ダイエットを成功させるには、どんな工夫が必要か。日本体育大学体育学部の岡田隆教授は「食べるのものに含まれている脂肪の量を調整したほうがいい。
私が指導していた大食いの女性は、夜中に食事をとる習慣を変えられなかったが、脂肪の少ない食事に切り替えたことでダイエットに成功した」という――。(第2回)
※本稿は、岡田隆『日体大教授が教える「脂肪燃焼」食 運動0でお腹が凹む!』(講談社)の一部を再編集したものです。
■脂質制限はなにを基準にするべきか
「除脂肪」というと、糖質制限のように食事で脂質を一切摂らない印象を受けるかもしれませんが、そんなことはありません。調整して、いい体を手にしようということです。
まず、適正な脂質量がどれくらいなのかを知ることから始めましょう。厚生労働省が2020年に発表している「日本人の食事摂取基準」によると理想的なPFCバランス(カロリーを各栄養素からどれくらいの割合で摂るべきかの指標)はたんぱく質(P)が13~20%、脂質(F)が20~30%、炭水化物(C)が50~65%であると推奨されています(18~49歳の男女)。
これを日本医師会が発表している「1日に必要な推定エネルギー必要量」に当てはめて計算します。本稿の読者層に多いと思われる、30~49歳女性、身体活動レベルが低い(あまり運動習慣がない)で算出すると、1740kcalと出ます。これに先のPFCバランスを当てはめると、1740kcal×脂質(F)20~30%=348~522kcalと出ます。
脂質は1gあたり9kcalなので1日の脂質摂取量は38~58gとなります。これを1日3食で割ると1食12.67~19.3gが適正ということになります。この脂質量でどんなものが食べられるのか? 気になりますよね。

私たちにお馴染みのコンビニ食を例に説明しましょう。レタスやハム、たまごなどがセットになった女性に人気の「ミックスサンド」の脂質は17.6g。バランスが取れている印象の幕内弁当の脂質は27.5g。無意識に食べていたら1日の脂質量なんてあっという間に超過することが想像できたと思います。
■「太る食べ物」かどうかを見極めるべき
では、厳密に計算しないとダメなの? と思うかもしれませんがそれでは面倒で続きません。
一番簡単なのは、コンビニや市販商品の脂質表記を確認して、1食10g以上になるものをダイエット中は選ばない。まずはこんなところからスタートすることがお勧めです。1食10gを超えない意識をしていれば、多少であれば数値がわからないものを食べても太ることはありません。それは私が指導する一般ダイエッターの経験からも言えることです。
私が指導する一般ダイエッターがたどり着いた方法をご紹介しましょう。彼女はまず、超大食い。しかも好物はかつ丼、唐揚げ、酢豚、フライドポテト、たっぷりチーズがのったピザ、パフェなど脂質の塊ばかり。
「魚を食べなさい」と指導したところ「作りました!」と届いた写真は総菜屋でも始めるのか? というほど大量のあじの南蛮漬け。
玉ねぎ、パプリカ、にんじん、きのこなどたっぷりの野菜を使い、砂糖は『ラカント』に置き換え0カロリー甘味料です! と本人は満足気。細かく指摘をすると嫌になってしまうので、まずはコンビニで数値をみるところからスタートしてもらいました。
青魚はただ焼いただけでも脂質が高い、それを揚げたらとんでもないことになってしまう。数値を見る習慣がついた頃、彼女も自然と揚げ物を選ばなくなりました。
■真夜中に爆食してもどんどん痩せていった
それでも彼女が譲れないことは2つありました。1つはお腹いっぱい食べること。もう1つは仕事を終えた22時すぎの帰宅後、就寝直前の真夜中に夕食を食べること。
到底ダイエットしているとは思えない生活ですが、痩せました。しかも、体重の変化よりも、見た目の変化が大きく、腹筋がうっすらみえ、周囲の人から「痩せたね!」と声をかけられるようになったそうです。そう、ダイエットでは体重に意識を囚われがちですが、重要なのは見た目です。体重は減っても見た目が変わらなければ、数字を自己申告し続けないといけないですから。

彼女が好物で常備していたものに、冷凍ナポリタン(脂質16.7g)や、冷凍チャーハン(脂質34.2g)がありましたが、それを止めました。代わりに食べ始めたのが玄米に雑穀やスーパー大麦バーリーマックスを入れて炊いた米2合、十割蕎麦(乾麺1袋200g)など。
真夜中の就寝前に信じられない量を食べていますが(私よりはるかに食べている)、とりあえず脂質は低い。そんな彼女の結論が「会社で配られたクッキーを食べたら翌朝腹筋が消えました。カロリーではなく、脂質で見た目は変わるし、体重も太ります」とのこと。脂質を気にしてみる生活をぜひお試しいただきたい。
■たんぱく質は「太りにくい栄養素」
人間が活動する時に必要なエネルギー源になるのは3大栄養素、たんぱく質・糖質・脂質の3つだけ。一番多く使われるのは、体を動かす時。それ以外に、頭を使うときも、生きるために必要な内臓を動かすことにも、細胞一つ一つが生きるためにもエネルギーが必要です。
このエネルギーが使いきれずに余ると、体脂肪として蓄積されます。つまり、たんぱく質であれ、脂質であれ、炭水化物であれ、どれが過剰になっても、太ってしまうのです。ただし、この3つは、どれも等しく体脂肪になりやすいのではありません。

