【科目】介護✕在宅介護 【テーマ】自立支援の本当の意味
【目次】 大切なのは科学的なエビデンスだけではない 利用者に維持と改善を強いるリスク 自立支援だけでなく「寄り添う」姿勢を大切に近年、介護報酬改定では「自立支援」が大きなテーマになっています。
「自立」という言葉を辞書で調べると、「他の力をかりることなく、また他に従属することなしに存続すること」などと書かれています。
支援なしに生きていくことは、一見素晴らしいことのように思えるかもしれませんが、本来人はお互いに支えあうことで人間らしい生活を営んでいます。
何もかも一人でできるようになる必要はありません。そこで、今回は自立支援のあり方について考えていきます。
大切なのは科学的なエビデンスだけではない
自立支援の促進を目的に、2021年4月の介護報酬改定で「入浴介助加算(Ⅱ)」が新設されました。利用者が自宅で、自分の力や家族のサポートを受けながら入浴できるようになることが狙いです。
しかし、厚生労働省の介護給付費等実態統計によれば、その算定率はわずか4%にとどまっています。一方で、従来からある入浴介助加算(Ⅰ)は66.4%です。
算定率が低迷している理由は、新区分に設けられた以下の要件が関係しています。
専門職らが利用者宅を訪ねて、浴室の環境を確認すること 上記を踏まえた個別計画を多職種連携のもとで策定すること 計画に沿った入浴介助を事業所で実践することこれらの要件を満たすことが難しく、またそもそも必要性を感じていない事業者や利用者が多いことが原因のひとつとして挙げられます。
「入浴介助加算(Ⅱ)」は、科学的介護の推進を掲げる国の方針に沿って、エビデンスを重視した加算項目だと推察できます。
ただ、介護サービスを提供するとき、科学的根拠をエビデンスと絶対的に位置付け、その徹底を目的にすると、時として利用者の迷惑になることがあります。
例えば、何らかの身体的理由で自宅のお風呂に入れなくなったとします。多くの方はなるべく一人でお風呂に入りたいと考えるでしょう。
これまで一人で入浴できていたにもかかわらず、加齢によって入浴できなくなったからといって、「頑張りましょう」と励まされること自体が、その方の尊厳を傷つけかねません。本来、そういった思いに寄り添うことが、介護の本質だと思います。
利用者に維持と改善を強いるリスク
自立支援と言えば聞こえは良いですが、介護する側にとっては利用者を傷つけてしまうリスクをはらんでいます。なぜなら、先の入浴介助加算に限らず多くの科学的介護の算定要件には「身体状況が良くなっていくこと」が求められるため、介護度が悪化することは「悪いことだ」と捉えられてしまう可能性があります。
「自立支援」は多くの支援者に疑問に思われることなく「良いこと」とされ、各種加算の算定根拠となっています。
そのため、介護現場では大変な労力とコストをかけ「自立支援」につながるように努力を重ねていますが、そもそも「自立支援」とは具体的に何を指しているのか十分な議論が進んでいるとは言えません。
科学的根拠に基づいた目標が本当に正しいのかどうかを一度見直してみることが大切です。
例えば、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」には、必要とされる基準を基に「野菜に例えるとこのくらい」などの指針が記されています。
しかし、その指針には、誰もが食べられないであろう量が推奨されていることもあります。なかなか達成できない基準値を設けることに、はたしてどんな意味があるのでしょうか。人によっては苦痛でしかありません。
高齢者に限らず、誰もが「生活習慣上正しておいた方が良い」と思いながら、なかなか正すことができないものもあるかと思います。

自立支援だけでなく「寄り添う」姿勢を大切に
「頑張ればうまくいく」「努力すれば報われる」「リハビリを重ねれば回復する」などといえば聞こえは良いですが、それは本当に科学に基づいて取り組んだら実現することなのでしょうか。
実現できなかったとき、その責は「本人や介護従事者の努力が不足していた」ということになるのでしょうか。実際は頑張りや努力だけでは自立が困難なケースも少なくありません。
また、私たち介護従事者には「寄り添う」という抽象的な表現がよく使われますが、軽々と「もっと頑張りましょう」「きっと良くなりますよ」「まだまだこれからですよ」などと励まし続けることは無理を強いることにもなります。
人間はいずれ老いていくものです。だからこそ、介護するうえで利用者さんの生に対して、真摯な態度と姿勢を持つことが何よりも大切なのではないでしょうか。
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