書店で表紙を見たとき、あっと声を上げそうになった。男性の踊り手が跳躍している絵の横に「DANGER」の文字。
この発見は物語の中身にもつながっていた。バレエダンサーがいかに怪我や痛みと隣り合わせで踊っているか。トーシューズがどれほど体に負担をかけるか。バレエの華麗さは、過酷さや危うさの上に成り立っていると本書は教えてくれる。そして、シベリアに抑留されているさなか、まさに危険を顧みずに踊ることの喜びを選び取ったダンサーの運命が、この作品には描かれていた。
舞台は1992年。週刊誌記者の長瀬一平と、同じ出版社の先輩で月刊誌編集者の水野果耶は協力し、それぞれの雑誌でボリショイ・バレエ団来日記念の連載を書くことになる。長瀬はバレエの経験も知識もないが、水野は一流のバレエダンサーを志し、怪我で挫折した過去がある。そんな2人が世界的に有名な振付師、久我一臣への取材を始める。
久我は20年生まれの72歳。「日本バレエの始祖」とされるエリアナ・パヴロヴァから13歳の時にバレエを習い始めた。
翠たちは新潟県から「満蒙開拓」の名目で入植した開拓村に住んでいたが、戦争が激しくなると看護婦として働くことになる。ある日、ソ連軍が侵攻してくる。開拓民を置いて逃げた関東軍。迫り来るソ連軍。女性には命の危険だけでなく、性暴力の恐怖が覆いかぶさる。「生きて虜囚の辱めを受けず」という戒めと「何があろうと生き延びなさい」というベテラン看護婦の言葉との板挟みの日々。やがて久我同様、シベリアの収容所に送られる。
久我や翠らが巻き込まれる過去の戦争の話と、長瀬と水野が取材を進めていく今の話が交互に現れ物語は進む。「戦争を始めるのは権力者たちだが、翻弄されるのは常に弱者だ」。
作者の村山由佳は両親から戦争の話を聞いて育った。父はシベリアに抑留されたと村山本人から聞いたことがある。円熟の作家が、覚悟を決めて記した渾身の一作である。
(共同通信編集委員 田村文)
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.17からの転載】











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