なりやすいものと、なりにくいものがある。それをきちんと押さえてコントロールすれば、たくさん食べても太りにくいのです。
3つの栄養素は、食事として食べた時、それぞれ熱を発生しながら、すなわちエネルギーを使いながら吸収されます。これを「食事誘発性熱産生」といいます。食事をした後、体が温まるのは、このためです。「食事誘発性熱産生」によって使われるエネルギーは、栄養素によってその割合が違います。
脂質は食べたカロリーの4%、炭水化物は6%、たんぱく質はなんと30%も食べたカロリーが失われます。なぜたんぱく質は、こんなにエネルギーが使われるのか⁉ それはほかの動物の肉という異質なものを、自分の体に取り込んで肉に変える(消化・吸収・代謝)には大きなエネルギーを要するからです。
■人類は「食べすぎ」に適応できていない
一方、食事誘発性熱産生で一番エネルギーを使わないのが脂質です。
脂質は食べて吸収したら、肝臓で代謝されるのではなくリンパ管に入り、脂肪細胞に届けられて体脂肪として蓄積されますし、体脂肪と同じ成分である脂質は変換する手間がさほどありません。
飢餓(きが)との戦いだった太古の時代、脂質によって命が繋ぎ止められたであろう事に想いを馳(は)せ、脂質そのものとその代謝システムへの感謝の気持ちが芽生える一方、エネルギー、特に脂質が余っている現代においては太るメカニズムになっています。太古にできた体で現代を生きる我々は、脂質を抑えて良い脂質を選ぶしか道はありません。

そもそも人類に、なぜ体脂肪がつくのか。これは数百万年の人類の歴史で培われた、飢餓に備える最強の生存戦略。このことは人類に限らず、冬眠する動物も同様です。冬眠前に木の実をたくさん食べて、体脂肪を蓄えて冬を越す熊がわかりやすい例。
人類はここ数十年で飽食の時代になりました。たった数十年で、です。人類進化数百万年からしたらもはや「点」レベルの出来事です。これが問題なのです。
たった数十年ではこの飽食に対応できる体には全く進化できず、食べ物が十分でない時代の体のままなのです。すなわち、効率よく体脂肪=エネルギーを蓄えられる個体こそ正義という体。これが、今では飢餓より肥満で死ぬ人の方が、圧倒的に多いというのが現実を作り出しているのです。
つまり体脂肪を落とすことは、我々の体の進化メカニズムから健康を考えた時にも、非常に理に適っていると言えるのです。

■糖質制限ダイエットは、あくまでも病人向けのもの
糖質制限は、3大栄養素のうち、糖質を敵視し、可能な限りゼロに近づけるダイエット法。我々はたんぱく質、脂質、糖質の3つからしかエネルギーを得ることができません。それなのにそのうちの1つを徹底排除していいのでしょうか。
生命は数十億年、その延長線上として人類は数百万年、炭水化物を重要な栄養素、そしてエネルギーとして摂取して活用してきました。それを極端に排除することは、体に何か大きな負担をかけることになると懸念されます。
糖質制限は糖尿病患者向けの食事療法としては有効です。しかしこれはあくまで病気という身体のメカニズムが正常範囲から逸脱してしまった非常事態への対応策であり、一般人が安易に手出しするものではありません。
除脂肪は、その点で糖質制限とは大きく違います。脂肪を排除するのではなく、厚生労働省が発表する適正量にしていきましょうというものです。健康を保ちつつ、脂質過多で肥満に陥ったり生活習慣病になることも予防できます。
それほど太る印象がない食品の中にも脂質が高いものは数々あります。商品に添付された成分表示の脂質を確認して、脂質が高ければ、別の好きなものに置き換えるだけ。これならストレスなく続けることが可能です。

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岡田 隆(おかだ・たかし)

日本体育大学 体育学部教授

1980年生まれ。都立西高校、日本体育大学卒業、同大学院体育科学研究科修了。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。トレーニング科学、スポーツ医学を専門的に学び、身体作りのスペシャリストとして活動。究極の実践研究としてボディビル競技を続けており、2023年にはWNBF世界選手権プロマスターズ部門で優勝を果たす。指導者としては、2012年から日本オリンピック委員会強化スタッフ(柔道)、柔道全日本男子チーム体力強化部門長を務め、2016年リオデジャネイロオリンピックでは、史上初となる柔道男子全7階級メダル制覇、2021年東京オリンピックでは史上最多5個の金メダル獲得などに貢献。これまで、文部科学省スポーツ功労者顕彰、日本オリンピック委員会奨励賞、讀賣新聞社日本スポーツ賞など受賞多数。

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(日本体育大学 体育学部教授 岡田 隆)
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