認知症予防のひとつとして、他者との交流が効果的といわれていますが、コミュニケーションが苦手であったり、極力一人で過ごすことを好む方もいらっしゃいます。
そういった高齢者には、どのようなサポートが適切であるのでしょうか?
この記事では、交流の機会が少ない高齢者へのサポートの仕方や適切な介護サービスの活用方法などを紹介していきます。
遠方の一人暮らしの親が心配だけど、本人は関わりが苦手…
1人暮らしの親の生活が心配な場合には、介護サービスをうまく利用したいものですが、本人の性格によっては利用が困難な場合もあります。
ここからは、私が過去に関わった方の事例を紹介します。
事例:Eさんの場合(50代・女性)
Eさんには遠方に暮らす父親Tさん(80歳)がいます。
Tさんは現在一人暮らしをしていますが、ここ最近、物忘れがひどくなっているのではないかとEさんは感じ始めました。
EさんがTさんの家に用があって行った際に、冷蔵庫に賞味期限切れのものが多く残されていることに気づいたのです。
Tさんはもともと几帳面でそういったことは今までありませんでした。
また、同じものを何度も購入した形跡があったり、会話の中で同じことを何度も聞いてきたりすることにも違和感を覚えていたのです。
Eさんは介護の仕事をしている友人にそのことを相談してみました。
すると、友人は「ケアマネージャーに相談して要介護認定の申請をしてみたら?その後はデイサービスに通ってみるのはどうかしら?日中だけでも他の人と関わったり、スタッフが様子をみてくれたりする環境が良いと思う」とアドバイスをくれました。
しかし、Eさんにはその提案がうまくいかないような気がしてしまったのです。
Tさんは、昔から口数が少なく友達がいない性格だったため、仮に要介護認定を受けたとしても、デイサービスに行きたがるとは思えなかったのです。
しかし、父親の家はすぐに行ける距離にはありません。遠方に住む親を心配する一方で生活を変えるわけにはいかないと悩むEさんなのでした。
訪問介護サービス+見守り機器の活用で高齢者の生活をサポート
遠方に住む親に対して、近所の方や友人など、気軽に頼れる人のサポートがあると安心できるものですが、本人が他者と関わるのが苦手だとそれができないこともあります。
そういった場合は、どのようなサポートをするのが適切なのでしょうか?
続いて、同じように他者と関わるのが苦手な父親を持つYさんの事例を紹介していきます。
事例:Yさんの場合(50代・女性)
Yさんは前例のEさんと同じように遠方一人で住む父親(85歳)がいました。
Yさんの父親は辛うじて歩けますが歩行が不安定であることと、軽度の認知症により要介護1の認定を受けていました。
父親は他者との関わりが苦手で一人でいるのが好きなタイプです。
その性格を知っていたYさんは、ケアマネと相談し、訪問介護サービスで生活援助を頼むことにしました。
しかし、訪問介護スタッフが来てくれる時間には制限があり、当然いつでも家にいてくれるわけではありません。
そこで、Yさんが選択したサポートは見守り機器を付けるということでした。
購入した見守り機器は、Yさんか父親のどちらかが電源をつけると部屋の様子が見られたり、会話ができたりするタイプのもの。
見守り機器を付けることに最初は抵抗があったYさんの父でしたが、電源を付けなければ相手が部屋を見ることができないタイプのものと知ると、付けることを承諾しました。
見守り機器を付けてからは、Yさんの父も何かあればすぐに娘に知らせることができる安心感で、精神的にも安定してきたそうです。
訪問介護スタッフが来て連絡事項があるときにも、その見守り機器を通してテレビ電話のような形でYさんに状況を報告してくれるため安心です。
見守り機器のおかげで、遠方でも互いに安心して生活できるようになったといいます。
上記のように、
- 遠方に親がいて心配
- 一人暮らしはできているが認知症のような症状がときどき見られて心配
- 他者と関わるのが苦手
などという場合であれば、訪問介護サービス+見守り機器で高齢者の生活をサポートするという選択肢もあります。
他者とのコミュニケーションが苦手という方には、デイサービスのような複数の人と関わる場よりも1対1の訪問介護サービスのほうが適切であるかもしれません。
最初は自宅に他人を入れる訪問介護サービスに抵抗があるかもしれませんが、時間をかけて信頼関係を築いていければコミュニケーションの苦手な方も心を開けるようになる可能性もあります。
実際に訪問介護スタッフに伺うと「最初は嫌がられたけど、時間が経つにつれ受け入れてもらえるようになった」といったケースはよくあるそうです。
無理に友人や趣味はつくらなくて良い
よく高齢者の健康維持や認知症予防に趣味活動や他者との交流が効果的という話を耳にします。
しかし、趣味活動や友達づくりが好きな方ばかりではありません。
他者と関わるのがあまり好きではない方に対し「効果的と聞いたから」といって無理に友達づくりや交流の場への参加を強要するのは逆効果です。
その方にはその方に合ったペースや空間があります。
一人でいることを「心地よい」と思う高齢者であれば、他者との交流を強要せず、その方に合った環境でサポートしてあげることに考えをシフトしていくようにしましょう。
ポイントは「高齢者自身がこれまでと変わることなく過ごせる環境づくり」です。
本人が心地よいと思う環境はどんなものであるかを考えて、それに沿ったサポートをしてあげることが大切です。
本人の性格に合わせたサポートをしていこう
人はそれぞれ、これまで歩んできた人生も違えば、性格も違うものです。
最近ではネットの普及により、さまざまな情報が目に入るため、「高齢者に対する対応方法」などという記事を見れば、ついそれを試してみたくなるものだと思います。
しかし、上記でお伝えしたように高齢者は一人ひとり違いがあり、万人に合った方法はなかなか存在しません。
本人の性格や特徴を今一度思い返し、情報や対応方法が本当に合っているかを考えてみましょう。
適切なサポート方法が思いつかないときには、地域包括支援センターやケアプランセンターに相談してみるのも有効です。
高齢者と家族がお互いに無理することなく、自然体で安心できるような空気が介護の理想的な環境づくりであるといえます。