■パソコンを保有している世帯の割合は66.4%
総務省が2025年5月30日に発表した「令和6年通信利用動向調査」の結果によると、携帯電話及びスマートフォンのいずれかを保有している世帯の割合は97.0%、スマートフォンを保有している世帯の割合は90.5%だった。
一方、パソコンを保有している世帯の割合は66.4%と意外に低い。
この調査の個人別のインターネットの利用状況を見ると、過去1年間でインターネットを利用したことがあるのは、全体では83.1%だが、年齢によって差が大きく、15歳から59歳までは95%を超えるが、60~69歳では87.3%、70~74歳では71.7%、75歳以上は42.1%となっている。
このうちパソコンでインターネットを使ったことがあるのは、全体では45.4%で、年齢による差は意外と小さく、15~19歳が42.5%、20~59歳が60%弱、60~69歳では49.3%、70~74歳では33.7%、75歳以上は16.1%となっている。
今や、だれでもスマホを持っているのが当たり前の印象が持たれているが、パソコンでインターネットを利用している≒パソコンを持っていてある程度使っているのが6割に満たない、というのは意外に思う人も多いだろう。
■パソコンのインターネット利用率の大きな差
パソコンでインターネットを利用している率をパソコン利用率だとして、「令和6年通信利用動向調査の結果」を見てみると、地域による差、年収による差が大きいことが分かる。
全体のパソコン利用率は45.4%だが、最も利用率が低いのは青森県の29.4%で最も利用率が高いのは東京都の59.1%と2倍の差がある。
世帯年収でも、200万円未満では23.4%だが、年収が上がれば利用率も上昇し、600万~800万円未満で50.2%と過半数を超え、年収1500万~2000万円未満では71.0%となり、200万円未満の3倍の利用率になる。
世帯類型では、単独世帯(非高齢者)が64.5%と利用率が最も高く、高齢世帯(高齢者のみ)が30.1%と最も低く、大人が2人以下+子ども世帯のパソコン利用率は50.5%となっている。
これ以上細かい集計結果は示されていないが、大人が2人以下+子ども世帯を子育て世帯と考えれば、子育て世帯のパソコン利用率は全体の傾向と同様に、地域による差、世帯年収による差がかなり大きいのが実態だろう。
■子どもの教育環境にとってはパソコンがあったほうがいい
以前から、地域や世帯年収による子どもの教育格差が指摘されているが、自宅にパソコンがあるかどうかも子どもの教育にはかなりの影響があるはずだ。
新型コロナ禍の記憶は薄れつつあるが、全国の学校がいきなり休校になったことを覚えている人も多いだろう。あのとき十分な通信環境や機器が無かった家庭が少なくなかったことが、オンライン授業の導入の妨げとなった。
国立教育政策研究所の令和3年度(2021年度)全国学力・学習状況調査によれば、新型コロナによる休校期間中に「家庭(受信側)のPC・タブレット等の端末(スマートフォンを含む)が不足していた」という設問に対して、当てはまるが47.0%、やや当てはまるが35.3%にも上っている。
この結果は世帯数の比率ではなく、そう答えた学校数の比率であることには注意が必要だが、新型コロナ禍後も子どもの教育環境にとってパソコンがあったほうがいいのは間違いない。
パソコンは、インターネットでの調べもの、文書作成や計算、プレゼン資料作成など様々な用途に使われるが、昨今では生成系AIの劇的な進歩によって、特にプログラミングの領域では大きな変化が起きている。
■日本語は思っている以上に難しい
以前は、プログラミングを覚えることは、プログラミング言語の文法を覚える、いわば外国語学習のような苦労があったが、いまではコード自体は生成系AIが書いてくれるため、その意味を読み取ることと、いかに正しい指示を与えるかが重要になっている。
この時、重要なのは論理的で的確な日本語を書けることだ。
しかし、この日本語は我々が思っている以上に難しい。
以下の日本語の文章に関する問題は、国立情報学研究所の新井紀子教授が2018年に出版した『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』に掲載されていたものだ。
「アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。」
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
「セルロースは( )と形が違う。」
(1)デンプン (2)アミラーゼ (3)グルコース (4)酵素
新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)より引用
