高齢者の身元保証サービスとは

民間が提供するサービス

近年、高齢者の身元保証サービスに関連するトラブルが多くなっています。

例えば、医療・介護施設へ入所する際に、身元保証人を求められるケースがあります。このとき、家族や親しい友人など頼る人がいないと、身元保証サービスを利用する必要性が出てきます。

このサービスは、公的なものではなく、一般社団法人やNPO法人、株式会社などが提供する民間のもので、一般的には「身元保証等高齢者サポート事業」と呼ばれます。

契約の種類によっては、身元を保証するだけでなく日常生活支援、死後の対応等のサービスも提供しています。

その一方で、契約や事業者の経営破綻に関するトラブルが発生しており、2021年には100件の消費者生活相談が寄せられました。

身元保証等高齢者サポート事業の特徴

こうしたトラブル事例を受けて、このたび総務省が初の全国調査を実施。その結果、高齢者に対する身元保証サービスには次のような特徴があることがわかりました。

①判断能力が不十分になることも予想される高齢者が契約の主体

財産管理サービスの契約と同時に任意後見契約※を締結している事業者が多いため、判断能力が不十分になることを、あらかじめ想定していると考えられます。

認知症や障がいの場合に備えて、自らが選んだ人(任意後見人)に代わりに、してもらいたいことを決めておく制度

②死後事務なども含めると、契約期間が長期にわたる 身元保証サービス事業者の約8割が死後事務支援などを含めたサービスを提供。
このことから、事業者は利用者の生前から死後に至る長期のサービスを見越していると推測できます。 ③サービス内容が多岐にわたり、提供の方法や費用体系に決まりがなく、事業者の比較検討が難しい それぞれの事業者が用意した契約書は形態がさまざまで、サービス提供プランも事業者によって異なり、費用体系や金額の大小も事業者によって千差万別。そのため、複数の事業者を比較検討することが難しくなっています。 ④契約金額が高額で、サービス提供の前に支払いが発生する トラブルになりやすいのが、高額な費用。少なくとも100万円程度かかることが多く、また預託金などの項目でサービスを提供する前に支払わなければならないことが一般的になっています。 ⑤契約内容が適切に行われているかを判断できる人がいないケースが多い 死後事務などのサービスについては、適切にサービスが行われているか遺族や相続人が確認するしかありません。
しかし、そもそも頼れる人がいない高齢者が多いため、どのように死後事務が行われているのか確認できる人がいないという問題もはらんでいます。

介護サービスに対する信頼性を損ねる可能性も

実際に寄せられたトラブル事例

国民生活センターでは、身元保証サービスで起きたトラブル事例をまとめ、公表しています。

そのなかで、介護事業者ともかかわりがあった事例をピックアップして、その要点をまとめてみました。

【事例1】 他県で介護施設に入所している義母の担当ケアマネージャーから「役所などに手続きをしに行くとき付き添いをするサポートが1時間3,000円で受けられる」という話を聞いた。義母のところに行くのが難しいという事情もあり、この事業者に問い合わせたところ入会金が10万円、月額1万円を払わないと24時間サポートを受けられないなどといわれ、諸費用で約30万円かかるとこがわかった。毎月1万円を長期的に支払っていくとなると負担が大きいため、解約したいという相談があった。 【事例2】 老人ホームへ入居することになったが、入居の際に身元保証人が必要だということで、介護事業者から身元保証サービスを勧められた。
後日、老人ホームで長時間にわたって契約の説明を受けたが、内容が理解できず、そのまま契約。担当者に100万円を支払った。あとになって契約内容に生活支援サービスや葬儀サービスなどが含まれていることがわかり、身元保証以外のサービスを解約したいと連絡があった。

上記の事例のように、ケアマネージャーや介護事業所を通じて身元保証サービスに申し込み、トラブルにあった例も少なくありません。

こうしたトラブルの原因とも考えられているのが「重要事項説明書※」がないこと。総務省の調査では、2割程度しか重要事項説明書を用意していないことがわかっています。

※契約を締結するにあたって、重要な事項が記載されている書面のこと

不動産契約などの場合は、重要事項説明書の提出が義務付けられていますが、身元保証サービスではこうした制度がありません。

身元保証サービスと介護事業者の区別がつかない

もう一つの問題として考えられるのが、介護事業者との信頼感を損ねるリスクです。

例えば、ケアマネージャーや施設の担当者から紹介された場合、たとえ介護事業者側が身元保証サービスの実態を知らなかったとしても、利用者側から見れば、紹介した側にも責任があると感じるでしょう。

介護サービスの提供には、事業者と利用者との信頼関係が大切になります。最初の契約段階で不信感を招いてしまっては、その介護事業者を敬遠するようになるかもしれません。

そのため、介護事業者としては紹介する身元保証サービス事業者がどのようなサービスを提供し、どのような契約をしているのか実態を把握しておくことが大切になります。

身元保証サービスの活用法

利用者との契約の際に立ち会う

介護事業者には、身寄りのない高齢者を支援することも求められています。しかし、現実的に身元保証がない方との契約には死後事務などのリスクがあるのも事実です。

身元保証サービスを紹介して利用者と不要なトラブルは避けたいところですが、事前に介護事業者が身元保証サービス事業者の実態を知るのは難しいでしょう。

ケアマネージャーや施設側の義務ではありませんが、どうしても身元保証サービスが必要になった場合は、契約の場に立ちあい、契約内容をしっかりと確認しておくことがポイントです。

その際、利用者の視点に立って、その契約がどのような意味を持つのか、身元保証サービス事業者に対して、詳細を尋ねましょう。

また、預託金の適切な管理や判断能力が不十分になったときの取扱いなどについても、丁寧に説明してもらうなど、利用者の利益を守るように働きかけると良いでしょう。

信頼できる事業者を紹介しよう

すべての身元保証サービス事業者がトラブルを引き起こしているわけではなく、きちんとその人に合ったサービスを提供している事業者もいます。

ただ、現状では法整備がされていないため、上記のような事業者も乱立しているのが現状です。

そこで、信頼できる事業者かどうかを判断する材料の一つが「重要事項説明書」の有無。この書類があるだけで、利用者に対して、きちんと説明する意欲があるのかどうかがわかりやすくなります。

現状では約2割しか用意していないようですが、今後何らかのルールが設けられる可能性が高く、重要事項説明書を用意する事業所も増えてくるでしょう。

仮に重要事項説明書がない場合は、介護事業者やケアマネージャーがしっかりと確認して、利用者がトラブルに見舞われることがないよう支えることが大切です。