説明が不十分という声も上がる
鎌倉市の介護付き有料老人ホームで建て替えに伴い、入居者に退去が求められており、利用者の間で混乱が広がっています。
当施設は、2022年7月時点で30人以上の入居者が生活している施設。建物所有者の不動産会社によると、約5年前から老朽化による建て替えを検討し、自治体との協議をしていたといいます。
建物は築54年で、2000年代には一部改築されたものの、老朽化が懸念されていました。 そして、昨年7月に建て替えの計画が決まり、2024年9月から新築工事の予定だと鎌倉市のホームページで公開。
ここで波紋を呼んでいるのは、現入居者への対応。建物を所有する不動産会社は、2023年8月末までに全入居者へ退去を求め、施設側からも通知があったとされています。
ただし、入居者からは「説明が不十分だ」「閉鎖すると知っていたら入居しなかった」など、憤りの声が上がっており、県は施設からの報告を求めると同時に真摯な対応をするよう行政指導しました。
行政による介入も
この問題について、富津市天羽地区地域包括支援センターのセンター長を務める藤野雅一さんにお話を聞きました。
─ 建物の建て替えのために一時閉鎖したり、法人が倒産した場合は、転居先はどのように探すのでしょうか。
恐らく一般的には、県をはじめとした行政が介入することになると思います。基本的には事業所が周辺同業者にあたるなどが初期動作となるでしょう。
─ 本件は、施設の老朽化に端を発する問題ですが、施設選びにおいてサービス内容だけでなく建物状況や建て替えの予定なども確認しておくべきでしょうか?
基本的に建物の法定耐用年数はRC造と鉄骨造は39年、木造は17年とされています。入所先を検討している段階で建物の状況も確認するのが望ましいとは思いますが、あまりそこまで気にして入所先を選定されているケースはあまり聞かないです。
また、入所時は契約書の確認も重要です。入居後90日以内に契約解除する場合は、一時金が返還されますが、30.9%の事業所で重要事項説明書にその旨の記載がないなどの課題があります。
今後も各地で老朽化の影響が出てくることが想定される
「東京ボランティア・市民活動センター」の『老朽化した社会福祉施設の建て替え問題に関する提言』によると、東京都内には建築後 30 年を超える老朽化した社会福祉施設が多く 、建築基準法新耐震基準に適合しない建物も多く存在しているとのこと。
建物の老朽化問題は、社会福祉施設全体の課題といっても過言ではありません。この状況は、日本各地で生じている問題ではないでしょうか。
建て替えによる退去時は事業者が転居先の手配に協力してくれることは想定されますが、転居先の確保を約束するものではありません。建物の老朽化による転居探しをすることがないよう、施設選びをする際には建物の状況にも気を配ると安心かもしれません。

みなさんのご家族が入居する施設でも、同様の事態が起こる可能性もあるということは頭に入れておくとよいでしょう。