1990年代の後半からラブドールの顔の造形を担当しているという同社の造形師さんは以前、『GQ』誌のインタビューで、ドールの顔は「能面」が理想であると語っています。
広報担当の方によれば、こんな不思議なこともあったそうです。
「ラブドールを購入されてから1週間後くらいに、自宅で撮影したドールの写真を持ってショールームに挨拶にいらっしゃった。何枚も見せてもらったあとにその方から、『写真によって違いがあるのがわかりませか?』と尋ねられました。確かに私も、撮影日によって何となく表情が違うような気がするんです。
もしかしてと思い、『……まさか、これとこれが初夜の前後ですか?』と聞いたら、その通りでした。ドールの見た目は変わっていないはずなのに、何も知らない私が写真を見ても、言葉でうまく説明することはできませんが、やっぱりどこか違う気がするんですよ。不思議なことですが、そういうことがあるのです」
オリエント工業のラブドールには人間の女性のような名前が付けられています。志乃、まどか、沙織、りり……。
今や私たちの未来にレプリカントのような人型ロボット登場する可能性が、現実的に議論される時代になりました。オリエント工業のもとにも、ドールに声を出させてはどうか、動かしてはどうかという要望が何度も寄せられているそうですが……、
「それをやってしまったら、イメージが固定されてしまい、ラブドールの魅力がなくなってしまう。私たちはそう考えています」
とのこと。ラブドールに私たちが強く惹かれる一因は、こういったこだわりにあるのかもしれません。
◆ケトル VOL.36(2017年4月14日発売)