「もう少し楽に介護ができたらいいのに」
「最近介護がきつくなってきた」

このように感じている方もいるのではないでしょうか。

厚生労働省の『令和元年労働者死傷病報告』によると、社会福祉施設で発生した休業4日以上の労働災害では、「動作の反動・無理な動作」によるものが3,433件報告されており、作業別にみると介助作業での被災が84%にのぼります。

このように労働災害を引き起こす可能性も高い介助・介護ですが、身体的な負担を少なくしながら介護をする技術があります。

それが「ボディメカニクス」です。ボディメカニクスを意識することで、介護が楽になり、介護を必要とする方の負担軽減につながります。今回は、そんなボディメカニクスについて理学療法士の視点から解説します。

ボディメカニクスとは

ボディメカニクスは、「ボディ(身体)」と「メカニクス(力学)」を合わせた言葉で、力学的関係を活用した介護の技術や考え方だと言えます。特定の動作だけではなく、次のようにさまざまな動作に活用できます。

  • 立ち座り
  • 横になる
  • 歩く
  • 起き上がる
  • ベッドに乗り移る など

ボディメカニクスを活用すると、介護者は必要最小限の力で介護ができるため、身体的負担が少なくなります。

ボディメカニクスの基本原則

教科書などにより表現方法に多少の違いはありますが、ボディメカニクスには基本原則があります。

【動画】ボディメカニクスの8原則を知って効率的に介助を行う1.重心を近づける

要介護者と介護者の重心を近づけることで、安定性が高まり、力が伝わりやすくなります。

【例】立ち上がりの際に要介護者から離れたまま介助を行うと、力が入りづらく不安定になるため、より多くの力を使う必要があります。

2.体を小さくまとめる

要介護者の体を小さくまとめると、摩擦が少なくなり介護がしやすくなります。

【例】ベッドに仰向けになっている要介護者を頭側に移動したい場合、膝を曲げてベッドとの接触面を少なくすると移動しやすいです。

3.支持基底面を広くする

床と身体が接触している面の広さのことを支持基底面と言います。その面積が広いほど安定するため、支持基底面を広く確保することを意識しましょう。

【例】両足を閉じた状態よりも、両足を開いて介護をするほうが支持基底面が広がるので、体の安定性が高まり力を使いやすくなります。

4.膝を曲げて重心を下げる

重心を下げることでさらに安定性が高くなります。

【例】同じ支持基底面でも、膝を伸ばしている状態と膝を曲げている状態では重心の位置が変わります。介助をする時には、膝を曲げて腰を落とし、安定する姿勢を取りましょう。

5. 足先を動作方向に向ける

介護者は移動する方向に足先を向けると体を捻らずに介助を行えるため、重心の移動がスムーズになります。

【例】移乗を介助する時には、移動方向に足先を向け、体を捻るのではなく膝の屈伸を利用しながら介助を行いましょう。

6.大きな筋肉を使う

腕だけではなく、足や腰など、大きな筋肉を全体的に使うことで体の負担が少なくなります。

【例】立ち上がりの介助を行う際に腕だけで持ち上げるのではなく、介助者が少し膝を曲げて、膝を伸ばす力も使うと負担が少なくなります。

7.水平に移動する

要介護者の移動が必要になった際には、上に持ち上げるより水平に移動するイメージで介助をすると良いです。

【例】仰向けの方を頭側に移動する場合は、上に持ち上げるのではなく水平方向にスライドさせるようにします。このとき、要介護者の体を小さくまとめ、摩擦を減らすためのスライディングシートなどを使うとより楽に介助できます。

8.テコの原理を利用する

テコの原理は、小さな力で大きな力を生み出すことができます。

この原理を利用して、体の一部を支点にすると、小さな力で介助ができるようになります。

【例】横向きに寝ている状態から起こす際には、要介護者の両足をベッドの外に出し、骨盤を支点にして肩や背中を支えながら起き上がりを介助すると小さな力で起き上がりをサポートできます。

在宅介護をもっと楽に!プロの介護士も実践するボディメカニクス...の画像はこちら >>

ボディメカニクスを活用した具体例

次にボディメカニクスを活用してどのように介護をするのか、環境面を含めて具体例を挙げながら解説します。

寝返り

まず、ベッドの高さを調整します。ベッドが低すぎると介助者の体が前屈みになりすぎてしまい、腰に負担が生じるため、適切な高さまでベッドを上げます。

次に要介護者の両膝を曲げて、可能であれば腕を組んでもらいます。そうすることで、体が小さくなり寝返りが容易になります。

環境にもよりますが、寝返りは介護者に向かって行うようにしましょう。そうすることで介護者の力を使いやすくなります。また、膝と肩を支えることでテコの原理を利用できます。

起き上がり

まず横向きになった状態から、両足をベッドの外に出します。介護者は両足を広げ、支持基底面を広く取り、膝を曲げて重心を下げます。

その後、要介護者の肩と背中を支え、もう一方の手で膝を持ち骨盤を支点にして起き上がりをサポートします。このとき、要介護者にできるだけ重心を近づけましょう。

立ち上がり

まずベッドの高さを調整します。低い状態から立ち上がろうとすると、前方への重心移動が多く必要になり、立ち上がりが難しくなってしまいます。

また、要介護者の足を少し引いた状態にします。立ち上がりを介助する際は、要介護者に近づき、少し膝を曲げて重心を低くした状態で介助します。

立ち上がりは、重心移動が非常に重要です。真上の方向に立ち上がりを介助するのではなく、前方に弧を描くように行いましょう。

ボディメカニクスと合わせて使うと良い福祉用具

これまで述べてきたように、ボディメカニクスを活用すると介護者は体の負担を少なくできます。

ただ、体の大きな要介護者や自発的に動くことが難しい方の介助は、どうしても負担が大きくなります。そこで、ボディメカニクスと合わせて使うと良い福祉用具について解説します。

介護用ベッド 高さ調整、背上げ、膝上げができる3モーター式の介護用ベッドがおすすめです。背上げ機能を使うと起き上がりが楽になり、高さ調整機能でベッドからの立ち上がりが楽になります。最近では、寝ている姿勢から座る姿勢までを電動で行える介護用ベッドも販売されています。 手すり ベッドに手すりをつけることで、要介護者が自分の力を使えるようになり、寝返りや立ち上がりが楽になります。ベッドにつける手すりは、汎用性の高い開閉式の手すりがおすすめです。 スライディングシート・スライディンググローブ 寝たきりの方など、ご自身で動くことが難しい方におすすめです。
スライディングシートやスライディンググローブを使用することで、ベッドと体の間で起こる摩擦を少なくでき、ベッド上での上下・左右移動が楽に行えます。
在宅介護をもっと楽に!プロの介護士も実践するボディメカニクスで腰痛予防を
福祉用具を併用しよう

まとめ

ボディメカニクスや福祉用具を活用すると、介護者の身体的負担は軽減されます。しかし、頭で理解できても実践となると難しいことが多いでしょう。リハビリ専門職や看護師、介護士などにアドバイスを求めながら、自分に合った方法を見つけていきましょう。

厚生労働省が出している「家族介護者支援マニュアル」によると、身体的負担を感じている家族介護者は約5割、精神的負担を感じている家族介護者は6割強にのぼります。

介護者の力だけでの介護が難しい場合は、介護保険サービスを利用しながら、介護者も要介護者も負担の少ない生活を送れるといいですね。

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