを貼ったり、認知症の人に対応する専門スタッフを配置して、認知症の人が迷わないように店舗内外の案内表示などの工夫をしています。
地域ぐるみでの取り組み
厚生労働省では、地域共生社会の実現に向けて、「属性を問わない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」を一体的に実施する重層的支援体制整備事業を展開。
地域包括支援センターや地域活動支援センターが連携し、認知症の人やその家族が相談できる窓口や活動場所の提供、地域住民や多様な主体が参画して、認知症の人が安心して暮らせる地域づくりを推進したりしています。
まとめ
認知症バリアフリー社会とは、認知症になっても住み慣れた地域で普通に暮らし続けることができる社会です。
そのためには、認知症の人やその家族に対する理解と支援が必要です。具体的には、図書館や金融機関などの日常生活の場面で認知症の人への配慮をすることや、地域ぐるみで認知症の人が安心して暮らせる地域づくりをすることなどが挙げられます。
認知症は誰でもなりうるものであり、社会全体の関心と協力が必要です。私たち一人ひとりができることから始めましょう。
【参考文献】
[1]厚生労働省「認知症バリアフリー宣言ポータル」(2023/7/27参照)