この問題の正答率は、なんと16.3%らしいが、問題文の体裁を変更するだけで、ずいぶん分かりやすくなる。
※編集部注:外部配信先では文字の大きさなどが異なる場合があります。その際はPRESIDENT Online内でご確認ください。
アミラーゼという酵素は
グルコースがつながってできたデンプン
を分解するが、
同じグルコースからできていても、形が違うセルロース
は分解できない。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
「セルロースは( )と形が違う。」
(1)デンプン (2)アミラーゼ (3)グルコース (4)酵素
※新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)より引用したものに、筆者が改行と文字サイズの変更を加えた
■スマホでは文章は短く、主語や句読点も省略しがち
我々は、文章を読むとき、頭のなかで文章の構造を解釈しながら、全体を理解しようとしている。英語の場合は、文章の所々に斜線を入れて、構造を理解するようにと習った人も多いと思うが、実は日本語でも同じだ。
文章の最初の一字下げ、句読点の正しい使い方、適度な改行などで文章のわかりやすさは大きく変わる。
スマホでは、文章は短く、主語や句読点が省略されることも多いが、パソコンでキチンとした文章を書く訓練を積めば、分かりやすい文章を書く能力も、複雑な文章を理解する能力も上がるだろう。
■最初の1台は2万~3万円の中古Win11で十分
とはいっても、パソコンは高いじゃないか、という意見もあると思う。
しかし、昔と違って、パソコンの進歩の速度はずいぶん緩やかになったので、5年落ちくらいのWindows11でメモリ8G、SSD256Gで3万円前後の中古ノートパソコンでも十分に使える。
パソコンを初めて買う場合は、自宅にはインターネット回線が引かれていない場合も多いと思うが、最近のスマホには無料か500円程度の追加料金を支払えば、パソコンでもインターネットが使えるテザリングという機能が提供されている。
既にパソコンを使っている人には当たり前だと思うが、スマホとパソコンでは画面の大きさが全く違うので、インターネットを検索したときに得られる情報量はパソコンのほうが格段に多い。
また、表計算ソフトなどで計算するならパソコンの方が圧倒的に使いやすいし、プレゼン資料などもパソコンのほうが作りやすい。パソコンとスマホをうまく使い分けることが大切だ。
初めてパソコンを買うときの注意点としては、最初の1台にはMacは勧めない、というものもある。もちろんMacのアーキテクチャは素晴らしいし、デザイン系や映像系では根強いファンも多く、機械学習系のデータサイエンティストにも愛用している人は多い。
しかし、Macのシェアは15%程度と言われており、世の中では主流とは言えない。
■世の中はWindowsユーザーが多い
最初の1台にWindowsマシンを勧める最大の理由は、世の中ではWindowsユーザーのほうが多いからだ。
身も蓋もないが、世の中は多数派を前提に様々な制度やルールができている。
年金や社会保険で専業主婦が優遇されていたかのように言われるのも、日本では専業主婦世帯が多数派を占めていたからで、年金水準には家賃がほとんど考慮されていないのも持ち家世帯が多数派であるからで、同様に企業が従業員に配布するパソコンのほとんどがWindowsマシンであるのもWindowsが圧倒的な多数派だからだ。
パソコンを使わない仕事も世の中にはたくさんあり、社会は様々な仕事によって成り立っているが、子どもの将来の選択肢を広げる、という意味ではやはりパソコンに小さいときから慣れ親しんでいるほうがいいだろう。
最近では、大学生でもキーボードが満足に打てない、ファイル操作に慣れていないといったケースも少なくない。
また、多くの小中学校で一人一台の端末が配布されるようになっているが、その多くはWindowsマシンではなく、タブレットやChromebookだ。
もちろん何もないよりは全然いいが、やはりWindowsマシンのほうが使える範囲は広いし、将来を見据えて操作方法に慣れるという意味でもメリットが大きい。
やはり一家に一台パソコンを、なのだ。
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宗 健(そう・たけし)
麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。
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(麗澤大学工学部教授 宗 健)